ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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大人のためのポケモン

観賞手段:動画サイト
最早説明の必要もない人気ゲーム「ポケットモンスター」世界をテーマとしたのが本作「ポケモンコンシェルジュ」だ。主人公のハルはちょっと不運な大人の女性。恋人に振られ、仕事も上手くいかない日々に別れを告げ、ポケモンリゾートへと就職した。そこはポケモンと人がお客として訪れる不思議なリゾートアイランド。皆をもてなすコンシェルジュになったハルは、戸惑いながらも島に馴染んでいこうとする。
本作はストップモーション・アニメーションであり、登場する人やポケモンは人形で表現されている。フェルトのような表面やストップモーション・アニメーション独特の動きに、CGとはひと味違った暖かさと安心感がある。こう書くと、映像美に特化した子ども向けのようだが、実は大人向けなのが本作。社会人なら共感できるハルの人物像と、不思議なポケモンリゾートで働く職業モノとしての面白さは、大人にこそお勧めしたいポイントだ。
ハルは真面目だが空回りしがちな女性。ポケモンリゾートの上司から「まずは客として過ごすこと」を命じられた際も、何をすべきか見失った挙げ句、詳細なレポートを(恐らくはパワポ的なツールで)まとめてプレゼンを始めてしまう。自分を確立していないからこそ社会人としての形に振り回されているというわけで、その不安と余裕の無さは社会人だからこそ共感できる「あるある」だ。そんなハルは自分に何ができるかを探していく。そう簡単に答えが見つからない中、進化によって急激に変化したポケモンを眺めて「自分も進化したい」と呟くシーンは、社会人としての普遍的な悩みとポケモンの生態が上手く重ね合わされた、本作を象徴する一コマといえる。ポケモンリゾートには様々なポケモンたちが訪れる。カイリューに乗せてもらって空を飛び、神秘的なコイキングの進化を目撃し、ミズゴロウの水を浴びられるのだから、ファンとしては夢のような島だ。そして、人間と意志疎通ができるが、人語は喋れないというポケモン独特の距離感が様々なドラマを生み出していく。例えば、ある話には引っ込み思案で大きな声を出せないピカチュウが登場。トレーナーの少年は、パブリックイメージとしての「ピカチュウらしさ」にこだわり、アイドルの如く可愛く活発に振る舞って欲しいと願っており、両者のすれ違いと自分らしさがキーとなる。これなどは相手が動物だと成立しづらい、ポケモンならではのエピソードといえるだろう。本作を観て再確認するのは「ポケットモンスター」世界が持つ広がりだ。「ポケットモンスター」が28年間愛され続けているのは、ゲームとしての面白さに加え、見る者の想像力を刺激する、芳醇な行間の存在が大きいだろう。こうした行間から生まれた作品の一つが本作「ポケモンコンシェルジュ」であり、物語を少し大人向けに寄せつつも子どもも楽しめる「ポケットモンスター」作品として違和感がない辺り、原作の懐がいかに深いかが分かる。もちろんそこには「ポケットモンスター」世界へのリスペクトがあるわけで、幸せな映像化ともいえるだろう。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
4.5
音楽
4.5
オリジナリティ
5.0
演出
4.5
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-01-31 14:53:04

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