ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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屈指の名エピソードに、新たな解釈が加わる

観賞手段:ビデオ/DVD、劇場
ネタバレ
「機動戦士ガンダム」はロボットアニメに人間ドラマを盛り込んだことで話題となったが、中でも特に人間ドラマに振りきった回が15話「ククルス・ドアンの島」だ。孤島で撃墜された主人公アムロは、謎の男ククルス・ドアンと、彼を慕う子どもらに出会う。ドアンはかつて兵士で、子どもたちの親を殺した作戦に携わっていたが、良心の呵責から脱走。子どもたちを守るため、島を訪れる軍隊と戦っていたのだ。アムロは、彼を戦いから解放すべく、自分のモビルスーツ(人型機動兵器)ガンダムで、ドアンの機体・ザクを海へと投げ棄てるのだった。
ロボットアニメが関連商品のCM的な側面を持つことは「機動戦士ガンダム」の放映当時である1979年にも広く知られてはいた。そうした中、兵器としてのロボットや戦争がもたらす悲惨さを描いたのが「ククルス・ドアンの島」だ。もちろん、こうした取り組みは「機動戦士ガンダム」の専売特許というわけではない。本話を印象深いものとしたのは、30分という短い時間で描かれる人間ドラマの濃密さだろう。親を失った子どもたちを、その親を殺した作戦に携わった脱走兵が育てるという設定は、これだけで1つの作品が成り立ちそうな深みがあり、見る者の想像力を刺激する。初放映以降、ドアンの過去や子どもたちのその後を妄想するガンダムファンは少なくなかった。そして、名エピソードであるにもかかわらず、後の劇場版やコミック「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」でカットされたことで、改めて注目が集まった……という経緯がある。
そんな「ククルス・ドアンの島」が単体の劇場アニメとして再構築されたのが「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」。監督は「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを務め、同作を最も深く理解する一人である安彦良和氏。それだけに「機動戦士ガンダム」の魅力が盛り込まれた作品となっている。その魅力とは、多感な少年たちの寄り合い所帯が作り出す人間ドラマと、モビルスーツの活劇だ。
時系列は「機動戦士ガンダム」の中盤。アムロたちが乗り組む軍艦・ホワイトベースは、物語終盤のようにまとまってはおらず、いまだ避難民の寄り合い所帯の色が残っている。生え抜きの軍人である指揮官・ブライトと、無理矢理軍に徴用された元避難民であるアムロたちは、立場の違いから不協和音を奏でるのだ。アムロにしても、近年のゲームでは伝説のパイロットとして超人的な側面が強調されることが多いが、「ククルス・ドアンの島」では原作中盤通りに年相応な少年として描かれている。ガンダムに乗れば強いアムロも、自分を敵視する島の子どもたちや、得体の知れないドアンと生身で向き合わなければならない。普通の人でもしんどい状況だが、対人関係に長けていないナーバスなアムロがここに放り込まれることに、物語としての面白みがある。じっくり描写できる108分の劇場作品となったことで、「ククルス・ドアンの島」の魅力が改めて浮き彫りにされたといってもいいだろう。多感な少年たちが寄り合い所帯で衝突しつつ繰り広げる人間ドラマを再び味わえるという意味で、「おかえり、ホワイトベース隊」というキャッチコピーは的確だ。
そして、本作はモビルスーツによる活劇も面白い。原作では「モビルスーツの格闘技を見せてやる」という台詞とともに、ドアンが素手のザクで飛び道具を持った敵を倒す様が描かれる。本作でもこうしたテーマに向き合っており、人間臭い動きをするザクやガンダムが格闘戦で戦う様に迫力がある。CGで描かれるモビルスーツは作画の崩れもない上にディテールも細かく、「機動戦士ガンダム」世代が脳内で妄想していたような画面。この技術を使った「機動戦士ガンダム」本編のリメイクを期待したいところだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
4.5
作画
4.5
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
4.5
演出
4.5
声優
5.0
4.5
満足度 4.5
いいね(0) 2024-02-29 15:54:55

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