坂本夏樹さんの評価レビュー

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混ざり融け合う不可思議

観賞手段:劇場、動画サイト
大学生編の制作も発表され、話題に事欠くことなく
ますますファンの輪の拡大が加速する
「青春ブタ野郎」シリーズ。
もともとアニメ好きの多い音楽業界ですが、
中でも特に人気が高い作品だと感じています。

実力ある声優陣による高い演出力で展開する
未体験のストーリーに魅了されて、
などは今更説明する必要もありませんが、
音楽業界で特に人気が高い理由には
EDテーマ「不可思議のカルテ」が
大きく関係しているように思います。

音楽業界にいなくとも「アニソン進行」と、
もはや定義づけられたと言っても過言ではない
展開、コード進行などによる
アニソン・フォーマットの存在を
ご存知の方は多いはず。

「不可思議のカルテ」はそんな定義を
外れているからこそ、新鮮に「音楽」として
音楽家達の意識に
突き刺さったのだと考えています。
楽曲が印象的だからこそ
連動してアニメがさらに深く残り、
結果、一つくくりの作品としての
評価に繋がっていったのだと思います。

曲名をネットの検索欄に入力すると
だいたいは「曲名 歌詞」
というふうに予測変換されますが、
「不可思議のカルテ」は、
トップの予測変換が「曲名 コード」
と表示されるはずです。
楽器を演奏されない方には「コード」
の意味ももしかしたらわからないかもしれないので、
このことからも、「不可思議のカルテ」が
いかに音楽家達に引っ掛かってきたかが窺えます。

「不可思議のカルテ」と言えば、
予測変換が「曲名 コード」になるのも
うなずける難解に転調を行き来するコード展開でしょう。
ただただ難しくしてあるわけではなく、
転調という、一般的な進行線ならば交わることのない
コードや調の、歌詞から引用するならば
まさに融け合いで、作品が有する
世界線の混じり合いを
表現しているとしか考えられません。
絵や動き、言葉ではなく、
音で作品を表現しているからこそ
更に想像力が掻き立てられ、
より作品の立体感が増していると感じています。

確かに音楽理論を有していれば
更に深く楽曲を理解することも出来ますが、
「不可思議のカルテ」は、むしろ
音楽理論を知らない人の方が作品世界を
楽しむことが出来るかもしれません。

専門的に言うと「部分転調」と呼ばれる
調の行き来が、とてもスムーズに連なり
1曲にまとまっていることで、
作品のテーマにもなっている
現実/非現実など、相反するものが
一つの世界線に共存する不思議
を音楽で表現されているのです。

僕たち音楽家は、「おお、部分転調した」とか
理論で捉えてしまいますが、
音楽理論を知らない方には、
「あれ?今なんか一瞬雰囲気変わった?
いや、気のせいだったか」
という、夢現なふんわりした違和感に
感じるはずなんです。
そんな感触は、まさに作品の世界観
そのものではないでしょうか?

もし音楽の記憶が全て無くなってしまったとしても、
「青春ブタ野郎」シリーズをもう一度楽しめる
未来があるなら、
それはそこまで悲観することでもないのかも
とさえ思えてしまいます。
プロレビュアー
坂本夏樹
坂本夏樹
ストーリー
-
作画
-
キャラクター
-
音楽
5.0
オリジナリティ
-
演出
-
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2023-12-18 18:25:05

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