「拡散するアキハバラ」 地方オタクのアキバ事情
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「地方オタクのアキバ事情」連載コラム第1回(文:日向有馬)
第1回「拡散するアキハバラ」
1.2008年へ向けて ―オタクブームは収束する?
振り返ると、「萌え」という言葉が流行語大賞のトップテン入りしたのは、2005年のことだった。
あれからすでに3年が経っている。マスメディアの「アキバ系ブーム」は、思いのほか長引いたものだ。2007年にはとうとう紅白歌合戦に「アキバ枠」ができてしまった。
メディアクリエイトの「2008オタク産業白書」によれば、2007年のオタク市場規模は1,866億円超で、対前年比102.5%の伸びを示しているという。同白書はこれを「ライトオタクの増加による市場の拡大」とみる。(※参照1)
国内では市場の拡大、一方海外に目を向ければ日本のマンガ・アニメ・ゲーム関連コンテンツは「クールジャパン」として脚光を浴びつづけている。アキバ系カルチャーは、2008年もメディアを騒がせつづける存在たりうるのだろうか?
答えは、おそらくNOだ。
不況のあおりとはいえ、2007年アニメ関連企業は軒並み株価を下げているのだ。(※参照2)テレビアニメの制作本数は、2000年以降、増加傾向にあったが2007年には減少に転じた。(※参照3)市場には、過当競争により過熱した消費文化に対する疲労が見えはじめている。
いま、国内オタク市場における消費の主力を担うのは、30歳前後のエヴァ世代だろう。今後この世代は、年齢とともに「社会復帰」しはじめ、漸減していくことだろう。一方、10代からの世代は少子化の流れでいまより市場が拡大することはない。国内オタク市場は、今後縮小に向かうとみてほぼ間違いないのだ。
マスメディアも「アキバ系ブーム」にそろそろ飽きる頃だろう。NHKが取りあげたという事実自体が、一連のブームが最末期に達したということを最もよく表している。
2.ライト化するオタクたち
ところで、いわゆる「ライトオタク」は、実際のところ増えているのだろうか。そもそも「ライトオタク」って何?
現場の印象として感じることがある。筆者は「四季の会」という関西のアニカラサークルを主宰している。現在会員数は370名(幽霊会員を含む)。年に数回オフ会を開いているが、アキバ系カルチャーの「基礎教養」に通じた濃いオタクは、意外にも少ないのが実情だ。新旧限らずアニメは観ない、声優も知らない・・・そういうライトなオタクは、世代にかかわらず少なくない。
とくに若い世代になると、オタクをファッションの一部として身につけている、そんな印象を受ける。
若いライトオタク層を増加させる要因は、ハードルの低下だ。
アニメショップが近所にない場合、数年前なら遠出しなければどうにもならなかった。今ではamazonをはじめとして、アニメ関連グッズを扱う通販サイトがたくさん存在している。また、身のまわりにオタク仲間がいなくても、今ならmixiが出会いの場を与えてくれる。
苦労して都心のアニメショップまで足を運んだり、メールや掲示板で必死に仲間を探していた頃に要求されていた「オタクでありつづけるための根性」は、もはや必要ではない時代になった。ハードルの低下は、オタクのライト化とともに低年齢化を急速に進めつつある。
一方で、オタクへのハードルをいとも簡単に越えた新しいライト層は、オタクであることへのこだわりが薄い、と感じることがある。
私事になるが、筆者が初めてアニメショップに足を踏み入れたのは高校2年生のときだ。店の敷居をまたぐ瞬間の後ろめたさと、店内に広がるめくるめく世界を目にした恍惚感を、今でも覚えている。この二つの感覚が、今に至るまで筆者のオタクとしての気持ちのあり方の基調になっているように思う。
オタクの精神は、このような、抗いがたい性(さが)に動かされて、世間様に顔向けのできないことをしているのだという後ろめたさと、それでもこの性(さが)を抱えて生きていくしかないのだというこだわりの二面により支えられている気がしないでもない。
このような葛藤とは無縁なのが、新しい「ライトオタク」なのかもしれない。
かれらはいわば堂々と、平然とオタクでいる。それはそれでひとつのスタイルだろう。だが、近頃さまざまなシーンで目にする「自重しない」オタクたちの軽率な行動が、仮にこの後ろめたさと誇りの欠如によるものだとしたら、残念なことだ。
やや余談に流れたが、結論的に言うと、市場としてのアキバ系カルチャーが縮小に転じるなかで、ライト層の占める割合は増していくだろう。しかし一方で、コアな層はウェブ上のツールを駆使してますますコアに深化していく。アキバ系カルチャーは、ライト層と、より細分化されたコア層に分化していくのではないか。
3.拡散するアキハバラ
ウェブの発展によるオタクへのハードルの低下は、とくに地方オタクにおいて重要だ。
都会に行かなければなにも手に入らないという時代は、すでに過去のものになっている。地方民からみて、アキハバラを擁する首都圏のエネルギーは今でもなお圧倒的だ。だが、アキバ系カルチャーにおいては、一足早く「地方分権」の波が押し寄せているようにもみえるのだ。
最近は、ニコニコ動画で各地の大規模オフやダンス集会の映像をみることも多いが、意外にもそのロケーションは地方に根を伸ばしていることに驚かされる。先日のことだが、高校の運動会で大人数がハルヒダンスを踊っている動画をなにげなく開いたら、なんと筆者自身の母校(!)で、おもわず乳酸菌を吹いた。あんな関西地方の片田舎にまで、アキバ系カルチャーの拡散は進んでいる。
2008年は、アキバ系カルチャーの分水嶺になるかもしれない。あるいは、それはもう始まっている。
アキハバラを「聖地」とした、一極集中型のカルチャーから、より幅広く、ニッチに拡散したコミュニティのゆるやかな集合体へ。mixiはまさにこのような少人数の拡散的なコミュニティの形成に向いている。一方で、消費者のニーズがいっそう細分化され、市場はコンパクトなものにならざるをえないだろう。
拡散するアキハバラ。その先にあるのは、アキバ系カルチャーの新たなステージなのだろうか。それとも、ひとつの文化の終わりなのだろうか。
正月休みに賑わう大阪日本橋。アキバ系カルチャーは地方へと拡散していくのか。
このコラムでは、アキバ系カルチャーに関するよもやまのことを、地方ヲタの視点で綴っていければ、と思います。皆さんからのご意見、ご指摘をお待ちしています。
文中関連リンク
□参照1 株式会社メディアクリエイト
□参照2 animeanime.jp
「2007年 株価はどうなった 苦戦目立ったアニメ関連株」
「2007年 アニメビジネス10大ニュース」
■筆者紹介
名前:日向有馬(ひなた・ゆま)
1978年生まれ、関西アニカラサークル「四季の会」主宰。
淡路島在住。重度の電波ソング中毒症にして、釘宮病患者。 関西アニカラサークル「四季の会」
を2006年2月にmixiで開設。大阪を拠点に年4回の歌会を開いている。
モットーは、さまざまな価値観のひとたちが集い、ともに楽しむ大人のアニカラサークル。
現在会員数370名。会員数が当初の見込みを上回るペースで急増したため、現在は新規会員の募集を一時停止している。
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