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あっさりと中国における日本映画興収記録を塗り替えた「すずめの戸締まり」
中国における日本の新作アニメ配信に関してはお世辞にも希望があるとは言えませんが、それとは対照的に日本のアニメ映画はかなり盛り上がっているようです。
2023年3月24日から中国本土での上映が始まった
「すずめの戸締まり」は上映開始から1週間で4億元(約78億円)近い興収を叩き出し、その後も順調に伸び続けて、この原稿を書いている4月下旬の時点で興収は7.5億元(約146億円)を超えています。
そんな「すずめの戸締まり」ですが、実は中国でも興収がこんなに伸びるのは予想外だったという人は多いそうです。
中国のオタクな方々の話によると、「すずめの戸締まり」に関しては、中国国内における活発な宣伝やチケット予約の数字の伸びのよさからそれなり以上の人気になるという見方はあったものの、日本での作品評価や前の新海誠監督作品の「天気の子」の中国本土での興収が約2.8億元と、「君の名は。」の5.76億元の興収記録と比べて半減(それでも日本映画として見れば非常にいい数字なのですが)していたこともあり、「すずめの戸締まり」の興収に関してはやや厳しめの予想をする人も珍しくなかったのだとか。
しかし、いざフタを開けてみれば、初動からものすごい勢いで興収が伸びていき、あっさりと「君の名は。」が打ち立てた中国本土における日本映画の興収記録の5.76億元を更新してしまったことから、現在中国では
「どこまで伸びるのか」
「現在の中国市場における日本のアニメ映画というジャンルはどういった状況なのか」
などといったことに関しても注目が集まっているとのことです。
実際、「すずめの戸締まり」の人気に関しては、ほかの中国の人気映画とは異なる部分も目に付くようです。中国のオタクな方々から教えていただいた話の中には
「作品の評価自体はそれほど高くはありません。私の周りでも以前の新海誠作品のほうがよかったという人は少なくないです。しかしアニメ映像としてのクオリティは高く、映画の視聴体験として悪くないのも確かです」
などといったものもあり、興収の大きさと作品の面白さがあまり釣り合っていないと感じる人もいるようです。
中国の二次元業界に詳しい方によると、中国の映画関連サイトのデータでは
「客の性別が男女半々、あるいは男性のほうがやや多い珍しい割合になっている」
「売上げの割合を見ていくと地方都市で非常に強く大都市圏では今ひとつ」
「主に若い世代、特に20代前半までの学生世代が見に行っている」
などといった傾向あるそうで、そこから
「現在の中国の若い世代にとって、新海誠作品は横のつながりを作るための話題、交流ツール的な価値を獲得しているのかもしれない」
といった話も出てきました。それに加えて実際に映画館に行った印象では
「ひとりで見に来ている男性も多かったのがほかの映画とは違った」
「何度も繰り返し見に行っている人も多いのでは」
などというものもあるそうです。
またほかに外的な要素として、近年の中国映画業界の事情の影響も考えられるといった意見もあるようです。近年の中国国産映画は、いわゆる大予算の大作映画以外で気楽に見ることのできる作品が不足しているらしく、中国のオタクな方の話によると
「中国では低予算映画の武器にもなる尖った内容、エログロ的な内容が審査の関係上使えません。そのため最近の中国の低予算映画はナンセンスギャグや安っぽい恋愛モノ作品がやたらと増えています」
といった状況だそうで、日本のアニメ映画はそのあたりの需要を満たす使い勝手のいい、業界側が何かと力を入れて扱うようなコンテンツになっているという見方も出ているそうです。
ちなみに新海誠監督の作品に関しては、内容以外のところで「中国市場において何かと巡り合わせがいい」といった話題もあるとのことです。
中国のオタクな方々からは
「『君の名は。』の中国国内上映当時は、中国で韓国系コンテンツが規制されて娯楽コンテンツが不足していた時期と重なっていました。今回の『すずめの戸締まり』も中国国内では競合する作品がなく需要が高まるタイミングと重なったうえに、国内の感情からアメリカの映画が伸び悩んでいるという状況もあります」
「今の中国のネットでは人気作品は何かと炎上しやすく『すずめの戸締まり』に関してもちょっとした炎上が発生したのですが、あまり間を置かずにほかの作品が大炎上したので結果的に大きな問題になることを回避できました」
などといった話も出てきました。
中国で人気になるには、作品自体にパワーがあるのが大前提ではあるものの、そこからさらに広まって大人気になるには巡り合わせのよさなども無視できない要素なのかもしれませんね。
中国における日本のアニメ映画に関しては、4月下旬から中国本土での上映が始まっている「THE FIRST SLAM DUNK」も絶好調なこともあってか、景気のいいニュースがかなり目に付くようになっています。
しかしそれと同時に中国における日本の新作アニメの配信が非常に厳しくなっているのを見ると、何とも言えない気分になってしまいますね。
(文/百元籠羊)