内田真礼、上坂すみれ、安野希世乃──アーティストとしてさらなる進化を感じさせる3枚をレビュー!【月刊声優アーティスト速報 2021年10月】

2021年10月30日 16:000

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当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。

2021年10月号で取り上げたいのは、3名の声優シンガーだ。まず、上坂すみれさんと内田真礼さんは、ともに2013年~2014年の早くより音楽活動を開始した、いわば“キャリア枠”として。そして、音楽活動は節目の5周年を間もなくとしながらも、声優としてのキャリアは上坂さんや内田さんと同じく10年以上にわたる安野希世乃さんをピックアップ。

本稿では、そんな彼女たちの“アーティストとしてのさらなる進化を感じさせる1枚”をテーマに、3作品をレビューしていきたい。

 

 

内田真礼 3rdフルアルバム「HIKARI」(10月27日発売)

内田さんの約3年半ぶりのフルアルバムで、タイトルとして掲げられたのは「HIKARI」。この時代の先にある未来に目がけて、彼女を応援する人々にとっての“光”になりたい。今作のタイトルには、そんな由来があるそうだ。過去のフルアルバム「PENKI」や「Magic Hour」以上に重みのある題材である。

 


新曲をいくつか抜粋すると、「Never ending symphony」は、デビュー曲「創傷イノセンス」への“原点回帰”を謳う1曲。当時と同じく、R・O・N氏プロデュースによるライブ志向なハードロックチューンだ。また、同じく音楽活動初期に生まれた代表曲「ギミー!レボリューション」の“バージョン2”として生まれたのが「YA-YA-YAN Happy Climax!」。作詞・作曲は田淵智也氏(UNISON SQUARE GARDEN)らの所属するクリエイター集団・Q-MHzが担当。編曲はQ-MHzとやしきん氏が手がけており、とんでもないお祭り騒ぎのパーティーチューンとなっている。

 

どこか浜崎あゆみさんへのリスペクトを感じる「フラッシュアイデア」は、本人いわく「ボーカルの滑らかさが際立っている」とのこと。彼女の楽曲史上、最も低音キーで“低体温”なトロピカル~ディープハウス系サウンドの「アストラ」では、過去作にはない新たな表情も見せてくれている。

 

そんな新曲群とうまくバランスを取り合う既発曲も聴き逃せない。とにかく瑞々しく、ここぞというところでの爽やかさのひと伸びが人一倍に強い、内田さんの歌声の持ち味を味わえる「youthful beautiful」、モータウンビートの上でブラスがハネる「鼓動エスカレーション」などは、リリースから久しい今でもひときわ輝きを放っている。

 

また、〈十万年にひとつの奇跡みたいだ〉という、TAKU INOUE氏の宇宙規模にロマンチックな歌詞に、kz氏(livetune)アレンジによるバウンシーなエレクトロビートがマッチした「ハートビートシティ」や、今度は作詞・作曲をkz氏、編曲をTAKU INOUE氏にスイッチした「いつか雲が晴れたなら」もまた見事。特に「いつか雲が晴れたなら」は、雨上がりを待ち続ける心情描写が、昨今の情勢への投げかけとも受け取れて、マスクを外した“いつか(=未来)”の光景への希望を見出させる。

 

今作を聴いて改めて実感したのが、ポップスからロック、エレクトロなどのジャンルレスな音楽に手広く順応するという点で、声優アーティストに求められることの多い能力に内田さんが秀でていること。「HIKARI」は、内田真礼=“オールラウンダー”なアーティストとして、“何色にでも染まれる”ことを証明するにふさわしい1枚といえるだろう。

 

ところで、今作にはアルバムのプロローグとなる「Change the world」と、ラストナンバー「Exicite the world!」の2曲の間で、同じメロディを共有するという仕掛けも。アルバムの序盤と終盤にお互いのアンサーソングとなる楽曲を配置するこの構造は、かつて“何色にでも染まれる”ことを示した1stフルアルバム「PENKI」における「Hello, 1st contact!」から「Hello, future contact!」へのセルフサンプリングのように感じられる。

 

すると、同アルバムに収録された楽曲への“原点回帰”として、今作で「Never ending symphony」「YA-YA-YAN Happy Climax!」といった楽曲を制作した背景をも想像してみたくなってしまう。裏テーマとして“PENKI超え”があるとは自信を持って口にはできないが、そういった観点から今作に向き合うのも面白いかもしれない。

 

とにかく、内田さんが自分自身や過去作、時代や世界と対話をし、新たな地平に射し込む“光”を見つけた今作。その光が射す方へと歩みを進めれば、明るい未来が待っていることは彼女の朗らかな歌声が約束してくれることだろう。内田真礼のミュージックは、何年後にでもフラッシュバックする。

 

 

上坂すみれ 12thシングル「生活こんきゅーダメディネロ」(10月27日発売)

表題曲は、自身も魔法少女役で出演するTVアニメ「ジャヒー様はくじけない!」第2クールオープニングテーマに。タイトルにある“ダメディネロ”はスペイン語で、その意味を歌詞から引用するならば〈ギミマネー〉。主人公・ジャヒー様の貧乏バイト暮らしと奮闘ぶりを描いたアニメストーリーと強く結びついた1曲だ。

 

 

同楽曲の作詞・作曲は前山田健一氏(=ヒャダイン)、編曲は藤原燈太氏が担当。トラックは前山田氏の作風全開で、ラテンテイストや演歌を行き来する、1曲の中に複数曲の要素が詰め込まれた様はまるでパッチワークとでも言い換えられるか。サビ終わりの落としどころもCMソングのような収まりのよさで、楽曲のオチとして見事なキャッチー具合だ。

 

また歌詞でも、“ダメディネロ”という突飛なアイデアに対して、毒には毒で応戦するといったところか。〈地獄の沙汰も金次第 だけど 金があっても 地獄は地獄なの〉といった身もふたもないフレーズをはじめ、〈大見得きって おごっちゃって リボ払い〉や〈倍にして返したげっから!〉といった、ダメ人間であれば人生で一度は聞いたことのある常套句など、資本主義に咲いた徒花のようなパンチラインが連なる。

 

とりわけ、生活が“こんきゅー”すると、理由もなく「大丈夫」「なんとかなる」という言葉を信じて、心がたかぶり落ち着かない状況になりがちだ。今回のBPM200オーバーのハイテンポなトラックには、そういった“1周回った上での狂気”が封じ込められているのかもしれない。上坂さん本人が語る、貧困だがポジティブで、それゆえにリスナー側も変に同情を抱かずに済むのも、〈でも 今んところ 笑って 生きてる〉といった、やたらとポジティブな雰囲気によるところか。

 

こうした癖の強い歌詞や電波ソングを表現し、時にはそのアクをうまく中和できたのも、ともに曲者な上坂すみれ×前山田健一のタッグだからこそ。楽曲コンセプトに人選がマッチし、結果として高品質な1曲となった好例と言える。

そのほか、中華飯店や工事現場でアルバイトに勤しむ上坂さんのかわいい姿を拝めるMVもぜひチェックいただきたい。

 

 

安野希世乃 4thシングル「おんなじキモチ。」(10月20日発売)

今月は「劇場版マクロスΔ絶対LIVE!!!!!!」の公開や、同作より誕生したユニット・ワルキューレの新アルバム「Walküre Reborn!」発売など、安野さんに関する話題が目白押しだ。その中でも本稿で紹介すべきは、今回のソロ活動での新シングルである。

 


表題曲は、自身がサラ役を演じるTVアニメ「異世界食堂2」 オープニングテーマ。彼女が同アニメでテーマソングを担当するのは、1stミニアルバム収録の「ちいさなひとつぶ」以来、約4年ぶりとなる。

 

そんな満を持しての楽曲は、“一緒に食事をする楽しさ”を歌った、心温まるストリングスチューンに。〈咲くッ咲くッ咲くッ〉といった擬音が、まるで揚げ物を食べているかの響きを帯びつつ、その後のフレーズまで通して聴くと、笑顔が“咲く”というダブルミーニングになっているのも伝わるだろう。総じて、アニメの物語に寄り添いつつ、安野さん本人の“ヒーラー”特性ともいえる癒しの歌声や人柄が相乗効果を生む極上の1曲で、まるで“声で膝枕をされている”ような感覚に落ちてしまったのは筆者だけだろうか。

 

カップリング曲「Act 10 ~Dear My Characters~」はタイトル通り、安野さんの声優デビュー10周年を記念した1曲だ。作詞は安野さん自身が筆を取っており、歌詞中には彼女がこれまでに演じてきたキャラクターを想起させるフレーズも(たとえば「マクロスΔ」のカナメ・バッカニアであれば、楽曲「AXIA~ダイスキでダイキライ~」より〈スキもキライも〉が引用されている)。“声優アーティストならでは”という評価を耳にする機会も多くなったが、これこそ声優という職能だからこそ生まれ得た歌詞と言える。読者各位も、皆さんの好きなキャラクターのフレーズをぜひ見つけてみてほしい。

 

あわせて、ほがらかなビッグバンドジャズを採用したトラックには、“この瞬間が無限に続けばいいのに”と、ショーの終わりに感じる切なくも愛しいバイブスが漂う。こちらの歌声は“癒し”というより、今後も声優として歩みを続ける意志の強さを感じるもので、大好きなキャラクターたちと再会し、過去を懐かしむような安野さんの温かい眼差しにぐっときてしまう。ファンもまた、自身の愛するキャラクターを、演じた安野さん本人が今なお愛していることを再確認できる1曲になったのではないだろうか。

(文/一条皓太)

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