「何が、アニメをアニメたらしめているのか?」――「スター・ウォーズ」「ブレードランナー」「ロード・オブ・ザ・リング」など、超大作企画にもまれる神山健治監督からの問いかけ【アニメ業界ウォッチング第82回】

2021年09月19日 12:000

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それが「絵」であるだけで想像力がプラスされ、映像に説得力が生まれる


神山 たとえば、ピクサー・アニメーション・スタジオのアニメ映画は、人形劇、人形アニメになったのだと思います。そのキャラクターがプラスチック製の人形だろうと本物の人間だろうと、ゴムのような質感で描く。ディズニー・スタジオの場合、人間の肌はちょっとストッキングの裏地みたいなテクスチャではあるけど(笑)、とにかくこれで描く、「こういうアニメなんだ」という割り切り、ルール設定をしていますよね。マーベル映画だと、実質的にはCGアニメなんだけど、緻密なテクスチャを作りこむことで、実写映画としてアニメと住み分けをしている。「どこからがアニメなのか」という、お客さんにわかりやすいルール設定が肝心なのだと思います。
日本のCGアニメは、そこまでのルールが確定できていないと感じています。セルルックのCGにすると、今度は作画のアニメと比べられてしまう。たとえばモーションキャプチャーを使ってセルルックにすると、どうして気持ち悪いのか。コマを抜いて作画に近い動きにするのか、それとも動きはリアルなままにするのか、セルルックなりのルールを提示すべきではないかと思うんです。CGの情報は実写に近いので、ちょっとでも質感が本物っぽくないと、すぐに違和感が出てしまう。「人物にはこれだけテクスチャが入っているのに、小道具や背景はどうしてスカスカなのか」といった具合に、むやみにハードルが高くなってしまうのです。
半面、作画はどこまでいっても絵なので、ちょっとでも本物らしさを入れると、とても喜んでもらえる。「幻魔大戦」が新宿歌舞伎町を写実的に描いたころから、画面の片隅にコカ・コーラの缶が転がっているだけで、「リアル系だ」と言ってもらえる。その特性をアニメは獲得して、現在でも写真をもとに背景を描いたりして、メリットを最大限に生かしています。そのいっぽうで、「クレヨンしんちゃん」のように、そもそも人間の動きをさせないことで十分に物語を伝えられるアニメもある。

── 「アニメである」ことの条件って、何だと思いますか?

神山 「絵が語っていること」でしょう。それがリアルタッチだろうが何だろうが、「絵」が何かを語っているように見えることが重要なのではないでしょうか。つまり、「絵なのに、魂が入っている」。実は「スター・ウォーズ:ビジョンズ」を久々に作画でつくってみて、とても手ごたえがあったんです。手描きの絵が動くだけで、こんなにも説得力が出るのか、と……。アニメーターという人たちをあらためてすごいと思ったし、絵が動くことそのものがカタルシスを生んでくれる。たとえ作画が弱かったとしても、絵である以上、プラス要素に転化できる。実写よりも情報量は少ないはずなんだけど、観客が「この着物は、絹ですね」といった具合に、勝手に想像力を足してくれるんです。3DCGでは絹のテクスチャを貼ったとしてもイメージがふくらまず、何ならマイナスに作用しかねない。なかなか結論が出づらいのですが、もう一度「アニメとは何か?」を考えて、CGの側からアニメになるための仕掛けを考えていかねばならないでしょう。

── 若いスタッフたちと、そういう話はしますか?

神山 現代はどんどん個人主義になっていて、SNSで個人が情報発信できますよね。その代わりに共有できる時間が減ってきていて、現場で話す機会は少なくなってきています。アニメーターの井上俊之さんに聞いた話ですが、仕事以外で他人のアニメーションを見て、アニメーター同士が語り合うことで発見された技術があったそうです。「AKIRA」(1988年・神山氏は背景で参加)まではアイレベル(構図を決めるときのカメラの高さ)という概念がなく、ローアングルの場合は、カメラが地面に埋まっているようなレイアウトばかりでした。カメラがPAN-UPする場合、実写のようにカメラ位置はそのままで上に向けるのか、それともクレーンで上に移動することをPANと呼んでいるのか、アニメでは分けて考えないといけません。前者のように同じ場所でカメラを振ると、構図の消失点が変わってしまうのですが、それをどう描いたらいいのか探求する中でアイレベルが見つかったと聞きました。3DCGの場合、アニメーターは絵描きというよりはオペレーターなので、絵づくりについて語り合う機会がなかなかありません。だから、僕ごときがアイレベルとは何かスタッフに説明しなくてはならない。専門用語を知っていても、なぜその概念が必要なのか理解しているスタッフは少ないので、これでは劇場用の長編アニメをつくるのは難しいだろうな……と感じています。 失われたものも大きいけど、独自進化して面白いものが出てくる可能性も大いにあります。かつて、無茶苦茶な製作状況だけど、OVAであれば監督になれる時代がありました。今また、そういう面白い時代が巡ってきているのかもしれません。



(取材・文/廣田恵介)

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