※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
「虹」は「使いづらいフレーズ トップ10」に入る言葉です
── 先ほど、カメラをモチーフにした告白ソングとおっしゃっていましたが、「オトモダチフィルム」の歌詞について、詳しく語っていただけますか? オーイシ 写真というものが持っている哲学というか、写真に撮られた瞬間にその場面が過去になっていくということがあるじゃないですか。その瞬間にやり残したことや言えなかった言葉というのは、誰にでも身に覚えがあると思って、それを「ただこい」のストーリーとリンクさせながら、“思い出として写真に焼き付いてしまう前に、君に伝えたいことがあるんだけど、どうかな”という歌詞にしました。最後はカメラを捨てて、この目に焼き付けたいと。
── カメラに頼らず、自分自身の記憶に残したいということですね。 オーイシ 「友達というレンズを捨てて 君と描く今日のすべて この目に焼き付けたいんだよ」という部分がまさにそうですね。ここは悩んだんですよ。最初は「フレンズというレンズを捨てて」って書いていたんです。でも、「オーイシさんがフレンズって言うと意味が変わってくる」ってディレクターから言われて、「友達」に直しました(笑)。
── 「フレンズ」という言葉が使いづらくなってしまっているんですね(笑)。 オーイシ そうなんです。フレンズとレンズがかかっていて、めっちゃシャレが効いてるって気に入ってたんですけど、どうにも「フレンズ」は使いづらかったです(笑)。
── 宿命ですね(笑)。 オーイシ まあ、しょうがないです。
── 「ただこい」のキャッチコピーが「この恋を、一生忘れない」で、過ぎ去ってしまったものを振り返るような感じがあるじゃないですか。そういう切なさが、「オトモダチフィルム」の歌詞にも入り込んでいると思いました。その点はいかがですか? オーイシ あまりネタバレはできないんですけど、ストーリーを最後まで見たらわかる部分が「オトモダチフィルム」の歌詞にはあるのかな?という気はしますね。でも、多田くんとテレサの恋以外にもいろいろな恋の構図があって。「ただこい」に出てくるすべてのカップリングに当てはまる歌詞にしたつもりです。みんな鈍感で不器用なんですよね、恋に対して。そういうところを抽出して書いていきました。
── みんなカメラを持つキャラなので、写真がモチーフの歌詞は全員に当てはまりますよね。それから、「虹」というワードが入っているところもポイントだと思います。 オーイシ いやー、使わなきゃいけないかなと思って(笑)。最初は「まるで夢のようさ」って書いていたんですけど、「虹のようさ」に変えました。「虹」って使うのは、勇気がいるんですよ。なんとなく野暮ったい感じがして、自分の作詞道の中では「使いづらいフレーズ トップ10」に入るワードなんです。でも、「ただこい」には、れいん坊将軍が出てくるので、作品に合ったワードということで、「そういうシャレを入れてくるんだね、オーイシは」と思ってもらえるんじゃないかなと。
── もちろん、れいん坊将軍あっての「虹」だと思いましたが、普段は使いづらいワードなんですね? オーイシ 僕はほぼ使わないですね。アーティストによって、歌う言葉のストライクゾーンみたいなものがあって、この人が歌うとサマになるけど、この人は歌うと何か違うというフレーズがあると思うんです。僕にとっての「虹」は、嘘っぽく聞こえちゃう言葉かなって。これは完全に個人的見解で、ほかのアーティストさんや作家さんが「虹」を使うことには、まったく否定的じゃないんですけど。
── 作り手の感覚の問題ですね。 オーイシ バンドでデビューしたての頃、当時所属していたレコード会社のディレクターに作詞の添削をしてもらっていたんですよ。その時、「光」とか「海」とか「闇」とか「太陽」とか「月」とか、そういう言葉を使うなと言われたんです。ありがちな「明日の扉を開こう」とか、絶対に書くなと。もっとオリジナリティのある別の表現があるからって。そうやって訓練された時期があったんです。
── ポップスに使われがちな言葉を封印されて、鍛えられたと? オーイシ そういう言葉も前後の言葉の選び方によって使えることがわかってきて、今では1周回って、メロディに求められていると思ったら普通に使えるようになりました。今回はさらに、れいん坊将軍のおかげもあって、「虹」という言葉を使えたんです。これにて一件落着ですよ(笑)。かたじけないって感じです。
── たしかに。でも、前段にある「騒々しい世界」というフレーズが、「虹」にうまくかかっていると思いました。 オーイシ そうですね。人がいっぱいいる感じを、虹の七色に繋げられたかなと。