ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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滅びの中に輝く光。シリーズ全体レビュー

観賞手段:ビデオ/DVD
人形兵器の開発競争が繰り広げられる「機動戦士ガンダム」の戦場。その片隅には、報われぬ奇想兵器に命をかける男たちが綴る知られざる戦史があった。本編の敵側であるジオン公国の兵器実験部隊が、採用には至らなかったワケあり兵器を試験する、ユニークな視点での物語が展開するのが本作だ。
実験部隊に持ち込まれるのは、一癖も二癖もある品ばかり。1発撃つだけで莫大な費用がかかる230メートルのプラズマ砲「ヨルムンガンド」。高機動性を誇るがエンジンに問題があり、空中分解する機動兵器「ヅダ」。人型兵器が花形として活躍する中、迷走の末に開発競争に敗れた超弩級戦車「ヒルドルブ」など、いずれも厄介払いされてしまった悲しい存在だ。しかし、これらの兵器には開発関係者たちの思いがある。諦めきれぬ彼らが織りなす人間ドラマは重く濃いのだ。
こうした奇想兵器はアニメの空想ではない。1000tの陸上戦艦「ラーテ」や自走する車輪爆弾「パンジャンドラム」、大気圏外から敵地を爆撃する「ゼンガー」など、各国で様々なコンセプトが創られては消えていった事実がある。それゆえに本作の奇想兵器の存在には、歴史に裏打ちされたリアリティと悲哀が漂う。「機動戦士ガンダム」は第二次大戦をベースに架空史を作り上げたが、この“基礎設計”がいかに優れているかが再確認できる。
本作は滅びの中であがく人々の物語だ。「機動戦士ガンダム」の戦争はジオンの敗北に終わっており、奇想兵器たちが華々しく活躍することはない。これはガンダムファンの視聴者たちにとっては改めて語るまでもない史実である。試験部隊のメンバーや奇想兵器に携わったテストパイロットたちはいずれも人間臭く共感できる人々である。滅びの史実を知るがゆえに、彼らの放つ輝きが愛しく感じられるのだ。主題歌「時空のたもと」「夢轍~ユメワダチ~」が示すように、本作には繊細な側面がある。滅びの中でひときわ悲しく美しく輝く「機動戦士ガンダム」が本作なのだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
4.5
キャラクター
4.5
音楽
5.0
オリジナリティ
4.5
演出
4.5
声優
4.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2023-09-29 15:22:05

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