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蓮よりか一郎彦の境遇に泣く(つД`)

観賞手段:ビデオ/DVD
ネタバレ
・二層化
すくなくとも舞台(とお話?)は同じ時間で、「ばけものの街」と「渋谷区」が二層化してます。『千と千尋の神隠し』みたく"向こう側から最後に帰って来た。"というオチにはできないし、意地でも細田監督はしたくなかったと思います。でも、前半での展開はそのような雰囲気を感じたし、その方がお話としては直線的に理解できたと思います。

・東宝マーク後のプロローグ
多々良と百秋坊による宋師継承のくだりそれと"炎による動き"がとても期待させてよかったので、前中盤の展開スピードがやや退屈に感じられます。

・蓮と熊徹
人間は「闇」を宿すからご法度と言う「ばけものの街」には悪い"ばけもの"は居ないし作れません。蓮は生意気ですが、周辺はとても優しいのです。熊徹の乱暴さは、黒澤映画でいえば若いころの三船敏郎に通じます。後述しますが、キャラの設定・相関がどことなく「用心棒」を思い出させます。三船に比べ役所が優しすぎるのです。蓮は卵かけご飯の前に、飯炊き三点セット(土間・釜・かまど)を鍛えられるべきです。熊徹のコーチング"長島終身名誉監督ばりのぐっともってビュー"を百秋坊にたしなめられますが、蓮が甘やかされているようで感心しませんでした。『千と千尋の神隠し』の千尋と違ってご奉公が現世に戻る条件でないので、蓮に悲壮感が感じられません。たとえ志願兵だとしても、現世とのギャップに最初はもっと戸惑ってよかったと思います。ギャップといえば、蓮の成長がけっこう早いので、定番の"ウラシマ効果"があるかと思いましたが、なんの説明もないまま「渋谷」へ離脱し戻れるようになっています。(←蓮が成長しお弟子さんがたくさん押しかけている時に。)幼少期あれだけ最初は迷い込んで恐怖感があったのに・・・ストーリーは前後しますが、宋師からのミッション・三人で行った修行の旅はアクションがなく、あっさりとして何か肩透かしを喰らったような気がします。非暴力主義に対する二人(蓮と熊徹)の意見の相違が短い台詞から読めます。後々考えると大切なシーンで要チェックです。

・闇(黒い心)
幼少期は長女かと思ったほど優しかった一郎彦の心に闇が宿ります。「用心棒」で言えば一郎彦は卯之助(仲代)、二郎丸は亥之吉(加東大介)です。「おめぇつえぇんだなっ!」と二郎丸が蓮と馴れ合う場面で"嫉妬心"を彼の目前でやたら煽ります。自分に弟と違って牙が生えないコンプレックスから薄々感ずいていて*「寂しさ・孤独・嫉妬」から闇が芽生えています。いっその事、蓮の成長期は、一郎彦に別の意味で闇の心を育ててしまったようなエピソード(例えば武者修行)があってもよかったような気がします。ピストルを持ち帰った卯之助(仲代)のように。闘技会前に軽い衝突がありますが、もっとはっきりとしたはげしい前哨戦の喧嘩があっても良かったような気がします。

*後で説明の回想シーンがあります。

・クライマックス
一方で、蓮の心の闇については演技や説明がいまひとつ弱く、クライマックスの渋谷での両者対決につながりません。プロローグ後の母方の親族達の言葉が闇を育てたとしても、そのシーンに説得力が弱いように感じます。連は自分の闇で一朗彦に対峙しようとしますが無理があります。同情心のようにも見えるのですが、それにしても一朗彦との接点があまりなかったので違和感を感じました。また、実父との再会ですが、ふつーなら継母が居てもおかしくないのに、もうちょっと親父に対して労いがあっても良かったような気がします。おそらく「俺はもう闇を宿さない。」という意味で一朗彦に楓からもらった糸を渡してしまいますが、人情味がありません。知らないうちに代々木競技場の屋根に応援団が一同揃ってしまう。赤ん坊で捨てられた一郎彦がなぜ漢字の読みや、そもそも海があるかないのかわからない向こうの世界でなぜ鯨を知っていたのか?どこか前半ゆっくりとした流れに説明がはしょって追いついていかなかったような印象です。楓や(フィルムコミッションの)渋谷区のケースワーカーさんから旧大検や住民票など優しくアドバイスされたのでめちゃくちゃにしてしまったガード下の補修工事で働くとかなんらかの恩返しをおまけカットでしてほしかったと思います。

・演技
東宝配給の本作で、「鞘から刀を抜かない」という非暴力の絶対ルールが、人を殺しすぎた黒澤の遺稿「どら平太」に繋がって、峰打ちで立ち回りをした役所広司がもっと優しくなって熊徹になって帰ってきましたが、東映配給「孤狼の血」では演技的に揺り戻しになりました。津川先生の宗師はとても聞き取りやすくてよかったです。蓮よりか一郎彦が可哀想なお話でした。

・スキャン
都会の(人工物)スキャンは、ばけもの側の世界と対比させるのに効果的ですが、テカテカ光っている分白飛びしているようで、背景画面の密度が薄くなっているような気がするのですが?特に、最初のガード下での蓮と熊徹の芝居ですが、周囲があかるすぎて、蓮の恐怖心が台詞ほど感じられません。

2018/6/02
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ストーリー
3.5
作画
4.5
キャラクター
3.5
音楽
4.0
オリジナリティ
4.5
演出
3.0
声優
4.5
3.0
満足度 3.5
いいね(0) 2018-06-02 05:52:00

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コメント 1件
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[2018-06-02 13:41:58]
『時をかける少女』『バケモノの子』 細田守監督作品が日テレ「金曜ロードSHOW!」で2週連続放送決定
http://amass.jp/105857/