ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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緊張感溢れる、残酷時代劇アニメ

観賞手段:CS/BS/ケーブル、ビデオ/DVD
山口貴由氏の傑作時代劇漫画が、連載中の2007年にアニメ化された。
時は寛永、禁を破って行われた真剣の御前試合では、片腕の藤木源之助と盲目の伊良子清玄が対峙していた。二人は同門の兄弟弟子であったが、今は宿敵同士。お互いを斬らんと激しい憎しみを燃やす間柄であった。彼らが学んだのは、濃尾一帯で無双を謳われる剣客集団・虎眼流。強さに執着し、最強の道場という体面を守るためにはあらゆる手段を辞さない、狂気漂う集団であった。藤木と伊良子の間には何があったのか?物語は過去へと遡る……。
「シグルイ」は、南條範夫氏の時代小説「無明逆流れ」約35ページを15巻分のコミックへ大きく膨らませたもの。抑えたトーンの中、熱のある台詞とモノローグ、そして臓物舞い散る残酷描写によって、強さを求める男たちの狂気と封建社会の理不尽が描かれる作品である。台詞とモノローグのひと言ひと言を朗読したくなり、その“山口節”というべきボキャブラリーとリズムが独特の読書体験を生み出すという側面もあり、映像化の難しい作品でもあった。
アニメ版では、抑えた色彩による画面でたっぷりとした間を取って原作の静謐さを表現し、じりじりとした緊張感に満ちた時間を作り出している。残酷描写もカットされることなく、初出のWOWWOWではR-15指定を付けられたほど。骨と肉の間に血が通う構造体としての人間同士が、刀という鋼の凶器でお互いを傷つけ合う、痛みと残酷さが表現されている。「三寸(9センチ)切り込めば人は死ぬ」一撃必殺の緊張感の中、SFやファンタジー的な力によることなく剣客どうしが技を比べ合う面白さは、他のアニメではなかなか見られない。刀を地面に突き立てた奇怪な構えからの「無明逆流れ」、神速の斬撃「流れ星」、日本剣術VS異国のレイピア(細剣)など、秘剣・怪剣がぶつかり合う様にスリルがある。
“山口節”のモノローグについては、ナレーションと無声映画を思わせる字幕で表現されている。モノローグをナレーションにするか字幕とするか、削るか否か……という判断に、アニメ版スタッフの苦悩が見て取れる。漫画版の段階で練りに練られた“山口節”だけに、視聴者とアニメ版スタッフで解釈の違いが生じてしまうのは、どうにも仕方がないところ。漫画版を読んだ人であれば「ここを削るのか」「こう表現するのか」という驚きもあるため、単行本や「無明逆流れ」を傍らに置いて観進めて行くのも楽しいだろう。
アニメ版は原作の中盤で終了している。漫画版はここから怒濤の勢いで衝撃のラストへ突き進んでいく、というタイミングだけに、話が途切れてしまうのはどうにも惜しい。アニメ版から入った人は、ぜひとも漫画版の一読をお勧めしたい。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
4.0
キャラクター
5.0
音楽
4.5
オリジナリティ
5.0
演出
4.5
声優
4.5
-
満足度 4.5
いいね(0) 2024-02-29 15:52:20

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