「劇場版シティーハンター プライベートアイズ」絶妙な“懐かしさ”と“現在”のバランスがもたらす幸福感【犬も歩けばアニメに当たる。第45回】

2019年03月02日 18:000
(C) 北条司/NSP・「2019 劇場版シティーハンター」製作委員会

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今回取り上げるのは、公開中の「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」です。

2019年2月8日(金)に封切られた本作の興行収入は、公開から17日の2月24日(日)までで10億円を突破したと発表されました。新たに4D版の上映や、「大ヒット“もっこり”かけ声応援上映会」も決定しています。

1990年代前半を代表する「シティーハンター」の新作が、今なぜ幅広い世代に受けているのか? 「Get Wild」に懐かしさが止まらない筆者が、新旧ファンを引きつける本作の魅力をご紹介します。

平成世代にも“懐かしい”? よみがえった冴羽獠


予告編を見て、獠のアクションシーンにかぶって流れるTM NETWORKの「Get Wild」が懐かしくなって、劇場に足を運んだ。観客は筆者よりも若い人が多い。


予想はいいほうに裏切られ、懐かしさと変わらぬ魅力に気持ちよく乗せられて、全編を楽しんだ。出口に向かう20代の女性が、連れと熱く冴羽獠(さえばりょう)の魅力について語っている。

リアルタイムで「シティーハンター」を楽しんだ世代のみでなく、新しいファンも、同じ空間で一緒に楽しんでいるのが、なんだか不思議に思えた。これはどういう魔法なのか?

原作コミックは1985〜1991年まで連載され、刊行されたコミックは全35巻。TVアニメは1987年からスタートして、4度のシリーズ化と3度のスペシャル放映、そして劇場版3本が公開された。

1987年に放送されたアニメといえば、「赤い光弾ジリオン」「機甲戦記ドラグナー」「アニメ三銃士」「ミスター味っ子」「きまぐれオレンジ☆ロード」など。前年1986年から、大ヒット作「聖闘士星矢」の放送が始まっている。リアルタイムで楽しんでいた年齢層は、それなりに高いのがわかるだろう。

最後のテレビスペシャルが放送されたのが1999年。それからでも20年が経っている。

ただし、アニメ「シティーハンター」を見たことのない世代でも、作品のタイトルを聞いたことがある人は多いのではないだろうか。

海外でも人気は高く、ジャッキー・チェンが主演した1993年の香港映画版に加え、フランス版の「ニッキー・ラルソン」が本作と前後して今年公開されたところ。公開2週間で動員100万人超の人気を博している。また、中国(2018年以降公開予定)でも実写映画化が進んでいる。



「時代の空気を読めー!」と叫ぶ香


少年漫画では珍しい、成人男性の主人公が、実在する「新宿」という街を舞台に、コミカルかつハードボイルドに活躍するアクション作品である「シティーハンター」は、時代を越え国境を越えて伝わる、普遍的な魅力に満ちている。

とはいえ、今は「#MeToo」時代、平成最後の年だ。「もっこり」を連呼するセクハラ魔人の獠は、果たしてその存在を許されるのだろうか? いやいや、忖度だらけの冴羽獠なんて、魅力の抜けた出がらしみたいなものだ。一体どうするつもりなんだろう……という興味もあった。

そんな観客の疑問に答えを出すかのように、映画の開始早々、依頼人の美女にセクハラをかます獠に、おなじみ「100tハンマー」とともに香(かおり)の叫びが炸裂する。

「時代の空気を読まんかーーーい!!!」

そうだそうだそのとおり! ドッと笑って、観客は悟る。そうだ、そこは笑えばいいんだ!

このセリフ、まるで香が30年前から“現在”にタイムトリップしてきたことをわかって言っているようで、メタ的におもしろい。

ゆるんだ空気を受けるかのように、獠のセクハラは加速・暴走していく。いやね、もう、ハッキリいってかなりヒドイ。でも、一度あたたまった場の空気は、それを許す。そうだよね、「シティーハンター」ってそうだったよね、獠はこうじゃなきゃね、と。

そしておそらく、「シティーハンター」に改めて親しむ層も理解する。これはこういう作品だと。「もっこり」獠ちゃんの暴挙は、いつも香に阻止され笑いに昇華され、誰も傷つけず、真に不快にさせることはない。安心して、笑っていいのだと。


ルミネエスト新宿にバスタ新宿、スマホにドローン……“現在”の新宿がずらり


舞台となる新宿は、行ったことのある人なら誰でもわかる、リアルな現代の新宿だ。歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿のゴジラ(2015年〜)、東口にあるルミネエスト新宿(2006年〜)、高速バスターミナルのバスタ新宿(2016年〜)と、「シティーハンター」の世界にはなかったスポットが、これでもかと盛りこまれている。

アイテムも同様だ。スマホは当然使われているし、空飛ぶドローンが日常シーンで活躍する。最初はギャップを感じるが、あっという間に違和感を感じなくなる。

そのいっぽうで、新宿の路地の小さな店では、昔も今もあまり変わらない営みが続いている。顔なじみの店主が、日頃もめごとを解決してくれるお礼にと、獠の危機に手を貸し、依頼人をかくまってくれる。

こんなところで、現代の新宿と「シティハンター」の「新宿」が、さらっとつながっている。

見ていると、不思議な気分になってくる。30年の時間を飛び越えて、現在の新宿で、全盛期の獠が、海坊主が、ハードボイルドに縦横無尽の活躍を見せるのだ。


オリジナルキャストと名曲ぞろいの主題歌。まるで幸せな「同窓会」


果たしてヒーローは、時間の経過とともに年をとるものだろうか?

「シティーハンター」のパラレルワールド作品とされている「エンジェル・ハート」では、獠には約10年の時間が流れ、香を失い、自分も衰えを感じ始めている。「その後の彼ら」を見られたことはうれしかったが、年をとった獠を見るのは寂しくもあった。

そう考えると、不思議な高揚感を感じる理由のひとつが見えてくる。

舞台はまぎれもない「現在」だが、獠や香たちの時間は止まっている。何を失うこともなく、あの日の姿のままで。

その、本来ありえない設定が、実際に30年の時間を経た私たちの心を、懐かしく、ウキウキとさせているのではないだろうか。

キャストを若手の声優に変更したりせず、オリジナルキャストが集結したこともよかった。「キャッツ・アイ」の来生三姉妹の登場も、うれしいプレゼントだった(来生泪役の藤田淑子さんが、収録前の2018年12月に亡くなられたため、瞳役の戸田恵子さんが代役を兼ね役で泪を演じた)。

そして劇中に次々と流れるのは、「Get Wild」に小比類巻かほるの「City Hunter ~愛よ消えないで~」といったヒット曲ぞろい。

そう。この幸福感は、まるで幸せな「同窓会」のようだ。

最初はドキドキするけれど、すぐにあの頃の空気がよみがえるし、みんな中身は全然変わってない。

劇中で、初めて見る観客の目線に近い存在は、今回の依頼人の進藤亜衣だ。獠のセクハラに、怒るというより呆れる亜衣の反応は、現代っ子らしい。

設定や人物関係、それぞれの性格がわかるよう、全体にとても細やかに配慮がなされているので、世界観に慣れない初めて見る人にも安心しておすすめできる(怪盗キャッツ・アイの“仕事着”にツッコミを入れた香はグッジョブ!)。

「ジョジョの奇妙な冒険」「聖闘士星矢」「どろろ」など、往年の作品が次々にアニメ化・リメイクされる今、「原作が昔の作品だから、今の人にはつまらない」とは言い切れなくなっている。

そして「劇場」は、自室や家を出て、「みんなでアニメを楽しむ空間」になりつつある。

どんな世代の人も男性も女性も楽しめる、間口の広いエンターテイメントとして、懐かしくて幸福な本作を、いろんなきっかけで幅広い人が劇場で見てくれればいいと思う。


(文・やまゆー)

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