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商売的に「これは当たりそうだ」と感じたことは、一度もなかった
真木 尺については片渕監督が折れてくれたんだけど、それでも金が集まらない。だけど、スタジオにはアニメーターたちが集まってきて、絵を描きはじめているわけですよ。やむを得ず、ジェンコから少しずつ出資するしかない。その後ですよ、クラウドファンディングを始めるのは。始める前に、クラウドファンディングはお金集めが目的なのか、応援団をつくることが目的なのか議論しました。やっぱり応援団だよね、だとするなら映画ができて宣伝する時期にやるべきだろう、という結論になって、クラウドファンディングは一度、見送ったんです。
ところが、やっぱりお金がない。ジェンコが、全額出資するわけにはいかない。どこかで、逆転ホームランを打たなきゃ前へ進めない状況でした。その打開策はやっぱり、クラウドファンディングだったんです。当初の狙いは2千万円ですから、映画1本の制作費にはとても足りない。だけどパイロットフィルムをつくれれば、それが一種の起爆剤にはなってくれるはず。結果的に4千万円が集まって、出資者を集めるための大きなファクターになりました。それと、ユーザーに熱意があったので、「こんな短期間に大勢の人が集まるなら当たるんじゃないか」と、出資者に感じてもらえました。
そうしてできたパイロットフィルムが、さすがにこれはねえ……心を打つわけですよ。僕は「この映画は絶対に儲からないけれど10年ぐらいしたらペイするだろうから、一緒にこの監督を世に出そうぜ」と、親しい人たちに話していました。パイロットフィルムができると、僕の言葉がそれっぽく聞こえてきて、なんとなくポツポツと出資者が集まってきました。
── 「これならイケる」と感じたのは、いつですか? 真木 イケるというのは商売的に、という意味ですか? そう感じたことは一度もありません。片渕は監督だから、「最初から自信があった」と言えますけど、彼と「ヒットするかどうか」なんて話はしていません。初号試写のとき、「すごいものができたな」とは思いました。ダビング段階からずっと見ていましたから、「とてつもない作品になるんじゃないか」と予感はしていました。だけど、それが当たるかどうかはネタの問題です。ネタの問題は、いくら出来がよくても乗り越えられないんです。なんとかリクープできそうだと感じたのは、公開直前でした。なぜなら、試写の反応がよかったからです。
── マスコミ試写に入りきらないほど、人が集まったそうですね。 真木 そう、試写室が満席で人が入れなかった。そんなこと、滅多に起きませんから。SNSの書き込みでも話題になっていたし、「これは人が来るな」「損はさせない結果になるだろうな」と感じられました。
── すると、真木さんの最初の想定よりは上回っていったわけですか? 真木 もう、はるかに上回っていました。窓口収入でいくら、DVDの売り上げでいくら、配信でいくら海外でいくら……と、収益のシミュレーションを想定していたわけです。今では笑い話ですけど、その中に「文化庁の助成金:2千万円」という項目がありました。僕は「助成金だけは絶対に取ります」と、周囲に言っていました。それぐらい、クオリティに自信があったんです。
── その助成金は返さなくてもいいお金なんですか? 真木 いえ、返さなくてはいけないんです。儲かったから、返すことができました。