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放送尺が短くなろうとも芝居の空気感を優先、徹底的に“人間らしさ”を描くさまざまなこだわり
── 実際の中学生たちに取材や聞き取りは行ないましたか? 岸 川越の子たちではないのですが、知り合いを伝って中学生の子たちの取材をさせてもらいました。その子たちがそのときにやっていた行動を作品内にバンバン入れています。
南 最初はレコーダーで会話だけ録っていたんですが、途中から映像を回していきました。というのも、中学3年生独特の動きってあるんですよ。たとえば大人って、こうしてしゃべっていてもそんなにアクションをしないじゃないですか。でもあの子たちってすぐに動くし。
岸 リアクションも大きいし、何かっていうとくっつくし。男子もその点は同じなんですけど、人前に来ると縮こまって、一定のおとなしさを見せるんです。人にもよるでしょうけど、女子の場合はそれはなかったかな。第1話のラストで茜がお姉ちゃんにスマホのスクリーンショットを撮りまくるという嫌がらせは、取材のときの様子を採用させていただきました(笑)。
── 男子のほうでは、主人公の小太郎がするシャドーボクシングが印象的でした。 南 あれは男子なら100%経験がありますよね。
岸 南さんがよく言う「男子はいつも何かと戦っているのだ」説(笑)。
南 いざという時の戦いに備えて鍛錬を積むのが、中学生男子たるものの務めなのだと(笑)。
岸 男性視聴者は、「やりやがった!」って思っていることでしょう(笑)。
南 でもアニメになったことってなかったんじゃないですかね? だからこそやってみたかったし。
── またアニメーションがすばらしかったです。 岸 あそこはウチのスーパーアニメーターである松本剛彦によるものです。
── アクション作画監督の領域だったんですか(笑)。 岸 いやいや、あれを描ける人はそうそういませんよ? だからこそ、ああいうところに投入しているんです。「あの頃のお前を描け!」と(笑)。
南 あの腰の入っていないパンチね。
── モハメド・アリのポスターを部屋に貼っているにもかかわらず。 岸 ああ見えて小太郎は格闘技好きなんです。文学少年だからといって、格闘技好きではないと誰が決められましょう? 人物セッティングについても、ひとつ決めるとそこから何か一律になるということはよくある話じゃないですか。たとえば小太郎だったら、文学が好き―本が好き―ならば小太郎の部屋には本ばかり? いやいや、そんな人間おるかいなと。小太郎の部屋にはお城のプラモがあったり、部屋の端っこにダンベルが置いてあったりもする。そういう男の子が通る道を彼も正しく通っている人間ですから、何かひとつだけに染まるというわけではありません。そこは1人の人間としてきちんと描いています。そのひとつとして文学に強い関心を持ったという話です。
── それだけ丹念に作り上げられたキャラクターたちですが、ストーリーの本筋はあくまで小太郎と茜に絞って描かれています。 岸 ショートストーリーに他キャラの話は少しありますが、本編中はそれを描いている余裕がないんですよ。カメラを向けたら、尺的にもあの2人を追っかけるので精一杯です。
南 最初の頃は恋愛群像劇みたいにするというアイデアもあったんですけど、いざ書き始めてみると2人のことだけを描くだけでいっぱいいっぱいでした。他キャラの余ったアイデアは本編の後ろに時々付くショートストーリーとして使っています。なぜショートストーリーが毎回ではないのかというのには理由がありまして。
岸 この作品はプレスコで声のお芝居を録ったのです。通常のアフレコであれば演出家がタイミングを切って、芝居の間や尺を示して役者さまに芝居を当ててもらうわけですが、この作品の場合は、あくまで役者さまの間で芝居をお願いしますという形でやってもらっていますので、完成尺が読めず、結果として放送番組フォーマット尺に対して時間が余ることもあるんです。ショートストーリーは当初から載せる予定ではあったのですが、この時間尺の調整という側面もあります。
南 特に女子の会話テンポが早かったですね。
岸 想像以上でしたね。とてつもない速度で駆け抜ける。でもそれでいいんです。それがリアルだから。コンテで大体の尺は出しているものの、役者さまには本当に好きなようにやっていただいていますね。ガイドはガイドでしかないし、絵に引っ張られるような芝居であれば、絵を隠して芝居をしてもらったこともあります。言ってしまえば、オッサンの考えた間合いなんてどうでもよかったんですよ(笑)。役者さまが中学生になりきって出す空気感と会話を、きれいに成立させるのが主目的。「変わってもいいですよ」なんてレベルではなく「ゴソッと変えてよし」という。特に団体でしゃべるシーンなんて、台本ですらガイドでしかない。すさまじいことになっていて、絵にするほうは真っ青ですよ(笑)。
── キャスティングもそのあたりを考慮に入れたうえでのことでしょうか? 岸 そうですね。できるだけ中学生に寄せるという配慮から、最終的には比較的若い役者さまたちを選ばせていただきました。皆さんお若いにもかかわらず達者で、今回はいわゆるアニメの定型ではない芝居を求めていたのですが、まさに中学生がそのへんでしゃべっているかのような芝居をしていただいています。とくに年齢的に中学生に近い役者さんなんて説得力が違いますね。もう、中盤以降は「おまかせいたします」と(笑)。柿原さんがシナリオをしっかり書いてくれてはいましたが、リアルタイムを生きる若い子たちの持つ空気感は文字上では測れないものがあります。それを彼ら彼女らに芝居してもらった結果があのフィルムというわけです。