「ユーリ!!! on ICE」はフィギュアスケートが題材。物語の縦軸になるのは、メンタルの弱い特別強化選手・勝生勇利と彼のコーチとなったヴィクトル・ニキフォロフの関係だ。 勇利は23歳。実力はあるもののメンタルが弱く、初出場したグランプリファイルで大敗。久しぶりに故郷の九州・長谷津へと帰郷する。故郷のリンクであこがれのヴィクトルのプログラムを滑る勇利。その動画がネットにアップされ、その動画を見たヴィクトルは、現役を引退し、勇利のコーチになることを申し出る。 ヴィクトルは、世界選手権5連覇をなしとげたリビング・レジェンド。自分が愛され尊敬されることを当たり前のことのように受け止めて生きているタイプ。メンタルの弱い(つまり自己評価が低いほうへふれがちな)勇利とは正反対のタイプ。だから勇利とヴィクトルの思いには若干の距離がある。
勇利の涙にうろたえるヴィクトルを見て、勇利は逆に冷静になるのである。ここでこれまで不均衡だったヴィクトルと勇利の精神的関係がようやく並ぶことになる。ヴィクトルに愛されることが、逆に不安につながっていた勇利だったのだが、これを期に、勇利は自分をちゃんと愛してくれなくては困る、と考えるようになる。 この精神的位置関係の変化が、プログラムの始まる前に、勇利が頭を下げたヴィクトルのつむじをつつくという演技に現れているのである。ここが「ユーリ!!! on ICE」のクライマックスのひとつだったのは間違いない。