アニメ業界ウォッチング第5回:アニメーション監督/演出家・山本寛が本音を語る!

2014年06月06日 16:000

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「業界の中で群れる」ことには、もはや興味を持てない


――今は、業界全体をよくしようというよりは、自分の作品の現場をよくしたい気持ちの方が強いですか?

Twitterをやめただけで、拍手されましたからね。それで周りのみんなが幸せになるんなら、やめてよかったです。業界全体に関しては、もう何が起ころうが知ったことではない。……だからもう、「マチ★アソビ」にも毎回は行かなくなるでしょうね。


――徳島県で行われているアニメ関連のビッグイベントですよね。

「マチ★アソビ」のプロデューサーである近藤光さんは、好きで尊敬しています。だから、近藤さんの誘いには今後も応じていきたいんですけど、「業界の中で群れる」という意味では、行きたくありません。「業界人の裏話トーク」なんて、もう出たくないですね。そもそも、そんなに濃い話をしているわけではないですから。


――すると、近藤プロデューサーが好きだから、「好きな人に対しては力を貸そう」という気持ちはあるんですね?

もちろん、あります。単に「業界人が集まっているから」という理由では、参加したいとは思わないというだけです。近藤さんのことは、うらやましいですよ。徳島市のような地方都市を、「マチ★アソビ」であんなに盛り上げて、いいことをしていると思います。僕も真似したいぐらい。ただ、「業界人なら、マチ★アソビに参加しなきゃダメだろう?」という空気は、どうでもいい。


――それ以前は「業界の人たちと仲良くしないとな」という気持ちはあったんですか?

ありました。特に、京アニを出た直後は、いろんな人に頭を下げねばならないと思いました。だけど、僕はそういうことができないキャラクターなんだとわかりました(笑)。いやあ、無理でしたね。「空気を読め」とか「お前、わかってるだろうな?」という言い方が、僕は大嫌いなんです。それで、どんどん仲たがいしてしまって。


――だけど、山本監督としてはロジックで発言されているんですよね?

そのつもりなんですけどね。感情だけでは発言していません。絶えず「現状を何とかしなければいけない」と思って発言しているんです。自分の発言が業界に響くことで、何か変わるはずだと信じて、発言してきたつもりです。


――山本監督に噛みつく人には、同属嫌悪の感情があるのではありませんか?

それは感じます。僕自身もオタクですから、僕もオタクに対して「楽しいな」と思う部分と「気持ち悪いな」と思う部分の、両方がある。だからこそ、半分は僕を「気持ち悪い」と感じるのは仕方ないけれど、もう半分は「僕らは仲間同士じゃないか、認め合おうよ」と思うんです。僕が高校~大学の頃、アニメ雑誌に掲載されていた宮崎(駿)さんや庵野(秀明)さんが、えらく過激なことを書いていましたよね。




――アニメファンやオタクを、厳しく批判するような発言をしていましたね。

そうです。宮崎さんや庵野さんの発言を、僕は共感して読んでいました。過激かもしれないけど、彼らから僕らオタクに向けられた批判は、真摯に受け止めなければいけない……そう思って読んでいたのが、僕らの世代。そこからおそらく、ネットによってアニメ言論そのものが変わってしまったんでしょうね。2ちゃんねるも、かつては牧歌的でした。賛否両論、議論を戦わせる場でしたから。今は「一方的に叩いてなんぼ」の掃きだめになってしまった。ネットでは、匿名で何でも書けるからでしょうね。どうして匿名になると、ああも攻撃的になってしまうのか……。本当に疑問です。


いまだに、世の中でのアニメ業界の地位は低い



――山本監督は、言動がオープンすぎるんですよ。だから、サンドバッグになってしまったのではありませんか?

うん、自分からサンドバッグになった部分もあります。だけど、どうなんだろう……。じかに会えば普通の人間なのに、匿名になった瞬間、別の人格が働くみたいです。もうひとつ、喋り言葉と書き言葉の違いも原因でしょう。「山本監督の言葉は、文字にするとえらく凶暴だ」と、よく言われるんです。書いていることと話していることの内容は同じはずだし、むしろ、こうして喋っているときのほうが、よほど辛らつに聞こえるんじゃないかと思います。ですから、手書きの手紙や書簡と違って、ネットの中で文字、フォントにして伝えることの難しさを感じます。僕も僕を攻撃する人も、互いに言葉が通じてないんじゃないかな。結局、ディスコミュニケーションだけが積み重ねられていく。そのすれ違いが匿名の誰かとの間でだけ生じるなら仕方ないけど、同じ業界の人間でさえ、ネットを介すると話が通じない。



――アニメ業界の中には、他の業種とは話ができないような人もいますよね。

ええ、いますね……。どうしてなのかな、と考えるのですが、「絵を描く」という商売そのものの中に、何か根本的な問題があるのかも知れません。ピクサーやディズニーの人間がマトモなのかと言ったら、そんなことはないでしょうからね。自分も含めてだけど、絵を描いてお金を稼ぐ人間は、マトモではないんですよ。それなりの大学を出た僕が普通の職業につくと思っていたうちの親が、「アニメ会社に就職する」と聞いたとき、どんな顔をしたか……いまだに忘れられない(笑)。だからね、いまだに世俗の中ではアニメ業界は異常なんですよ。古今東西、芸事って、位の低い存在じゃないですか。芸術家の身分が、普通のサラリーマンより上になることは、今後もないでしょうね。


――だからこそ、絵を描く人たちをまとめるディレクターが必要なんじゃないですか?

うん、そうなんです。アメリカではアニメーターの地位が守られていると言われますけど、僕はあまり信じていません。少なくとも、日本では守られていません。


――今日のようなお話をネットで伝えるには、どうしたらいいと思いますか?

こうして、直に話していくより他にないんでしょうね。でも、このインタビューも『やらおん!』に転載されたりするのかな(笑)?だとしたら、それは同じことの繰り返しでしかない。あまり意味がないですね。今日は、Twitterで何百回となくツイートしてきたことを、口で話しているだけであって。ただTwitterは140文字という制限がじゃまをして、一部分だけコピペされて広まってしまうんですよね。


――同じように、全12話あるシリーズのうち、1枚の絵だけで適当な評価を下されたりしませんか?

それはありますね。いちばん作画のヘタれている動画だけキャプチャして「作画崩壊」と騒がれたりね(笑)。『Wake Up, Girls!』も、そんなに素晴らしい作画ではなかったかもしれないけど、ヘタれている絵だけ抜き出されて「作画のひどいアニメ」として、一人歩きしてしまう。第1話だけ見る「1話切り」は、別にいいと思うんですよ。ただ、「1話で切ってやったぜ」と自慢する人がいるでしょう? 途中から見はじめて面白いってこと、あると思うんですけどね。僕はアニメでもドラマでも映画でも、途中から見ますよ。途中からでも、面白い作品は面白いですから。最近では『リーガルハイ』(2013年)がそうですね。


――「第1話から見ないと、見たことにならない」と信じ込まれてますね。

だから、最近のアニメは、第1話に何もかも詰め込むようになっています。「この娘が主人公で、性格はこうで、設定はこうで……」と、つまびらかにしないと理解してもらえない。見る側の理解力が、弱くなってきているのかもしれません。


アニメファンは、かつて「孤高の存在」だった



――2011年の東北関東大震災のとき、宮城県へボランティアに行かれましたよね。アニメを作ると同時に「常に現実と接していたい」という欲求はありますか?

アニメが現実逃避の手段だけであってはならないと、僕は思っています。もちろん、いかなるエンターテインメントでも、現実逃避の手段になり得ます。だけど、アニメの場合は、みんな逃避したまま帰って来ないんですよ(笑)。その傾向が、アニメという媒体は顕著なんです。なので、「現実逃避してもいいから、必ず帰ってきましょうね」という橋渡しをしているつもりです。同時に、責任も感じています。……というのは、「現実逃避する楽しさ」を、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)や『らき☆すた』などで描いてしまったからです。つまり「終わらない日常」の居心地のよさを描いてしまった。その責任は感じます。しかも、「ひとりで孤独に楽しむのではなく、コミュニティを作ると楽しいよ」という作品にしてしまったため、2ちゃんねるやTwitterで群れることをも肯定してしまった。俺はいったい、何をやってきたのか……。

もともと、アニメファンって、孤高の存在だったでしょう? 流行には見向きもせず、誰よりも専門知識があって、誰よりも多くのアニメを知っていることが「勝ち」の証だった。今は、周囲と同じアニメを見ていないと、取り残されてしまう。単に、みんなと同じ情報を共有することで、満足してしまっている。オタクが群れるようになってしまったんですよ。



――今年40歳ということは、今後、業界の中でリーダーシップを求められていくんじゃないですか?

いや、求められる前に放棄しちゃったんですよ。本当にね、自分をどうしたらいいのか、わからないんですよ。強いて言うなら、『Wake Up, Girls!』の結果次第でしょうね。この作品がどこまで大きくなるのか、業界内外のどこにどんな影響を与えるのか。もし『Wake Up, Girls!』が通じなかったら、今の僕には打つ手がない。それぐらいの気持ちで取り組みましたから。


――常に、ぎりぎり精一杯の力を出し切らないと、気がすまない性格ですか?

いえ、そんなことはないですよ。だって、『戦勇。』に僕の人生賭けてるとすれば、あまりに重すぎるでしょ(笑)。ああいう作品は、気軽に楽しんで作らないとね。だけど、ライフワークと呼べるような作品は、今後も作っていきたい。それを許してもらえるかどうかは、まだわかりません。皆さんの応援次第です。


――もちろん応援しますけど、山本監督には文句を言いやすいんですよ。

そういうキャラなんでしょうね。いじられるのは、別に構わないんです。関西人だし。だけど、いじり方には気をつけてね……って感じでしょうか(笑)。

(取材・文/廣田恵介)

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涼宮ハルヒの憂鬱(第1期)

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(C) 2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団

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