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やる気のある若い人たちに、どうやって機会を与えるか?
── クロッキー、フィルムスタディ、パース課題はどのぐらいの時間をかけて学ぶのでしょう? 小島 コンテンツ部の場合、2年間です。ただ、どうしても基礎的なことばかりでは飽きてしまうので、本人たちがやる気になってくれるような課題も間に挟みます。2年目は、先ほども言ったように、実際に版権イラストを描くような形で、アイデア出しから本人たちと一緒に進めていく課題もあります。
動画マンの場合は、入社して1年後に原画への昇格試験があります。ですから、動画の場合はボールが跳ねる原画を描くバウンドボール、走り・なびきなどの基本的な動きを覚えるアニメーション課題にも取り組んでもらい、その後にレイアウトやラフ原画課題へ進みます。レイアウトを描く、タイムシートを書くこととはどういうことなのか、なるべく早く経験してもらいます。その段階でわからないことが山ほど出てきますから、その疑問に答えるかたちで進めます。1年間で基礎を学ばなければならいので期間は短いのですが、その分、講習会の頻度を高めたり宿題を出したりします。
── 個人差もあるのではないでしょうか? 小島 もちろんです。個人によって重点的に強化したほうがいい課題が、時には責任者からリクエストされる場合もあります。また、上達の早い人のモチベーションが下がらないように、臨機応変に対応しています。そのときに重要なのは、なぜ一部の人だけが先へ進んでいるのか、ほかの人にわかるようにすることです。今年度からは人が増えるので、課題のうち何ができていて何ができていないのか、進行具合を参加者同士で目に見えるようにしたいと思っています。
── 人に教えることも、一種の技術だと思うのですが? 小島 20年前はインターネットはかろうじてありましたが、主な情報源は本かテレビでした。あとは、実際に業界に入ってみないと何もわからない。ですから、アニメーターになるにはそれなりに覚悟の必要な時代でした。しかし、今はインターネットで情報を得られます。ハードルが下がって、「とりあえず業界へ入ってみようか」という新人たちが増えたのではないでしょうか。その代わり、「ちょっと違うな」と感じたら、すぐに辞めたり、他業種へ行ってしまう。どうやって新入社員たちにがんばってつづけてもらうか……を考えた末、しっかり教育したほうがいいという側面があります。
── 7年半ぶりに業界に戻ってきて、何がいちばん変わっていましたか? 小島 とにかく、制作会社が増えましたね。聞いたことのないスタジオがたくさんできていました。制作本数も激増したのですが、スケジュールがかつてとは比較にならないほど厳しくなり、上がりの厳しい作品も増えている印象です。でも、いま活躍している凄腕のアニメーターたちは、7年前とそれほど顔ぶれが変わっていません。勢いのある若手アニメーターも増えてきていますが、作品の増加数には追いついていないように思います。上手い人たちはその人たち同士でネットワークがあるので、話題になった作品では、同じスタッフの名前を見かけます。実力があった名前の売れている人のところへ仕事が行くのは当たり前なので、埋もれている人材、若くてやる気のある人にチャンスを与えることが課題のひとつだと思います。
── 逆に、若い人たちはどんな動機でアニメ業界に入ってくるのでしょうか? 小島 動機は、人それぞれだと思います。今は、作品をつくるだけなら個人でも十分に可能です。そうした環境の中で商業アニメの世界へ入ってくる人の中には、有名なスタジオや好きなアニメーターのもとで仕事したいという心理もあるかと思います。しかし、現場で求められるスキルは非常に高い。ですから、動機は何でも構わないので、自分で情報を集めて足場を固めて来てほしいんです。私の知識なり経験なりは伝えるので、業界に残って続けてほしいと思っています。
(取材・文/廣田恵介)