プロデューサー・紅谷佳和 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第52回)

2021年12月18日 12:000

5年間の営業経験を経て、アニメプロデューサーに


─キャリアについてうかがいます。まずは、アニメ業界に入ったご経緯を教えていただけますか?


紅谷 大学でイベントのプロデュースに関わっていたこともあって、テレビ東京には事業部志望で入社しましたが、最初の配属は営業部になりました。でも、テレビ局って営業が一番、全体像を見ることができるセクションなんですよね。セールスをするためには売上だけじゃなくて、番組のこともちゃんとわかっていないといけない。テレビ番組の編成全体を見ることもできるし、会社がどういった状況に置かれているのか、といったことも知ることができるんです。


そうして5年間営業をやり、テレビ局全体も見えてきた頃になって、「テレビ局にいるので、やっぱり次は番組作りがやりたいな」という思いが出てきました。でもテレビ局で番組作りとなると、視聴率が絶対について回ります。「視聴率を取ったものが優秀な作品」、それが正直、僕は嫌だったんですよね。視聴率という数字で勝った負けた、いいもの悪いもの、というのがすごく嫌で、「番組の評価を違う物差しで測れるものはないかな?」と考えた時に、思いついたのがアニメだったんです。


今でこそ、実写ドラマもバラエティも、パッケージ化されて売り出される時代すが、当時は、作られた映像がすぐにパッケージになって売られたりとか、映像がきっかけでマンガやおもちゃやゲームが売れるといったことがあるのは、アニメぐらいしかなかったんです。そのことに気づき、「僕もアニメの制作に関わって、自分が関わった作品を観た人がおもちゃを買ったりとか、ゲームを買ったりとか、そういう手伝いをしてみたい」と思って、アニメ制作部に異動願いを出しました。なので、昔からアニメが好きということではなくて、入社して営業を経験してから、アニメの制作に関わりたいと思うようになったんです。


─大学は、芸術や経営関係の学部をご卒業なのでしょうか?


紅谷 いえ、上智大学法学部法律学科を卒業しました。


─アニメに関して師匠的な方はおられますか?


紅谷 社内でいえば、岩田圭介さんですね。今はギャガにおられますが、岩田さんは僕が異動願いを出した時のアニメ制作部長で、岩田さんに引っ張ってもらえなかったら僕がアニメを作ることはなかったので、岩田さんには本当に感謝しています。


─岩田さんから学んだことで、一番印象に残っていることは?


紅谷 「多角的にものを見なさい」と言われましたね。作品を通して何を売りたいのか、どういうところを推していきたいのか、単純にアニメを作るのではなくて、そういったことを考えるようアドバイスを受けました。

 

「AT-Xの3年間」が転機


─キャリア上、転機になったお仕事は? 紅谷さんはプロデューサーデビュー作「ケロロ軍曹」から、大ヒットを経験されています。


紅谷 僕の中で仕事の転機になったのは、2006年~2008年のAT-X出向です。アニメ制作部に異動してからはずっとアニメをやってきているので、そこはあまり変化がないんですけど、AT-Xでの3年間は、制作部ではなくて、編成部にいたんです。要するに、アニメを作る仕事ではなくて、アニメを買いつける仕事をしていました。もともとアニメが大好きでこの世界に入ってきたわけではないので、出向以前はアニメに関する予備知識が乏しい中でいきなり担当を任され、アニメを作っていました。


AT-Xはペイチャンネルなので、毎月お金を払ってくださる加入者さんに対して、最適なラインアップを提供していかなければなりません。そうなると、今はどういったものが注目されていて、過去にどういったものが制作されていたのか、といった知識がないと何の仕事もできない。そこからあわてて、いろんな作品を観るようになったんです。そこで過去の作品はもちろん、どういったクリエイターがいて、どういった歴史があったのか、というのも知ることがでました。買いつけをするので、いろんな権利元と交渉をして、飛び込みで電話をしたりもして、テレ東の制作部にいたらできない、特別な人脈を築くこともできました。なので、AT-Xの3年間というのは、今の僕のベースになっていると思います。


─紅谷さんのプロデュース作品は、息の長い作品が多いのも特徴ですが、何かお気に入りのエピソードはありますか?


紅谷 やっぱり、自分のアイデアからお話を作ってもらえるのはプロデューサー冥利に尽きる、ありがたいことですよね。そういう意味では、「ケロロ軍曹」1stシーズンの最終回「ケロロ小隊 撤退! さらばペコポンよ であります」は、強く印象に残っています。「ひと区切りつける意味で、オリジナルの話で締めましょう」という話になったんですが、その時に僕が、「『ウルトラセブン』最終回のパロディをやりませんか?」と提案したら、実際にまるっと採用してもらえたので、自分の中で誇りになっています。「妖怪ウォッチ♪」(2021)にも、第5話に「負けられないクレーンゲーム」というエピソードがありまして、これはご想像どおり僕から、「『クレーンゲームあるある』からお話を作ってみませんか?」と提案して、採用してもらったものです。

 

 

「作り手として想像をふくらませ、実際に行動し、責任を取る人」


─アニメプロデューサーに必要な資質能力とは何でしょうか? 


紅谷 アニメを観て、「たのしかった。来週も楽しみだな」ぐらいで終わる人は、アニメファンのままでいたほうが幸せだと思います。むしろ、「自分だったら、次はこんな話を作るのに」とか、「自分だったら、こんなスタッフでこんな作品を作るのに」といった、「作り手側になって、想像をいろいろふくらませられる人」のほうが、間違いなく向いています。もちろん、そう思っているだけじゃダメで、「実際に行動に起こせる人」であること。そして最後は、やっぱり「責任を取れる人」ですね。自分の言ってること、やってることに、ちゃんと責任を負うこと。どの仕事にも言えることかもしれませんが、アニメプロデューサーにはこの3条件がマストだと思います。


─現在のアニメ業界について、何か思うことはありますか?


紅谷 今はアニメの企画が、国内の視聴者やファンに向いていないんですよね。テレビ局もビジネスとして関わっているので理解できなくはないんですが、やっぱりもう少し、ユーザーがどんなものをアニメにしてほしいと思っているのか、どんなものを観たいと思っているのか、そういうことに寄り添ったほうがいいんじゃないかなと思います。企画が儲かるか儲からないかは、昔はパッケージの売上が指標になっていて、それはユーザーが判断することだったんです。だけど今は、配信企業が買ってくれるかとか、海外でヒットするかとか、そっちに目が行っちゃっているんです。だから、僕はもっと、ユーザーと向き合える作品が増えるといいなと思っています。


あと気になっているのは、「働き方改革」ですね。アニメ制作業界は個々人で、自分の使命感の中で働いていらっしゃる方が多いので、「1日〇〇時間しか働いちゃいけません」とか、「残業は〇〇時間以上しちゃいけません」とか縛られると、「本当はここまでやりきりたい」とか、「この時期までに終わらせたい」とか、そういうことができなくなったりすると思うんです。アニメーターさんの勤務体系や健康を守ることはすごく大事ですが、現状の施策が必ずしもみなさんの思い通りになっているとは限らないと思いますね。


─テレビと配信の関係について、紅谷さんのお考えをお聞かせください。


紅谷 配信が今、すごく勢いがあるのは事実です。テレビ局でアニメを放送するメリットや、テレビでアニメを観るメリット、というのが薄れていっているのも間違いありません。実際に委員会側にしても、「今回は予算がなくて電波料が払えないので、テレビは使いません。配信だけでいいです」という話が増えています。さらに日本の中でいうと、子ども向けのアニメは減ってきているんですよ。テレビ東京も本数がガクンと落ちています。少子化に加え、YouTubeのような配信コンテンツの登場で、子どもが30分間アニメを観るという習慣がなくなってきていて、5分とか10分の短い動画を観る習慣のほうが強くなっているんです。テレビ東京も、来年から同時配信が始まる予定で、テレビと配信は共存していかなきゃいけないのは間違いないんですけど、大人にも子どもにも、アニメをもう一度、テレビで観てもらうにはどうしたらいいか、それを考えるのが今後の課題だと思っています。


─新型コロナウイルスの影響についてはいかがでしょうか?


紅谷 コロナに関していうと、打ち合わせは全部リモートになってしまいました。ギャグものは特にそうなんですけど、会議の時よりも、そうじゃない時間に生まれるアイデアのほうがおもしろいんですよね。休憩の時の立ち話とか、その後に飲みに行った時の雑談とか。今はそういうのが全部なくなってしまったので、ちょっともったいないなと思っています。

 

「アニメのテレビ東京」を取り戻す


─今後挑戦したいことは?


紅谷 とにかく、「アニメのテレビ東京」を取り戻さなきゃいけないと思っています。昔から「旅、グルメ、経済、アニメ」はテレビ東京の事業の柱で、アニメは局の中でも大事にされているんです。だからいかにして、「この時間になったら、テレ東でアニメを観たい」と思ってもらえるか、というのを改めて真剣に考えていかなきゃいけない。もう、「ユーザーが配信を観なくなって突然、テレビを観始める」なんて時代はやってこないですからね。


─テレビ東京は本年10月から、火・水・木曜日に「アニメゾーン」を設置して、深夜アニメ枠を拡大しました。


紅谷 僕は、火曜の「takt op.Destiny」と水曜の「古見さんは、コミュ症です。」(2021)を担当しています。ただこれは、僕がというよりも、深夜の浅い時間帯でアニメを流せる枠を構築することで、BtoB、BtoC両面でテレビ東京を愛用してもらいやすくしたい、というアニメ局の戦略です。おかげさまで視聴率も取れて反響もあるので、この流れをしっかり大事にして、広げていきたいと思っています。


─最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いいたします!


紅谷 今は配信が主流になって、どこの放送局で流れたアニメも、すぐに配信に回っちゃう時代です。それでも、「アニメはやっぱり、テレビ東京だよね」と思ってもらえるように、僕らはがんばらなきゃいけないと思っています。視聴者目線でおもしろいアニメを作り続けていきますので、これからもぜひ、テレビ東京でアニメを観てくださいね!

 


●紅谷佳和 プロフィール
プロデューサー。株式会社テレビ東京 アニメ・ビジネス本部 アニメ局アニメ制作部所属。東京都出身。上智大学法学部法律学科を卒業後、テレビ東京に入社。5年間の営業経験を経て、アニメ局制作部に転属。2006年から3年間、株式会社エー・ティー・エックス(AT-X)にも出向。初プロデューサー作品の「ケロロ軍曹」(2004~07)を成功させると、その後も「FAIRY TAIL (フェアリーテイル)」(2009~2014)、「のんのんびより」(2013~)、「妖怪ウォッチ」(2014~)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(2016)と数々のヒット作に尽力。そのほか「モンキーターン」(2004)、「メタルファイト ベイブレード~爆~」(2010~11)、「ダンボール戦機」(2011~13)、「クロスファイト ビーダマン」(2011~13)、「イナズマイレブンGO」(2013~14)、「ビーストサーガ」(2013)、「月刊少女野崎くん」(2014)、「ノブナガ・ザ・フール」(2014)なども担当した。現在は「妖怪ウォッチ♪」、「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」、「SHAMAN KING」、「境界戦機」、「takt op.Destiny」、「古見さんは、コミュ症です。」を手がけている。現場がいろいろなことに挑戦できる環境を提供し、視聴者が本当におもしろいと思えるアニメを作り続ける、腕利きアニメプロデューサーである。

 

※TVアニメ「妖怪ウォッチ♪」 公式サイト
https://www.tv-tokyo.co.jp/anime/youkai-watch2021/

※TVアニメ「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」 公式サイト
https://www.shinkalion.com/

※TVアニメ「SHAMAN KING」 公式サイト
https://shamanking-project.com/

※TVアニメ「境界戦機」 公式サイト
https://www.kyoukai-senki.net/

※TVアニメ「takt op.Destiny」 公式サイト
https://anime.takt-op.jp/

※TVアニメ「古見さんは、コミュ症です。」 公式サイト
https://komisan-official.com/

※株式会社テレビ東京 アニメ番組一覧
https://www.tv-tokyo.co.jp/genre_anime/


(取材・文:crepuscular)

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