プロデューサー・紅谷佳和 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第52回)
「垂れ流しのメディア」として意識すべきこと
─紅谷さんが原作ものを企画する場合、どういう基準で選ばれるのでしょうか?
紅谷 自分が企画することはあまりないんですけど、やっぱり自分が原作を読んでおもしろいと思える作品じゃないと、人には勧められないと思います。「自分なら絶対におもしろくできる!」という確信がなければ、僕からは提案しないでしょうね。
─アニメに限らずテレビ局製の映像は、最大公約数の視聴者を獲得するために作品の多様性が失われがちだと批難されることがあります。紅谷さんも、ターゲットはできるだけ広く取る方向で、プロデュースするのでしょうか?
紅谷 本意ではないんですけど、局のプロデューサーである以上、視聴率はそのまま会社の売上につながるので、そこはある程度、意識せざるをえません。でも僕は、それだけじゃいけないと思っています。よく僕は言うんですけど、配信は「その作品が観たくて、そこに行くメディア」ですが、テレビは「垂れ流しのメディア」なんですよ。要するに、「その時間にその作品が観たいわけじゃないけど、テレビをつけたら偶然やってました」というのを狙えるのがテレビ。なので、「たまたま観たけど、こんなおもしろい番組やってんじゃん」と思ってもらえること、どんな人が観てもおもしろいと言えること、がとても大切なんです。
オリジナル作品は「視聴者目線で考える」
─オリジナル作品で気をつけていることはありますか? タイトル数は多くはないのですが、紅谷さんは「シンカリオンZ」、「ノブナガ・ザ・フール」(2014)、「境界戦機」(2021)、「takt op.Destiny」(2021)などに関わっておられます。
紅谷 最初に断っておきたいのですが、局からオリジナル作品が生まれることはまずありません。いろいろな関係者さんから企画が持ち込まれて、「テレビ東京さんも一緒にやりませんか?」というケースがほとんどです。なので、僕自身がオリジナルの企画を考えることはあまりなく、それを自分の仕事だとも思っていません。ただ、いざその企画に参加すると決めた場合に一番気にしているのは、「視聴者目線で考えること」です。特にシナリオですね。原作ものであれば、予備知識があって、そのうえでアニメを観る人が多いですよね。でもオリジナルの場合は、中身をまったく知らない。なので、「これは本当におもしろいのかな?」というのを冷静に考える。作品を作るというよりは、作られた作品を観て、「ヒットするのかな?」、「わかりやすいのかな?」というのを視聴者の立場で考えるようにしています。
─拙連載でプロデューサーの諏訪道彦さんは、オリジナル作品は「『マスメディア』で培ってきたビジネスモデルには乗りにくい」とおっしゃっていました(編注:https://akiba-souken.com/article/46657/)。
紅谷 僕の感覚では、オリジナルはプロモーションが難しいんですよね。原作があれば、マンガの掲載誌に「アニメ化決定」が出るとか、いろいろプロモーションの方法が考えられますし、作品の中身もそれを読めばわかります。でもオリジナルって、「こういう作品ですよ」って言っちゃうと、それはネタバレの可能性があるわけですよ。タイトルしかわからない、中身もわからない。そこでどうやって作品を売っていくんだとなると、すごく特殊な声優陣を使うだとか、すごく有名なクリエイター陣を使うだとか、手段が限られてくるんです。放送局としては、事前だったら特番を組むとか、情報番組を活用したりもできますが、いざ放送が始まると、あとは番宣を流すぐらいしか作品を宣伝するすべがない。そういうのも、テレビでオリジナルを広める難しさだと思います。
スタッフから選ばれるプロデューサー
─スタッフィングのこだわりをお聞かせください。企画ではレベルファイブ、制作会社ではOLMと組まれることが多いようです。また「SHAMAN KING」の場合は、「ケロロ軍曹」を制作したサンライズ第6スタジオ出身の大橋千恵雄さんの制作会社・ブリッジと組まれています。
紅谷 実際は、スタッフありきで僕が作品に関わらせていただくことのほうが多いんです。「SHAMAN KING」の時も、講談社さんとは「フェアリーテイル」で、ブリッジさんとは「ケロロ軍曹」でもご一緒したので、「紅谷ならよくわかっているだろう」ということで僕が選ばれました。レベルファイブさんとOLMさんに関しては、会社同士では一番最初の「イナズマイレブン」(2008~11)の時から、個人的には「ダンボール戦機」(2011~13)でお互いに信頼関係ができあがっているので、「妖怪ウォッチ」シリーズでも一緒にやらせていただいています。なので、僕がOLMさんやブリッジさんを指名しているわけではないんです。企画段階で制作会社と監督は決まっていて、これまでの人間関係の中で最初に話が降りてくるのが僕、というケースが多いんです。
─レベルファイブの日野晃博さんとは、本当に長くお付き合いされていますね。今や昵懇(じっこん)の間柄と言ってもいいのでは?
紅谷 これだけ長くご一緒させていただいているので、これで信頼を得られてなかったら、プロデューサーを辞めるしかないですね(笑)。
─テレビ東京内では、丸茂礼さんとよくご一緒されています。丸茂さんは、「プログラムマネージャー」と表記されることが多いようです。
紅谷 これも社内のクレジットルールで、アニメ事業部の担当者は基本、「プログラムマネージャー」と決めているんです。テレビ東京は分業制でして、放送・制作にまつわる業務はアニメ制作部が行って、委員会まわりとか、ビジネス・権利まわりの業務はアニメ事業部が行っています。丸茂は現在アニメ事業部長で、僕の先輩にあたる方なんですけど、丸茂とは僕が営業の時から一緒に仕事をやってきた間柄なので、信頼関係が築けていると思っています。一番相談しやすいんです。なので、どちらかに企画の話がくれば、お互いに組んでやることが多くなっています。
キャストは「新人積極起用派」
─キャスティングについてはいかがでしょうか?
紅谷 どの作品もオーディションで決まることが多いですが、どういう人をオーディションに呼ぶかについては、スタッフみんなで意見を出し合って、僕からも「こういう人はどうですか?」というお話をしています。ただし、制作や演出面から見た判断も当然加わるので、僕の意見が必ず通るということはありません。多数決になると、僕だけが全然違う人を推してたとか、そういうことはしょっちゅうありますよ(笑)。
─監督や原作者の意向もあると思いますが、新人よりも、ベテランの起用が多いように見受けられます。
紅谷 僕は決して、ベテランを多く入れるべきと思っているわけではなくて、むしろ「新人積極起用派」なんですよ。初めて主役を得たとか、初めてレギュラーキャラになったとか、メインキャラで新人を使うのにも大賛成です。というのも、その方にとってすごく印象に残る作品になるし、より選ばれたことを感謝してもらえると思うので、一生懸命盛り上げてくれると思うんですよね。それに新人はスケジュールが押さえやすいので、プロモーションのフットワークも軽くなりますし。
─具体例をいただけますか?
紅谷 新人の話からは逆行してしまいますが、「妖怪ウォッチ」はベテランが多いんですけど、この作品は妖怪がめちゃくちゃ多いんですよ。すべての妖怪に違う声優さんをあてるわけにはいかないので、たくさん演じ分けのできる、芸達者な役者さんが選ばれています。小桜エツコさんの起用が「ケロロ軍曹」と被っているのは、まったくの偶然です。「SHAMAN KING」は、前作のファンを大事にしなければいけないので、なるべく当時から替えないという意図から、メインキャストはほぼ続投になっています。「シンカリオンZ」は、全く白紙のところからスタートしていまして、僕からは、少年キャラとして新たな一面が見られそうと思ったので、「運転士役のオーディションには、鬼頭明里さんと東山奈央さんを呼んでほしいです」とお話しました。
スタッフに「ギリギリアウト」を依頼
─そのほかに、紅谷さんがこだわっていることは?
紅谷 僕は必ず現場のスタッフに言うことがありまして、「守りに入らないでください」、「責任は僕が負うから、ギリギリアウトを目指してください」と言っています。スケジュールにしても内容にしてもそうなんですけど、「これをやったら、テレビ局からOKが出ないかもしれないから、止めておこう」と、初めから引いたところで作るのではなくて、「プロデューサーに怒られちゃうかもしれないけど、やりたいからやってみよう!」ぐらいの感覚で作ってほしいと思っているんです。やっぱり突き抜けてないと、「これおもしろいね」、「これ変わってるけど、気になるよね」とかにならないんですよね。「アウト」はさすがに放送させられないけれど、「ギリギリアウト」だったら、その「ギリギリ」の部分は僕がなんとかする。そう現場には伝えています。
─ロケハンには行かれるのでしょうか?
紅谷 ロケハンは基本的に、制作会社と幹事会社にお任せしています。「その期間はその作品にしか関わらない」というのであれば一緒に行くこともできるんですが、複数の作品を担当していることが多いので、時間がないんです。僕が泊りがけで行っちゃうと、レギュラーの納品作業が止まってしまうので。ちなみに、「のんのんびより ばけーしょん」(2018)の時はSILVER LINK.さんとKADOKAWAさんが、「シンカリオンZ」の時はOLMさんとSMDEさんと小学館集英社プロダクションさんのほか、シナリオライターさんも、ロケハンに行っていたと思います。
─「妖怪ウォッチ」の劇場版では、「プロデューサー」に紅谷さんのお名前がないこともあるようです。
紅谷 これはテレビと映画で、クレジットのハンドリングが違うからです。「妖怪ウォッチ」の映画は幹事が小学館さんなので、小学館さんを軸に決められています。だけど、関わり方はテレビとまったく同じです。僕もいちからシナリオ会議にも立ち会っています。
─音楽制作には関わっておられますか?
紅谷 いえ、餅は餅屋なので、音楽プロデューサーにお任せしています。
クレーンゲームで息抜き
─息抜きには何を?
紅谷 クレーンゲームです。暇さえあればぬいぐるみを釣っていて、家じゅうぬいぐるみだらけなんです。子どもにはよろこばれるんですけど、奥さんには「いいかげんにしろ!」って言われています(苦笑)。でも、クレーンゲームの景品を知るのって、世間で人気のキャラクターを知るうえでとてもいいと思うんですよね。「リラックマ」みたいな映像化されていないキャラクターで、普通にアニメの仕事をしているだけなら気づけないキャラに出会うこともありますから。
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