他の制作会社からも頼られるプロデューサー
─里見さんは、バーナムスタジオとライデンフィルムを経営されているわけですが、企画の立て方はどう違ってくるのでしょうか?
里見 初動はそんなに変わらないです。最初は、「この作品をアニメにできないか?」とか、「一緒に何かアニメの企画を探さないか?」とか、お声がけをいただくところから始まります。その後、プロダクションとして僕がいたほうがいいのか、プロデューサーとして僕がいたほうがいいのか、という役割を決める時に変わってきます。決める時にはもちろん皆で決めています。
ほかのプロデュース会社とちょっと違うのは、制作会社から声をかけられることもあるというところですね。普通はお金を出す側に雇われるんですけど、僕の場合だと、制作会社から「手伝ってよ」と呼ばれるケースがあるので、その場合には、僕の個人会社であるバーナムスタジオがやることになります。
─「ロウきゅーぶ!」以降、project No.9とタッグを組むことも多いようですが、これも制作会社からお話があったからなのでしょうか?
里見 そうですね。project No.9さんだけではなく、「魔法科高校の優等生」のCONNECTさんもそうですし、「ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルてZ」の「おぺ2」(2005)の時も、タツノコプロさんからご連絡をいただきました。現場から見ると話しやすいクライアントだし、クライアントから見ると話しやすい現場、みたいな感じになっていますね。
─里見さんの企画書には特徴的なフォーマットや書き方はありますか?
里見 僕は企画書を作ったことがないんですよ。僕から営業することはあまりなくて、なんとなくぼんやりしていると、誰かが「お前、暇だろ?」、「助けてよ」と声をかけられることが多いので。プロデューサーが作る企画書というのは、お金を集めたい時とか、原作の許諾を取る時とか、現場となる制作会社を探す時とか、提出先によって内容が変わってきます。多くのプロデューサーがそうした企画書を作っていると思いますが、僕の場合は声をかけられたら、「何が足りないの?」と聞いて、「それなら、このスタジオを紹介しますよ」と言えば終わるので、企画書をそんなに必要としていないんです。
─EGG FIRM代表でプロデューサーの大澤信博さんは、里見さんが説明された3種類の企画書を作っておられるそうです(編注:https://akiba-souken.com/article/43737/)。いろいろな仕事のやり方があるのですね。
里見 大澤さんはかなり万能な方で、独立系プロデュース会社としては、EGG FIRMが一番王道的なやり方をされていると思います。
オリジナルアニメのメリットとデメリット
─オリジナルアニメに対してはどのようなお考えをお持ちですか? 一時期はオリジナルアニメの減少も危惧されましたが、本年は豊作年になりそうです。
里見 多い少ないは気にしなくていいと思いますよ。原作ものが当たれば原作ものを作ろう、オリジナルが当たればオリジナルを作ろう、みたいな流れがありますから。僕としては、オリジナルは結構難しいなと思ってます。原作ものって、すごい競争の果てに生まれているんですよ。マンガ原作を例にあげると、誰かが新人賞に応募して、数百倍・数千倍の中から選ばれて、その中の何割かが雑誌連載にこぎつけて、さらにその雑誌の中の人気トップ3がアニメになる、といった場合、このアニメ3作品はどれだけのフィルターをくぐり抜けて生き残ったのかと考えると、とんでもない競争率ですよ。いっぽうで、オリジナルアニメの場合は、「100本の企画から生き残った1本です」みたいな話は聞かないから、マンガ原作の作品と比べて、企画の精度にあまり確信が持てない。なので、原作ものと戦えないのであれば、原作ものをやるほうが正しいのかなと思っています。ただ、「アニメのための原作」というのも世の中にそう多くはないので、原作ものをやる時にも、アニメに落としこむためのアレンジが必要になります。
─オリジナルアニメの場合、原作側の意向を汲む必要がない、というメリットもありますよね。
里見 もちろん、メリットはありますよ。オリジナルの一番のメリットは、「おもしろいと思ったものに、軌道を修正し続けられること」です。自分たちのオリジナルなら、脚本や絵コンテの最中に「こうなったら、もっとおもしろいのに」と思えば、すぐに変えられる。だけど、原作ものだとそれはできません。そういう意味で、当然、オリジナルにはいいところも悪いところもあります。
─「サムライチャンプルー」は、オリジナル作品ですよね?
里見 そうなんですけど、僕は途中参加なんですよ。当時、僕はビクターエンタテインメント(現:フライングドッグ)の佐々木史朗さんから現場を引き継ぐ形で、ビクターの立場のプロデューサーとして入ったんです。「サムライチャンプルー」は、監督の渡辺信一郎さんがやりたいことをアニメにした作品です。渡辺さんほどの方であれば、迷いもなくお金が集まるし、映像もおもしろくなるとわかっていますから、アニメオリジナルの価値はありますね。
─「ニンジャバットマン」は、DCコミックスの「バットマン」が原作ですが、シナリオや画づくりはオリジナルですよね? よろしければ、ご経緯も含めて教えていただけますか?
里見 DCコミックスさんにご監修いただいて、日本のスタッフで作った作品ですね。この作品はワーナー ブラザース ジャパンさんから僕に「『バットマン』を日本でアニメにできないか?」というご依頼がありまして、すぐに「できますよ!」とお答えしました。それから、神風動画社長で監督の水﨑淳平さん、脚本の中島かずきさん、キャラクターデザインの岡崎能士さんにお声がけをさせていただきました。
最初の打ち合わせで、「中島さんにやっていただきたいんですよ!」とお話したら15分ぐらいでストーリーラインを出していただき、「早いな、この人!」とびっくりした記憶があります。神風動画さんは「ジョジョの奇妙な冒険」(2012~13)のオープニングでアニメファンにも認知を得ていて、僕としても「そろそろ長編を神風動画さんでやってみたいな」と思っていたところでのオファーでした。水﨑さんと中島さんは初顔合わせだったんですけど、「この組み合わせでできたらおもしろいな」と思い、お2人にお声がけしました。DCコミックスさんもとてもよろこんでくださって、結局ほとんどこちらからの提案そのままでやらせていただきました。
脚本制作について
─脚本との向き合い方を教えていただけますか? 海外のプロデューサーの中にはご自身で脚本を書かれる方もおられ、脚本家に依頼をしても、容赦なく口を出してくる方もいます。
里見 ケースバイケースですね。僕は脚本に限らず、口を出さないほうなんですけど、場合によっては、1行ずつ細かく指摘しちゃうこともあります。ただ大枠としては、脚本家を選んだ人間がそれをやると、「そもそも人選ミスなんじゃないの?」とという気もするので、可能な限りやりません。要は、「自分の作品っぽくするために口は出さない」ということです。
前提として僕は、お金を出す側と受け取る側、プロデューサーとクリエイターを両立するのはよくないと思うんです。なぜなら、脚本家に選ばれるには普通、激しい競争に勝ち残らないといけないのに、プロデューサーが「俺が書くぜ!」と言ったらその競争がなくなってしまって、フェアじゃないからです。ただし、プロデューサーは作品の骨格を見抜く力があるので、脚本家の適性はあると思いますよ。日本でも実写映画のプロデューサーは、脚本を書いたり、脚本家と二人三脚で作ったりしますし。なので絶対だめではないです。それで作品がおもしろくなるのなら、結果的にそれが正解です。
─新人の起用には積極的ですか?
里見 やっぱり世代交代していかないとマズイので、常に「新しい人、誰かいない?」とは言っています。でも、お金を出す側は実績のある人のほうが安心できるので……まぁ、そことのせめぎ合いですね。
テクニカル方面にもこだわり
─そのほかに、里見さんがこだわっていること、お仕事で守っているルール等はありますか?
里見 僕はいつも自分が「プロデューサーっぽくないなぁ……」、「本当は違う役職なんじゃないか?」と思いながらやっているので、正直なところ、居心地が悪いんですよ。だから、「プロデューサーはこうしなきゃ!」とか「こういうスタイルだぜ!」というのは全然ありません。
─Wikipediaには、「音質・画質に非常にこだわりを持つ」と書かれていますが……。
里見 アニメは、映像技術のかたまりでもあるんですよね。プロデューサーで技術仕様や納品のフォーマットに興味がある人って少ないんですけど、僕はどちらかというと、テクニカル方面にも興味があるんです。映画やテレビ、配信などメディアによって解像度が違ったり色温度が違ったり、いろんな条件があるので、僕はそれを知ったうえでやりたいんですよね。知らないで、なんとなく作るのは苦手なので。車の運転なんかと同じで、感覚的にできる人は気にする必要はないと思います。
─高円寺で「cafe apartment」というカフェも経営されていますね。アニメとの関係はあるのでしょうか?
里見 たまに打ち合わせに使ったりもしますけど、アニメとの関係はありません。cafe apartmentは、僕が高円寺に住んでいた時によく使っていたカフェでして、前オーナーから引き継いでほしいと言われたので引き継ぎました。去年緊急事態宣言で休業していたとき、クラウドファンディングで作った実写短編SF映画、「オービタル・クリスマス」の出荷作業に使ったりはしましたね。
─息抜きでしていることは? インターネットラジオ「のら犬兄弟のギョーカイ時事放談」のHPには、「読書・映画鑑賞」とございます。
里見 今はKindleで、ジョン・ディクスン・カーを読んでいます。学生時代はパズルゲームっぽさのあるミステリーは苦手だったんですけど、この前、エラリイ・クイーンの新訳を読んでみたら意外に大丈夫だったので、これを期にジョン・ディクスン・カーも読んでみるか、と思って読んでいます。映画のほうは、このご時勢で観るチャンスが減っちゃってますね……。映画館が夜8時で終わっちゃうと、レイトとかオールナイトで観れなくなっちゃうので。