プロデューサー・諏訪道彦 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第43回)

2020年08月29日 10:000

深夜バラエティのディレクターを経て、アニメプロデューサーに


─キャリアについて改めてうかがいます。諏訪さんは大阪大学工学部を卒業後、1983年に読売テレビに入社、1986年の「ロボタン」でプロデューサーデビューを果たされました。元々アニメ製作をご志望だったのでしょうか?


諏訪 いやいや、全然。読売テレビの面接は5回あったんですが、そこではずっとマンガの話ばかりしていました。今でもかもしれませんけど、当時マンガには偏見があって、大学の時に読んだ新聞の投書欄に「電車内でマンガを読んでニヤニヤしている若者がいる。これからの日本を背負っていかなきゃいけないのに嘆かわしい」みたいな意見があったんですよ。ハードカバーの文学ならおそらくこんな文句は出ないでしょう。こういう偏見はひどいなと思って。そこで面接で、「マンガも文学も、感情の育成という点は同じです。どっちが偉いとかいう話じゃないんです。おもしろいものにジャンルの区別はないはずです」みたいな話を一生懸命していたんですね。


入社してからは趣味でマンガを読みながら、深夜バラエティ「11PM」のAD(アシスタント・ディレクター)を2年やり、ようやくディレクターになって半年で、「お前はアニメをやれ」と言われて、東京に転勤になりました。なので、アニメをやろうと頑張ってプロデューサーの地位を得たわけではなく、完璧に他力本願ではありました。ただ、好きなものを好きと言って、種をまいていた結果だとは思います。ボクはそもそも絵心がないですし、マンガは趣味でよかったので。でも基本は何でも前向き、「そういう流れを作ってくれたならば、上手に乗ろうかな」という思いはありましたから、「選択した流れに乗るチカラ」はあったんじゃないかなと思っていますね。


─ご著書では作家の藤本義一さんを、「人生の師匠」と呼ばれていますね。


諏訪 「11PM」という番組の方針でもあったんですけど、藤本さんからは「物事を真正面から見るな。斜めに切って見ろよ」ということを教えていただきました。ボクが編集したVTRも「もうちょっとひねろ、もったいない」とよく言われました。

 

転機は「シティーハンター」、「名探偵コナン」で業界賞受賞


─キャリア上、転機になったお仕事は? 


諏訪 どの作品も大切なんですけど、一番の転機は「シティーハンター」ですね。「シティーハンター」は1987年4月から放送が始まっているんですが、実は1986年の12月の時点で、放送枠は取れているのに、まだ原作サイドの了解をいただいてなかったんです。その年末年始は生きた心地がしなかったんですが、それでも上司の協力もあり、植田さんと2人で出版社を説得して、結果的にやれることになりました。本当に大変でしたけど、おかげで今も残るアニメ作品になったわけですから、死ぬ気でやってよかったと思いますね。


北条先生や編集部の了解が前提ですけど、やれることは何もかも「シティーハンター」にぶち込みました。今とは制作環境がかなり違っていて、当時はボクと植田さん2人で全て決められましたからね。もちろんこだま監督の演出もお見事でしたし、キャスティングや主題歌はどうするのか、どうやってこの番組を盛り上げていくのか、若干27歳のボクが30歳の植田さんと一緒に何もかも決めていけたのが、「シティーハンター」なんですよ。


─「YAWARA!」には、「うる星やつら」(1981~86)の落合茂一さんも企画でクレジットされています。


諏訪 「うる星やつら」もそうですけど、当時は小学館さんのマンガをキティ・フィルムでやるとなると、フジテレビで放送する空気になっていました。そこへ、ボクがご縁のあった小学館編集者の奥山豊彦さんと、何度もお話をさせてもらいます。最初は「キー局でもない若造が何か言ってきたよ」という感じだったんですが、キティの落合さんとも一生懸命話をしたら、製作は読売テレビとキティ・フィルム、制作はマッドハウスというところでまとめることができました。


─「名探偵コナン」も、諏訪さんのフィルモグラフィー上、やはり重要な位置を占めているかと思います。2012年には「名探偵コナン」シリーズの製作で、映画演劇文化協会より藤本賞・特別賞を授与されました。


諏訪 作品をずっと続けているということと、興行成績もよかったことが評価されて、賞をいただきました。ありがたいことに、賞をいただいた時よりも、興行成績はもっとよくなっています。


─第31話「テレビ局殺人事件」などでは、諏訪さんをモデルにしたキャラクターも登場しました。


諏訪 松尾貴史さんに新番組「名探偵コナン」のパブリシティレポート、青山先生へのインタビューをお願いしたことがありまして、その時に松尾さんが青山先生に「『コナン』に出してくださいよ」と言い出して、青山先生も「いいですよ」と受けてくれて。そのストーリーに「松尾さんが考えた企画をパクる、悪徳プロデューサー役」としてボクが登場するんです。スーパーにはボクの本名と当時の年齢37歳が出るんですけど、先生が「死んじゃうから、変えとくよ」と、顔だけは変えてくれました。そのマンガをアニメ化したのが、31話の「テレビ局殺人事件」です。出るなら、もっと巨悪で出たかった(笑)。


─「名探偵コナン」は、実写テレビドラマも製作されましたね。


諏訪 テレビアニメの10周年記念で始めた企画です。これはプロデューサーでの参加というよりは、アニメ側のスタッフとして参加しています。ボクがやったのはシナリオの吟味までで、ドラマは実写の制作チームがやっています。青山先生にシナリオの了解を得るのが大変だった記憶があります。


─「MIX」(2019)は、「スーパーバイザー」でクレジットされています。具体的にはどういったお仕事を?


諏訪 原作サイドである小学館さんとの積み重ねもあったので、番組が円滑に進められるようお手伝いをさせていただきました。シナリオの打ち合わせに出させていただいて、あだち充先生にもご挨拶することができて、本当にうれしかったですね。

 

 

「アンテナ」を向け、「風」を感じよ


─アニメプロデューサーに必要な資質能力とは何でしょうか?


諏訪 ボクから言わせると、「アンテナ」なんですよね。今はネット情報が腐るほどあるわけじゃないですか。それをどう受けて、しかもそれをどう取り入れるか。「興味を持つ」ということは、「アンテナを向ける」ということだと思うんですよね。もっと言えば、「興味を持つのを持続させること」。


それと、「風」ですね。風向き、強さ。今どこに、どういう風が吹いているのか、それを感じること。具体的には、「雑誌の新連載と終了」に注目するのはアリだなと。連載が始まるものに関しては、各雑誌の編集長が「我々の雑誌は今これがいいと思っているんだ!」と主張してくれていると思うんですよね。連載が終わるものについては、「風」が止んだ時もあれば、作家さんの能力の問題があったりもするので、見極めが必要ですね。


─現在のアニメ業界に関して、何か思うことはありますか?


諏訪 「働き方改革」は、アニメの成長に対してはマイナスだと思いますね。アニメの仕事が「9時から5時で終わってください」というのは、ちょっと違う気がしています。大手の制作会社は今、日曜日に入口に鍵がかかっていて、仕事ができなくなっています。それでいい人もいますけど、「もうちょっとやりたいんだけど……」という人にやれる場を設けていくことも、大事じゃないかなと。「『働き方改革』があるから、今は新しい企画ができないよ」というところが結構あるんですよ。それがもったいないなと思うんです。


─報酬や権利関係の面で、何か配慮されていることはありますか?


諏訪 そこはビジネスなのでケースバイケース、作品や契約内容によりますね。映画の場合は、成功報酬を出すことがありますよ。テレビアニメも作品によって契約が違うんですけど、放送が終了して数年後に権利が制作会社に帰属する、というケースがあります。最近は、製作委員会の形式もあり、さらに多様化が進んでいます。


─海外向けのアニメも増えてきましたね。


諏訪 ボクは「海外に売り込むために作る」というのはちょっと違うんじゃないかな、と思っています。日本のアニメが海外で注目されているのは、「おもしろい作品を作ったら、海外の人も気が付いてくれた」からであって、「最初から海外戦略で」というのとは違うと思うんですよね。ボクらは日本人ですから、「日本人に楽しんでもらえることを第一に考えて、結果として海外の人にもよろこんでもらえるなら、それでいいじゃない」と思うんです。でも今は、配信と海外がビジネス交渉の2大柱で、「海外を大事にしない」というのは、「企画として成立しない」を意味しますので……。難しい時代になったなと思いますね。

 

日本アニメは「永遠に不滅です」


─諏訪さんは、2019年に読売テレビを定年退職され、ytv Nextry(ネクストライ)の専務取締役に就任されました。今後のご予定は?


諏訪 ずっと現場の空気を吸ってきたので、可能な限り現場にいたいですね。今もNextryで、アニメの企画・プロデュースをやらせてもらっています。ただ、ずっとこうじゃないだろうから、これからどうしたらいいのか。まあ、流れに任せながらアンテナ立てて、目は光らせていこう……、と思っています。


─現在、諏訪さんが直接関わっている作品は?


諏訪 今は「半妖の夜叉姫」や「神在月のこども」など、3作品ほどやっています。「名探偵コナン」も、部分的にお手伝いしています。


─10月3日放送予定のテレビアニメ「半妖の夜叉姫」の見どころを、教えていただけますか?


諏訪 「半妖の夜叉姫」は「犬夜叉」の続編ではないんですが、「犬夜叉」の脚本をずっと書いてきた隅沢克之さんがシリーズ構成を担当され、高橋留美子先生の「犬夜叉」をすごくリスペクトしたうえで作られた物語になります。ですから、「犬夜叉」要素はいっぱい出てきますし、メインキャラクターは高橋先生のデザインです。高橋先生はストーリーの監修もされています。ファンの方には新たな「犬夜叉」ワールド、高橋先生発のオリジナルワールドをしっかり楽しんでいただければと思います。


─2021年公開予定の「神在月のこども」についても、ひと言いただけますか?


諏訪 「神在月」は、日本のアニメの新しい形かなと思っています。HPでは「制作追体験」といって、応援してくれている人たちに普通は見せられない制作現場の映像をお見せしているんですけど、実は、企画・原作の四戸俊成さんたちは、初めてアニメを作るんです。「制作追体験」というのは、「初めて作るからいろいろな驚きがある。その驚きを、応援してくれる人達と共有したい」ということなんですよ。そういうやり方をして制作している、非常にユニークなアニメ映画なんです。


ストーリーも、ひとりの少女が島根・出雲を目指すロードムービーで、「日本という国のよさみたいなものを、どうやってエンタメとして見せるか」に特化していて、本当におもしろいですよ。約3年前にご縁をいただき、ボクみたいなずっとアニメを作ってきた人も必要だということで、「スーパーバイザー」として仲間に入れてもらっています。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


諏訪 エンタメそのものがなくならないのと同じように、アニメーションというのも、絶対になくならない分野だと思います。永遠に不滅です。「ドラえもん」しかり「名探偵コナン」しかり、小さい頃に観た人が親になって、今度は子どもに「ここがおもしろいんだよ」と伝えていく。それがアニメのひとつの理想で、そういうアニメを作るために、アニメ業界の人は日々頑張っています。作品・ジャンルはいろいろありますけども、ぜひ皆さん、自分の好きなアニメをひとつふたつ、選んで持ってみてください。そして、そのアニメを自分の宝にしてもらって、年齢を経ても大事にしていただけると、アニメを作る側としてはこれほど幸せなことはありません。

 


●諏訪道彦 プロフィール
プロデューサー。株式会社ytv Nextry(ネクストライ)専務取締役。愛知県出身。大阪大学工学部環境・エネルギー工学科卒業後、讀賣テレビ放送株式会社に入社。深夜バラエティ「11PM」のディレクターを務めた後、「ロボタン」(1986)でアニメプロデューサーとなる。代表作は「シティーハンター」(1987~88)、「YAWARA!」(1989~92)、「魔法騎士レイアース」(1994~95)、「名探偵コナン」(1996~)、「ガンバリスト! 駿」(1996~97)、「金田一少年の事件簿」(1997~2000)、「犬夜叉」(2000~10)、「ブラック・ジャック」(2003~06)、「エンジェル・ハート」(2005~06)、「結界師」(2006~08)、「ヤッターマン」(2008~09)、「輪廻のラグランジェ」(2012)、「まじっく快斗1412」(2014~15)、「電波教師」(2015)等多数。2012年には「名探偵コナン」シリーズの製作で藤本賞・特別賞を受賞。新作となる「半妖の夜叉姫」(2020)や「神在月のこども」(2021)にも、大きな期待が寄せられている。昭和・平成・令和と3時代に渡って読売テレビ系アニメを製作し続け、スタッフ・キャストファミリーの輪も広げてきた、まさに“日本アニメ界のゴッドファーザー”と呼ぶにふさわしい凄腕プロデューサーである。


※TVアニメ「名探偵コナン」 公式サイト
https://www.ytv.co.jp/conan/

※TVアニメ「輪廻のラグランジェ」 公式サイト
https://lag-rin.com/

※TVアニメ「半妖の夜叉姫」 公式サイト
http://hanyo-yashahime.com/

※劇場アニメ「神在月のこども」 公式サイト
https://kamiari-kodomo.jp/

※株式会社ytv Nextry 公式HP
https://www.nextry.net/

※諏訪道彦 ツイッター
https://twitter.com/suwacchi


(取材・文:crepuscular)

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