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なぜ、世界マーケットを狙った企画が必要なのか?
赤根 韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が、アメリカのアカデミー賞を受賞したでしょう? なぜアメリカに持っていくのに派手なアクション物ではなく、貧困をテーマにしたのか不思議でした。「パラサイト」のバイヤーの話を聞いたら、韓国は人口が5千万人だけなので、国内だけではペイしないんだそうです。アクション物はハリウッドに上手い人たちがたくさんいるので、娯楽映画で勝負をかけても意味がない。だけど世界中に共通する、貧困やセクシャルマイノリティ、パワハラなどの社会的テーマを入れることによって、全世界をターゲットにした映画になる……という考え方をしていて、とても納得がいきました。
ファンの人は「日本のアニメは世界一」と言うけれど、世界一のはずのスタジオジブリですら毎月の維持費を払えずに、1度はスタジオを畳みましたよね。ましてやほかのスタジオは世界に受け入れられるアニメをつくれないから、国内の小さなマーケットに向けてアニメをつくるしかなく、適正価格でアニメをつくれないんじゃないかと思います。僕の言う適正価格というのは、スタジオが5年間、最低でも3年間は作品の準備に費やすことができる……それぐらいの費用をまかなえる製作予算のことです。そうでないと、クリエイティブな仕事なんてできません。アニメーターは1枚1枚絵を描いていく地味な仕事だから、ストレスも溜まります。制作だって同じことで、制作デスクが2人、その下に制作進行が5人ずつ付くぐらいの体制でないと厳しいです。徹夜できないなら、せめてスタッフを倍に増やしてほしいけど、それではスタジオを維持できない。維持できるだけの予算を獲得するためには、やはり、マーケットを国外に広げるしかないんじゃないだろうか……と、考えてしまいます。
── そのために、国内のアニメファンだけに受ける作品だけではなく、より幅広いテーマでつくるべきだということですね? 赤根 最初に言ったように、アニメの視聴は配信がメインになっていて、「星合の空」をテレビ放送後に一気に12話見てくれた人もいます。特にオリジナルアニメはお話が続いているので、テレビよりも配信が向いているんでしょう。そういうフォーマットの変化も踏まえて、アニメのつくり方を変えていかないといけないかもしれません。
最初に言ったように、Blu-rayが売れなくなってきたため、ビデオメーカーがあまりお金を出せなくなってきています。現在は、出版社がこれから売りたい漫画をアニメ化するとか、ゲーム会社がソーシャルゲームの登録者数を増やしたいからアニメ化するとか、そういう流れが先鋭化してきています。漫画を売るため、ゲームを売るためだけになってきて、またアニメがCM化してしまったように感じています。そうした原作モノのアニメをつくったほうがスタジオは安定するし、ビジネスとして悪いとは言わないけど、漫画のストーリーは出版社と漫画家が必死に考えたものでしょう? その上澄みだけもらって、原作のイメージを守ってアニメをつくるだけで本当にいいんだろうか、と考えてしまうんです。「あしたのジョー」だってアニメ化されたけど、あれは大ヒット漫画をアニメにしていましたよね。売れた漫画に対して、どうアニメならではの表現をするのか、出崎統監督が独自の演出で勝負したわけです。アニメという表現のよさを取り入れたドラマツルギーを考えるためには、僕はオリジナル企画をやるべきではないかと思います。
── CMではなく、アニメならではの企画が必要だと言うことですか? 赤根 やはり、アニメのよさを生かしたドラマツルギーであるべきです。「星合の空」は人がひとりも死なないのに、“鬱アニメ”と言われました。ちょっと誇らしく思っているんです。第1話で、主人公・桂木眞己の父親が眞己を1発殴って、蹴りますよね。ほかのアニメでは拳銃で眉間を撃ち抜いたり、刀で真っ二つにしたりしているのに、殴ったり蹴ったりするだけで父親の恐怖感が伝わるか心配だったのですが、予想以上に「怖い」という反響がありました。実写ドラマでいかにも怖い顔の俳優が演技で暴力をふるっても、アニメほどは怖さが伝わらない気がします。かわいい絵柄のキャラクターだからこそ、アニメだからこそ現実のもっているリアリティの部分が、加速されて伝わったんでしょうね。だから、アニメの特性を生かしたドラマをつくれば、もっとアニメは普遍性と多様性を得て、広いマーケットを狙えるはずです。派手な画面で、大げさに感情表現するだけがドラマではないと思います。
僕が制作進行としてアニメ業界に入ったとき、「3日・3週・3か月」と言われていました。早いヤツは3日で辞めるし、次は3週間で辞める。3か月続けば、まあ1年は働くだろう……という意味です。それぐらいアニメの仕事はキツいので、僕らの世代のように「根性でがんばれ」と若いスタッフたちには言えません。なので、人手を増やして、労働環境をよくしてあげたい。そのためには相応の製作費が必要で、製作費を得るためには世界マーケットに通用する企画でなければならない。今のうちに何とかしないと、先輩たちが築き上げた日本のアニメーションのノウハウが失われてしまうのではないかと思います。そのためには、スタジオを立ち上げるところからチャレンジすべきなのかもしれません。
(取材・文/廣田恵介)