※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
日本のアニメ会社は、中国アニメの下請けになってしまう
赤根 「星合の空」はこれまでとは違うテーマを設定したドラマですが、やはりアニメ作品です。なので、勝ち負けのある学園スポーツ物、エンターテインメントとして企画しました。ところが、日常的な普通の芝居を描けるアニメーターを探すのが、とても困難なんです。作品の本数が多すぎて、アニメーターの絶対数が足りない。やむなく、国内のアニメーターに第一原画(ラフ原画)を描いてもらって、海外に第二原画を発注するんです。しかし、海外で描かれた第二原画はレベルが低いので、腕のいい作画監督が何人かで延々と原画を直していく……。「これが世界に冠たる日本アニメの作り方なのか?」と、衝撃を受けました。いくつかの大きな制作会社は国内にアニメーターの養成所をつくっていますが、小さなスタジオにはそんな資金力はありません。だから中国に発注するしかないのですが、中国は自国内でアニメ作品をつくりはじめています。そのうち、日本の多くのアニメ会社は中国の下請けになってしまいます。数社の大手アニメ会社は残るでしょうけど、海外の配信サイトからトップダウンの企画を任されるようになるでしょう。本当はプロデューサーが考えるべき問題なのかもしれないけど……。僕がベテランのプロデューサーから「いいアニメーターがいたら、紹介してくれよ」と頼まれるほどですから。
── あまりに制作本数が多すぎて、次から次へとこだわりなく仕事を回していかざるを得ない……という話も、よく聞きます。 赤根 「こだわるな、言われたものだけを黙ってつくれ」「それがプロの演出家でありアニメーターである」……という考え方が、現場にあるんです。要するに、思考停止を求められるんです。繊細な、美しい絵を描けるという意味では、日本のアニメは高度になりました。だけど劣化もしていて、「立ち上がって歩く」「歩いてきて座る」といった基本の動作が描けなくなっています。そうした基本の動きを描けるのは上手いアニメーター、ということになっている(笑)。僕が高橋裕一くんにキャラデと総作画監督をお願いしたのも、基本がしっかりしているからです。20年以上前の話ですが「天空のエスカフローネ」のアニメーションディレクター、逢坂浩司さんが京都アニメーションへ作画を教えに行っていたことがあります。「歩いてきて椅子に座る」だけの動作を、何度も描かせたそうです。もしかすると京アニには、その頃の逢坂さんのアニメに対する向き合い方の教えが残っていて、ああしたていねいなアニメを今でもつくれるのではないかなあ、とも思います。そうした基本的な技術に、今の若いアニメーターは興味を持たないんですよ。「星合の空」が12本で終わってしまったのも、作画が追いつかなかったからです。
── 脚本は全話、赤根監督ですよね。 赤根 はい、脚本構成は全24話分、すべてできています。絵コンテを12話まで完成させて、第1話を放送する2年前から作画に入りました。制作を始めてみて分かったのですが、今回のクオリティーを求めた作品だと7話ぐらいで既に息切れしてしまい、残念ながら12話をつくるのが精一杯だったんです。アニメーターが集まらないし、制作が集めてきたアニメーターがこちらのオーダーに応えられない事態も多発しましたしね。
── ラケットでボールを打つカットでも、「こうやって打つんだよ」とフォームを説明しながら素振りするなど、高度な演技がありましたね。 赤根 さすがに、そういう難しいカットは特別に上手いアニメーターに描いてもらいました。自分としては、実際にラケットを振る動画を分解して、アニメ的なデフォルメを入れて描いてほしかったんです。しかし、それを描けるアニメーターは、ほんの2~3人でした。それで制作会社が「もう無理です」と、悲鳴を上げてしまったんです。
当初、「星合の空」は異世界ファンタジーではない現代モノだから、まだ制作は楽だろうと思っていました。主人公はどういう部屋に住んでいるのか、経済状態がこれぐらいだから安いマンションで、間取りはこうなってて……とか、登場人物が使用する小道具なども人物の性格や環境を考えて、設定を発注していました。ところがスタッフたちは「こんなにたくさん、設定をつくったことない」とパニックになってしまって、こちらが驚いてしまいました。だって、僕が制作進行を務めていた富野由悠季監督のロボットアニメでは、山のように設定がありましたからね。現代モノのアニメを、テレビシリーズとしてつくるノウハウも失われてきているのかもしれません。