原作者も参加する脚本づくり
─脚本面ではどのような工夫をされているのでしょうか?
橋本 脚本に関しては、本打ちに参加する人全員に「とにかく思ったことは口にしてください」とお願いしています。自分と脚本家だけではなくて、原作者、プロデューサーにも話し合いに参加してもらっています。
─橋本監督作品では原作者の方も、脚本会議に参加されているのですね。
橋本 遠くて来られないというのでなければ、基本的に原作者の方にも来ていただきたいと思っています。原作者にも「ここは違うかな?」とか、「流れを少し原作から整理しましょう」とか、とにかく口にしてほしいとお願いしています。口にしないと、できることとできないことが精査できないじゃないですか。できないとわかれば納得できることも、いっぱいあるんです。「ああ、なるほど。この話数にそれを入れたかったけど、2つの話になっちゃうと、どっちを見せたいのかわからなくなるね」といった感じで。皆が納得したうえで作りたい、というのは心得ていますね。
─「LAIDBACKERS」はオリジナル作品ですが、キャラクター設定はどのように決めていかれたのでしょうか?
橋本 最初は上江洲誠さんが、「オリジナルをやりたいな」という話を音楽制作会社のフライングドッグとされていて、アニメ制作がStudio五組に決まったところで自分にも監督のお話をいただきました。だから自分に来た時には、キャラ設定は割と細かく書いてあったんですよ。自分が監督を引き受けるにあたり変えさせてもらったのは、魔王ヴァルヴァランのらんです。最初の設定は「疲れたOL」だったので、それを「11歳の女の子」に変えました。そこが大きく変わったぐらいで、基本的には上江洲さんの設定通りになっています。
「商品化してほしい」小道具
─「スロウスタート」は小道具も素敵で、とりわけ栄依子が花名にプレゼントした手作りブローチなど凝ったデザインになっていました。
橋本 プロップに関してはものすごく気にしていて、「キャラ性に深みが出るもの」、「これ欲しいなと思えるもの」にしたいというのは常に考えています。キャラの性格を口で説明するよりプロップ1個見ればわかる、というのがあるじゃないですか。それに、自分たちが欲しくてかわいいと思えるものだったら観ている人も欲しいと思うだろうし、キャラが付けているものだったらさらに欲しくなりますよね。一番うれしいのは実際に商品化されることなので、現実的にできるデザインをお願いしています。
ちなみに、1話で志温が誕生日プレゼントで花名に渡した「ネギの傘」は、原作の篤見唯子さんのアイデアです。篤見さんは変わった小物が好きな方で、「柄のところがネギの先になっていたら、おもしろいじゃないですか」とかヒントをいただきながら作っていきました。
─大変だったプロップデザインは?
橋本 一番難しかったのは、「魔法少女育成計画」のハート型の端末「マジカルフォン」です。魔法だけど科学的だし、科学的だけど魔法だし。原作の遠藤浅蜊さんにもイラストレーターのマルイノさんにもお聞きしたけど、「アニメで決めていただいて大丈夫です」と言われて、「それは難しいな!」と(笑)。試行錯誤した結果、もともと卵型なのを2つに分けるとハート型のシルエットが見える、といった形にさせていただきました。
─効果音に対する考えをお聞かせください。
橋本 型にはまらないようにしたいなと思っています。たとえば、かわいい女の子が電柱に頭をぶつけた時、痛くないような「ポン」といった音が入っていたりすることがあるんですけど、自分は逆で、ものすごく大きい痛すぎる「ガンッ」をつけたいことがあるんですよね。かわいいだけどかわいいじゃない、一定の方向に偏らないよう常にバラバラにしている感じはありますね。
─マンガや小説の原作には擬音が書かれていることがありますが。
橋本 そこはあまり気にしないことが多いですね。マンガはマンガ、アニメはアニメなので、結果的に同じになっていたというのもあると思いますけど、アニメで観た時にどういった印象になるかが大切だと思います。
─そのほかのこだわりについて、「ようこそ実力至上主義の教室へ」(2017)や「スロウスタート」のエンディング終わりには毎回違うキャラが登場していましたが、この辺りも橋本さんのアイデアなのでしょうか?
橋本 そうですね。エンディングの最後まで見てほしいというのが1番の理由です。エンディングが毎回違うとなれば、「とりあえず見てみようか」と思ってもらえるかもしれないし、エンディングが最後まで流れたらスタッフの名前も流れるじゃないですか。自分としては視聴者の方にも、やってもらったスタッフの名前をちょっとでも見てほしいんですよね。ただ「魔法少女育成計画」の場合は、逆に変えませんでした。この作品はつらい部分もあるので、じっと小雪の気持ちに寄り添ったほうがいいかと思いまして。
初めての人にも活躍のチャンスをあげたい
─スタッフ選定はどのように行っておられますか?
橋本 前にお願いした人たちで合う人たちは、引き続きお願いすることが多いですね。たとえば編集の高橋歩さんや撮影の峰岸健太郎さんは、割とお願いしています。でも「スタッフ全員、同じにはしない」、「できるだけ初めての人も入れたい」というのも自分の中ではあります。自分も、ずっとやってきた人たちがいる中に入れてもらって演出や監督のチャンスをもらったので、若い人たちにも輪を広げていってもらえたらと思うんです。そこでまた新たな出会いも増えますしね。
─「魔法少女育成計画」のキャラクターデザインをされた愛敬由紀子さんは、橋本さんのご指名ですか?
橋本 自分から「愛敬さんにお願いしたいです!」と連絡しました。「魔法少女育成計画」は人が死にますけど、絵のタッチだけはやわらかくしておきたくて、愛敬さんの絵と合うと思ったんです。愛敬さんは「アクセル・ワールド」(2012)が初キャラデだったんですけど、自分も8話の演出をやらせてもらっていて、普通はキャラデ・総作監をやっていたら全カットは見られないと思うんですけど、彼女はメカ以外の全カットを見て全部にキレイに修正を入れていたんですよ。それを現場で見ていてすごくパワフルな人だなと思って、いつか一緒に仕事をしたいと思っていました。
─奥田陽介さんは、「ご注文はうさぎですか?」がキャラクターデザイン初挑戦でした。
橋本 この作品は変わった経緯がありまして、1期の制作デスクだった加藤晋一朗さんが、自分と奥田さんをWHITE FOX代表の岩佐岳さんに推薦してくださったんです。加藤さんは「そにアニ」が初デスクで、その時に一緒に仕事をしました。自分と奥田さんは「Angel Beats!」(2010)以来だったんですけど、2人ともコンペもなくすんなり初監督と初キャラデが決まったので、「なんとかこの作品を当てたいよね」と話していました。結果的に「ごちうさ」は続けることができて、加藤さんにも恩返しすることができたのでほっとしています。
─脚本家を選ぶ際に気をつけていることは?
橋本 まず第一に「人の話を聞いてくれる人」、それから「自分と楽しく話せる人」ですね。じゃないと上手い下手とか関係なく、難しいと思います。意見がぶつかるのが嫌なわけじゃなくて、ぶつかっても考えて次に行ける人だったらいいかなと。脚本は作品を大きく左右しちゃうので、一番冒険がしにくいセクションかもしれないですね。
─「スロウスタート」と「ご注文はうさぎですか?」は、第12話の脚本をご自身で書かれていました。
橋本 話を考えるのは好きなので、書けるところは書きたいなと思いますね。自分の監督作品じゃなくても、チャンスがあればどんどん書いてみたいです。ただ、脚本家も脚本を書くのがお仕事なので、それを奪ってまで書こうとは思っていません。監督なのである程度のコントロールはしますけど、全部コントロールしたいわけではありません。やっぱりアニメって集団作業で、皆で作っていくものだと思っているので、その人からしか出てこないアイデアに、自分のアイデアを足せるのが一番いいと思いますね。
日常系音楽の難しさ
─「スロウスタート」は、拙連載でもお話をうかがった藤澤慶昌さんが劇伴を書かれています(編注:https://akiba-souken.com/article/32645/?page=3)。
橋本 劇伴は自分でもいろいろ探したんですけどなかなか見つからなくて、チーフプロデューサーの鳥羽洋典さんから藤澤さんを薦めていただきました。「日常系の曲はあまり作ったことがない」と聞いていたんですが、実際に作ってもらったらすごくよかったですね。
日常系って小さい事件は常に起きているんですけど、大きな事件が起きないので、見ていても記憶が流れちゃう可能性があるんですよね。だから音楽で「これ、街のシーンでかかっていた曲だ」と思い出せる感じにしたかったんです。藤澤さんの曲は聴きやすくてオシャレ、常に聴いていられる感じがすごくよかったんですよね。
─藤澤さんの楽曲にリテイクは出されていないのですか? 藤澤さんはオープニング「ne! ne! ne!」の作編曲もされています。
橋本 全然出してないですね。最初だけ言ってお任せする形で。「ごちうさ」の川田瑠夏さんも同じでした。「スロウスタート」のオープニングは、曲よりも歌詞のほうが大変だった記憶があります。
─歌詞は岩里祐穂さんが書かれていますね。
橋本 岩里さんは「天空のエスカフローネ」(1996)のオープニング「約束はいらない」の歌詞とかを書かれているんですけど、岩里さんのこれまでの歌詞はものすごくストーリー仕立てだったんです。こういう事件がありつつ進んでいって、今の自分があります、みたいな感じで、大きく語られるんですよね。でも日常系って小さなストーリーが連なっている作品なので、岩里さんも悩んでおられたようです。でも終始ていねいに対応していただけて、本当にありがたかったですね。
キャラに合えば、初主役でも全く問題ない
─キャスティングのこだわりを教えていただけますか?
橋本 当たり前のことだと思いますけど、キャラに合うかどうかは絶対条件です。自分から「この人に受けてほしい」とオーディションに呼んでいただくのですが、自分が呼んだ人じゃない人のほうがキャラに合っていたら、その人に決定します。あと自分が監督する作品のキャストは、自分だけが決めているわけじゃなくて、皆で話し合って決めています。だから音響監督、プロデューサー、原作者からも、「この人がいいんじゃないですか」というお話はいただいています。
─「LAIDBACKERS」のアーネリアや「魔法少女育成計画」トップスピードの内山夕実さんは演じ分けがすばらしく、まさにキャラに合わせた演技でした。
橋本 内山さんと初めてご一緒したのは「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013)だったんですが、キャラの感情の出し方がすごくうまいんですよ。キリクマというクマのぬいぐるみをやっていて、「声はカッコいいんだけど、ふざけてるのか?」みたいな感じがすごくおもしろかったんですよね。「魔法少女育成計画」ではオーディションもやったんですけど、やんちゃ系のトップスピードには内山さんの演技のよさがほしいなと思って、やっぱり内山さんにお願いしました。
─「スロウスタート」花名役の近藤玲奈さんは、初主役だったようですね。
橋本 そうですね。でも、初主役だと意識して選んでいたわけじゃないですよ。オーディションの時の近藤さんの花名が、ものすごく気弱だったんですよね。でも、その気弱さがちょっとこの作品と似ているかな、と思って。篤見さんも「近藤さんがいいですね」とおっしゃって、プロデューサーからも「何も問題ないです」とのことだったので、近藤さんに決まりました。
─花名を含め「スロウスタート」のキャスティングは、ファンの方々からも評判がいいようです。
橋本 栄依子の嶺内ともみさんは最初、すごく心配されていましたね。もともと彼女はお姉さんぽい役じゃなくて、かわいい女の子系が多かったらしくて、本当にこういう役がやれるのか不安で、「私で本当に大丈夫ですか?」と何回も聞かれました。結果的には全然問題なかったんですけど(笑)。
─第11話で冠が、「でっかい花火、打ち上げようぜ」とイケメンボイスを出していますが、あれは長縄まりあさんのアドリブですか?
橋本 アドリブではないんですが、度合いについては任せていました。「1回思った感じでやってみて。やり過ぎてたら止めるから」と言ったら、やり過ぎていたので、ちょっと抑えた感じでやってもらいました。「このキャラはこうしかしません」じゃなくて、「このキャラはこうでもあるけど、こうでもあるんです」みたいな、いろんな面を持たせたいというのがあるんですよね。たまて役の伊藤彩沙さんにも、同じような事を頼んだのを覚えています。いろいろ幅がある演技ができた時は、役者さんは楽しそうにしてらっしゃいます。
─作品の参加基準はありますか?
橋本 基本的にスケジュールが空いていれば、何でもやりたいなと思っています。でも、自分が関わってきた作品を悪く言うような作品は、ちょっと気持ち的に難しいですね。あと、同じ雑誌で連載している作品を同時にやることもないと思います。原作者同士が雑誌内で切磋琢磨しているわけですし、どちらのアニメも同じだけ人気が出るようにするのは難しいので、原作者にもファンの人にも申し訳ないと思うんです。
─息抜きでしていることは?
橋本 ちょこちょこ時間を見つけてはゲームをやっています。ドライブするのも結構好きですね。