ドラマーが独学で作曲を学び、劇伴作家に
─キャリアについてうかがいます。アニメ業界に入った経緯からお願いします。
立山 もともとバンドマンとして、「THE LINDA!」のドラマーをやっていました。その後、フリーランスのプレイヤーになり、ドラマーをしつつアレンジや作曲もしていたんですが、アレンジや作曲の仕事の割合が段々と増えてきたので、作曲家だけでやっていこうと決めて、今のハイキックエンタテインメントに入りました。最初はアイドルの歌もののアレンジなどをしていましたが、その時から劇伴やBGMの仕事もやっていきたいという気持ちもありまして、少しずつゲームやドラマCDなどのBGMを作っていきました。
─師匠的な方はいますか?
立山 作曲に関しては、いないです。洗足学園音楽大学に通っていましたけど、僕は作曲専攻じゃなくてプレイヤー専攻でドラマーだったので、楽器の演奏技術中心の授業だったんです。だから、誰かに作曲を習ったということはないんです。
─作曲は独学なんですね!
立山 師匠についてスコアの読み方とかオーケストラの書き方とかしっかり勉強していたら、また違ったのかなとは思います。けど最近は、譜面が読めなくても音楽が作れるようになってきていますから、独学の人も増えてきているんじゃないでしょうか。
1日1曲書いた「ヒーローバンク」
─劇伴デビュー作は?
立山 「ヒーローバンク」(2014~15)です。自分の中で思い出深い作品です。
─コンペはありましたか?
立山 1発目なので当然ありました。デモを作って、山本靖貴監督に聴いていただいて、声をかけてもらいました。
─「ヒーローバンク」は全51話あり楽曲数も多く、木琴曲からエレキ曲まで、非常にバラエティに富んだスコアでした。
立山 デビュー作だったので右も左もわからない状態でやっていました。しかも1年クールだったので、曲も100曲近くあったと思います。いきなり100曲書いたわけではなくて、まず40曲くらいの1クール分、それから2クール分の発注が来ました。でも時間的な余裕はまったくなくて、「劇伴打ち合わせの40日後にダビングが始まるから、それまでに40曲そろえてくれ」といった感じで、1日1曲ペースだったんですよ(苦笑)。これはとんでもない世界に入ろうとしているな……と思いながらも、なんとか食らいついてやりました。今振り返ってみても、「ヒーローバンク」は僕の今までのキャリアでトップ3に入る、スケジュールと曲数のタイトさでした。
─監督とのコミュニケーションの取り方も、今とは随分違っていたのではないでしょうか?
立山 山本監督からは「楽しい曲」や「カッコいい曲」といったオーダーが来まして、今だったらそれが当然だとわかるんですけど、当時は「カッコいい曲というと、どういうジャンルの曲ですか?」なんて的外れな質問をしちゃっていました。その後、アニメの作品を続けていく中で、発注は映像的な言葉で来るものなんだ、ということに気づきました。
どういう曲、どういうジャンルがおもしろいのかを考えるのは、作曲家の仕事なんですよね。言われたジャンルのままやるのは楽ですけど、自分からそれを提示していかないと、呼ばれた意味がないと思います。監督やスタッフがわからない中で、たとえば「このアニメって、全編ジャズ風の曲で書いたら、ものすごくおもしろくなるんじゃないですか?」と気づいて提案するのが、作曲家の重要な役目だと思っています。
ファンの熱量をリアルに感じた「ゆるキャン△」
─キャリア上、転機になったお仕事は?
立山 「ヒーローバンク」は、一生忘れることのない仕事ですね。あとは「けものフレンズ」が社会的にヒットして、僕も名前を認知してもらう機会が増えたので、そういうことでは「けもフレ」も転機になる仕事でした。当然、「ゆるキャン△」も、その後の活動をすごく広げてくれた作品です。
─2018年11月には「ゆるキャン△」の聖地山梨県で、ライブイベントをされました。
立山 劇伴作家としてのコンサートを経験させてくれたのも「ゆるキャン△」で、音楽が好評をいただいているな、というのを一番リアルに感じることができました。
「けものフレンズ2」と「ぱすてるメモリーズ」の聴きどころ
─アニメの劇伴作家に必要な資質能力とは?
立山 やっぱり作曲家目線で音楽を考えない、ということに尽きます、僕の場合は。自分がいいと思っている曲じゃなくて、相手が欲しい曲を書く。相手の目線でのジャッジ力を養うといいますか、決して自分の楽曲集を作っているわけではない、作品のための音楽なんだ、という意識を常に持つようにすることですね。
─今後挑戦したいことは?
立山 劇場アニメと、あとは実写ドラマもやったことがないので、やってみたいです。
─「ゆるキャン△」は、第2期と劇場版の制作が発表されました。
立山 オファーをいただけたら、ぜひやりたいですね。
─「けものフレンズ2」の音楽的ポイントは?
立山 前作よりも生楽器をたくさん使い、管楽器をたくさんレコーディングしてフィーチャーしています。
─「ぱすてるメモリーズ」は、3月13日にサントラCDが発売されるそうですね。
立山 劇伴45曲と、OP曲「Believe in Sky」とED曲「Sparkle☆Power」が収録されます。
劇伴は、アコースティック楽器を使ったちょっとコミカルな曲とか、オケを中心としたバトル曲などが、聴きどころかと思います。8bitサウンドの曲もあるので、いろんな曲調を楽しんでもらえたらうれしいです。
─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!
立山 アニメが毎期毎期たくさん放送され、進化を続けていますので、今まで以上に音楽にも注目して、アニメを楽しんでもらえたらうれしいなと思います。
●立山秋航 プロフィール
作曲家、編曲家。香川県出身。洗足学園音楽大学卒業後、ポップスバンド「THE LINDA!」のドラマー、フリーランスミュージシャンを経て、現在はハイキックエンタテインメント所属。生演奏の躍動感を大切にした、生命力あるサウンド作りを信条としている。「ヒーローバンク」(2014~15)で劇伴デビューを果たし、その後も「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」(2015)、「くまみこ」(2016)、「アイドル事変」(2017)、「けものフレンズ」(2017)、「ゆるキャン△」(2018)、「ちちぶでぶちち」(2018)、「立花館To Lieあんぐる」(2018)、「ISLAND」(2018)、「学園BASARA」(2018)などで脚光を浴びた。2019年も「けものフレンズ2」や「ぱすてるメモリーズ」において、作品への没入感を高めてくれるスコアを提供している。自分のためではなく、作品のための音楽を作り続ける、篤学気鋭の劇伴作家である。
※TVアニメ「ゆるキャン△」 公式サイト
http://yurucamp.jp/
※TVアニメ「ISLAND(アイランド)」 公式サイト
http://never-island.com/
※TVアニメ「けものフレンズ2」 公式サイト
https://kemono-friends.jp/anime/
※TVアニメ「ぱすてるメモリーズ」 公式サイト
https://pasumemotv.com/
※立山秋航 プロフィール(ハイキックエンタテインメント 公式HPより)
https://www.highkick.jp/tateyama
(取材・文:crepuscular)