「ブックレビュー 『アキバをプロデュース』」 アキバ系准教授・川田健

2008年01月30日 21:000

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「ブックレビュー 『アキバをプロデュース』」 アキバ系准教授・川田健「アキバ系准教授・川田健」連載コラム第2回





akiba20071206-6730[1].jpg 論文の締め切りを何とかこなしてようやく第2回目の執筆です。論文の仕上げは中央通りに面したフリースペース AKIBAスペース6.0で。無線LANが通っているので大変便利。本当ならボードゲームやTRPGをするためのスペースなのかもしれませんが、その分机もゆったりで、資料を広げてもおkです。今日はイベントをやっていたため、その上階のネットカフェ、i café で執筆。もう東京での授業がないのでしばらくアキバも見納め。丁度中央通りが見下ろせるカウンター席で、ここはDHCP仕様の有線LANが使えます。  


 さて、今回は本の紹介。『アキバをプロデュース』(2007年11月、妹尾堅一郎、アスキー新書)です。アキバを見下ろす巨大ビル、秋葉原クロスフィールドがどのようなコンセプトの下でできたのかが述べられております。NB(日経ビジネス)オンラインの近藤正高氏(http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080110/144578/)のレビューや、発行元アスキーのサイトの著者インタビュー(http://ascii.jp/elem/000/000/085/85802/)などもご参照いただければと思います。

akiba20080130-9685a.jpg  巻末の紹介によりますと、著者の妹尾堅一郎(せのおけんいちろう)氏は、1953年生まれで現在東京大学国際・産学共同センター客員教授。私が非常勤講師として出校している慶応SFCでも教鞭を執っておられたようです。氏の専門は「問題学・構想学」「コンセプトワーク」「人財育成」など、氏はご自身を評して「学術近代五種競技者」などと述べています(p41)。氏にとって街作りとはさまざまは学問の要素が入る「総合学際領域」であり、社会科学諸分野を渉猟してきた氏の能力をもっとも活かせる分野だということです。2001年12月、そんな氏のもとに「やっちゃ場」跡地の再開発を担当するUDXグループから、産学連携帰納のプロデュースを依頼されました。本書はそれにまつわる氏の奮闘記です。

 本書は主に二つの視点から読むことができます。一つは産学連携再開発の勘どころ、コンセプトの立て方、発生する障害―特に利権・無理解との戦い-について、現在そういう事業に携わっている人に対するアドバイス。もう一つは妹尾氏の考える、未来のアキバのグランドデザインです。本コラムの趣旨としては後者を中心に見ていこうと思います。氏が「秋葉原」としているものはそのまま「秋葉原」と書きますので「アキバ」との混在をご承知おきください。

20080130210000.jpg  妹尾氏は「メガロポリスはとんがるべきだ」(p60)、つまり東京のそれぞれのタウンは街の個性を全面に出して自己主張すべきだ、という考えのもと、秋葉原を「テクノタウン」というコンセプトで設計しようと考えております。氏は秋葉原の特徴を「交通の利便性と知の集積性」、「知の三角形と都市の三角形」、「都市特性」の3つの観点から分析を加えています(第2章)。私が特に興味を持ったのは「再開発都心の三角形」と「知の三角形」という概念です。前者は「ビジネス都心」丸の内、「文化都心」六本木、そして「テクノ都心」秋葉原という三角形、後者は「文系の心の故郷」神保町、「芸術系の心の故郷」上野公園、そして「理系の心の故郷」秋葉原という三角形です。さらに世界的視野に立って、シリコンバレー・上海・秋葉原の「テクノビジネス三角形」も構想します。ただ、インドのバンガロールの躍進がすごく、このままでは相対的に秋葉原、ひいては技術大国日本の地位が低下してしまう。氏のテクノタウン構想はそうした思いもあってのことのようです。

 以上のことを前提に議論は進んでいき、第4章では具体的な秋葉原テクノタウンの構想が示されます。氏はそれをインキュベーション(先端技術の実証フィールド)、プロモーション(技術移転のマーケット)、エデュケーション(技術の体験学習)三本の柱としております。詳細は本書を参照していただきたいのですが、これらはすべて人と人、技術と技術を有機的に結びつけることを目的としており、「クロスフィールド」とはそうした意味合いも込められているとのことです。特にエデュケーションの項目では「アキバ理科室」など注目すべき提案がなされており、人材(財)育成を重視する氏ならではだと思いました。

akiba20080130-9685.jpg さて、こうした妹尾氏のプロデュースについては「あれ?アニメなどのコンテンツ産業は?萌えはいずこに?」という疑問がわき上がりました。たとえば2004年12月13日付のAERAで具体的に「妹尾氏の構想にはそこに集っている人が見えていない」といったことが書かれていました。また、建設途中の2005年4月発行の雑誌Voice328号に、石田衣良、森川嘉一郎両氏の対談があるのですが、この中で両氏はデザイン、規模、コンセプト(アミューズメント系)が今のアキバにそぐわない。ITセンターは汐留や六本木の開発手法で「一言で言えば駄目(石田氏)」と言い切っています。しかし氏は「萌え」をはずしたことは確信犯である(p224)と言っています。テクノ分野は産業政策とも連動しながら支援をしていかなければならないが、萌えは「勝手に萌え萌えしている」つまり再開発構想に組み込まないほうがよいのだ、と言っております。そういえば以前クロスフィールドのアニメセンターを見に行き、あまりの貧弱さに目を疑いましたが、なるほど、もとより「わざと」だったのですね。だったら最初から作るなよ。いまはもうないのかな?すみません。どなたか教えてください。

 私としては妹尾氏と森川氏との対談を実現させてほしいと思っています。行政が「萌え」に手を突っ込まない方がいいという妹尾氏の考え方には森川氏も賛成なのではないかと思うのですが、この問題は例の「文化外交」構想とも絡んでくるので今は深入りしないことにします。

 行政の役割の一つとして、氏は中央通りに子供が入れない店を出店することの規制を挙げています。例の駅前にあるあれのことかもしれませんが、成人向けの同人誌も扱っているメロンブックスとか、とらのあな、メッセサンオー。さらにリージョンフリーのDVDプレイヤーとか画質安定装置を扱っている店もでしょうか。なかなか線引きは難しいですよ。ただ、無規制にリアル性風俗を扱う店が出るのはまずいなと私も思います。

 妹尾氏は我々(?)アニメオタクがアキバに闊歩している状況についての是非を述べてはいません。本書の中に「アキバオタクを考察する」というコラムでアキバに集う「オタク」を5種類に分類し、相互のダイナミズムについて言及しているくらいです。ただ、巨大な理系教育エリアのテクノタウンというイメージで「とんがり」たいが、サブカル発信地のイメージが邪魔なので、そのイメージを転換したいと思ってみえるのなら、言い換えればこの再開発プロジェクトが「アキバ系」=「テクノマニア」というイメージの方を定着させることまで狙っているとするならば、それはちょっと待ってください、私たち「萌え好きアキバ系」も仲間はずれにしないでください、と言いたいと思います。私もアキバタウンは「電気街」であればこそ価値があると思っています。電気街の「古層」を養分として「萌え系」もそこに同居しているのだと思っております。テクノロジーとファンタジー。その間には共通点がある。それは一個の素材から新たなストーリーを構築する想像力(うちらの場合は「妄想力」orz)。いかがでしょうか、この考え。強引かなあ。「ハンドメイドメイ」で「イカリヤ」から「メイ」にたどりついた「できたらいいな」という想像力と実現への情熱。それは「アキバ系」(萌え系に限らず)文化の一つなのではないでしょうか。私たちの妄想から生まれた「できたらいいな」がアキバの中で実現する。それが我々のもとに還元されてみっくみくにされる・・・そんなすてきな関係であり続けたら、これが私の読後感です。



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「アキバで森林浴」 アキバ系准教授・川田健(2007年12月19日)

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