業界関係者が本音を明かした「オタク文化の10年」PD(明大アニ研シンポ後編part3) アキバ総研編集部

2010年01月17日 13:000

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業界関係者が本音を明かした「オタク文化の10年」PD(明大アニ研シンポ後編part3) アキバ総研編集部「アキバ総研編集部」連載コラム第41回(文:アキバ総研担当Hokuto.K)



日本最大のオタク系サークルである「明治大学アニメ・声優研究会」の創立10周年記念シンポジウム「アニメ・マンガ文化の10年」が12月6日、明治大学 駿河台キャンパスで開催された。

※このレポートは以下の記事の続きです。
"リア充"ではなく"厨二病"と歩んだ「オタク文化の10年」(明大アニ研シンポ前編) アキバ総研編集部
業界関係者が本音を明かした「オタク文化の10年」PD(明大アニ研シンポ後編part1) アキバ総研編集部
業界関係者が本音を明かした「オタク文化の10年」PD(明大アニ研シンポ後編part2) アキバ総研編集部


森川嘉一郎氏(明治大学国際日本学部准教授)による基調講演に続き、パネルディスカッションには、以下の著名人が登場。森川氏がコーディネーターとなり、各ゲストが職業/経験上から「オタク文化の10年」について率直な意見をぶつけあった。

<ゲスト>

・谷口悟朗(アニメーション監督・演出家)
代表作:「コードギアス 反逆のルルーシュ」「コードギアス 反逆のルルーシュR2」「プラネテス」「無限のリヴァイアス」「ガン×ソード」
 
・上田耕行(アニメプロデューサー)
代表作:「serial experiments lain」「NieA_7」「灰羽連盟」「TEXHNOLYZE」「HELLSING」OVA

・氷川竜介(アニメ評論家)
主な著書:「20年目のザンボット3」「世紀末アニメ熱論」「アニメ新世紀王道秘伝書」「ガンダムの現場から ― 富野由悠季発言集」「アキラ アーカイヴ」

・喜屋武ちあき(タレント)
アニメ・マンガ・ゲームを愛するオタクアイドル。アニメ特集番組のMCや「中野腐女子シスターズ」で活躍中。

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 御茶ノ水・明治大学 駿河台キャンパス パネルディスカッション風景
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森川嘉一郎氏谷口悟朗氏上田耕行氏
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氷川竜介氏喜屋武ちあきさん森川氏による各ゲストの世代紹介



■ファンにとってショックな話

谷:実は…スタッフの8割は視聴者が本当におもしろいと思えるアニメを作ろうとしてません。パッケージの売上げを長い目で考えたこともない。

それはなぜかというと、30代後半~40代のスタッフは、アニメは世間的に認められてない前提=名誉じゃない仕事という認識で業界に入ってきたから。地位もない。一生同じ仕事をしていける保証もない。さらに金もない。 

つまり、考え方として、数字を取っても自分たちには金は入らない。だから、やりがい=自己満足で作る。たまにその自己満足が客の喜びという人が現れて、初めて客の方を向いているように見える。

ただ、この10年で権利の認められる仕事とそうで無い仕事が露骨に分かれ始めた。その例が声優さんの一部と脚本家。脚本家には印税が発生するが、他のスタッフは印税なし。だから一時期脚本家の時代があったといえます。

上:日脚連のとり決めで加盟作家には決まった割合の脚本料を払わなければいけない。その割合が正しいかは疑問。 

谷:私も社会的保障が無く、3年前までクレジットカードを作れなかった。サクラコンというシアトルのコンベンションに木村貴宏と倉田英之とで行ったんですが、カードがなくて困った。アメリカではカードがない=一人前ではないということ。かろうじて倉田が持っていて助かった覚えがありますw どうやらオルフェで社長がたまたま作ってくれていたらしい。

上:労働環境が注目されたのはここ最近。国を代表する文化といわれているが、労働環境は苛酷。現場のスタッフは身分保障もなく、売れても一銭にもならない。優秀なクリエーターにはお金が配分されないと…。みんな頑張ろうの精神論では産業は成り立たない。年をとれば働けなくもなるわけだし。

日本のソフト輸出は2%程度。一方日本のハリウッドから購入は19%。環境を改善しないと、良いクリエーターが疲弊して辞めてしまう。これは業界のロス。業界の整備など、経産省には頑張ってもらいたい。

谷:国が産業としてアニメを捉えていれば、労働条件・労働人口・賃金など産業の実態を調べるはずでは? データがあると言うが、調査が制作会社まで来ていない。本気か疑問に思う。


■2010年以降に見たいアニメ

氷:破綻のないアニメを見たい。作画崩壊で話題になったり、ファンにはパッケージを買わされるという被害者意識があるんです。実際は購入しなければ良いだけなんですが。ハルヒのエンドレスエイトにしても、同じものを何度も見せるなと叩かれてますよね。

谷:喜屋武さんの求めは難しい。答えがない。アニメって何?と言われると答えがない。実写版キューティハニー(庵野)やアヴァロン(押井)もアニメといえばアニメ。

上 アニメと実写の区別がつかなくなってきた、とも言えますね。

谷:今年半分くらい手塚プロにいたんですが、彼らは独立技術がそのまま残ったガラパゴス的なスタジオ。アニメの動かし方を見ても、現代の一般的なものと発想・文化がまったく違う。捉え方の違いは埋まらない。

上:世代間の考え方の違いが埋まるとは思えない。上の世代が引退していくなかで変わっていくのかなぁって。現代の演出とかも古い世代が納得できるまでに行くとは思えない。あと、「作品が視聴者自身にとって特別と思える」ような自分との関わり方がよりディープな作品を作るための原動力に。

谷&上:でもそういう骨太な企画って通らない!!w

上:昔のアニメ業界は(良い意味で)頭がイカれた人が多かったから、作っちゃえ!的な軽いノリで作れたんですが、今はよりビジネスっぽくなり、類似作品が過去にないとまず企画が通らない

氷:初心に戻るというか、過去の清算というか、リメイクみたいに原点に戻るような作品がファンは見たいんじゃないかな。なかなか人は体を変えられないので…。

上:そういう意味では「時をかける少女」ヒットなどのビジネスモデルは業界的にはありがたいですね。

氷:あと、体験性を大事にするのでは? 「らき☆すた」の街おこしとか。劇場に多くの人が来るもの、劇場自体がお祭り空間という認識があるからでは?

上:昔は劇場作品はハイリスク(配給会社は怖い…)でしたが、今はハードルが下がった。「空の境界」とか。

氷:シネコンの普及も大きいですね。レイトショーなら2000円だし、一杯ひっかけて行くか、みたいな。

谷:たしかに考え方が変わってきたのかも。神社の境内で月に1~2回上映するような気楽な娯楽のひとつというか、映画が映像芸術の頂点というところから、ある意味原点に戻っていくという動きなのかも。アニメはもともとパッケージやスタッフの名前で売って成立していたものでもないですし。無くすものも多いが、広がるのも事実だし、そのビジネスモデル崩壊に怖さを感じる必要はない


■業界とオタクとの関係も変化?

谷:…オタクって難しいですね。海外で「あなたはオタク?」って聞かれるとNOと答えてます。バカにしてるわけじゃなく、倉田みたいな強烈なオタクを山ほど知ってるからww 同レベルとは口が裂けてもいえない。

上:オタクを続けるのはつらいこと。倉田くんはDVDに囲まれて生活してます。明日をも知れない脚本家なのに、もらった金300万円をアキバに行って200万円使ってしまう。そして翌日には40万円の借金…といった使い方を平気でする。それに比べて僕らは正常すぎるww

谷:オタクの持つ意味(範囲)が異なってきている。本来の意味を考えるとそうそう名乗れない。

氷:昔はそもそもオタクって言葉がなかった。手元資料に「オタクになるきっかけとなった作品は何ですか?」と質問がありびっくりした。オタクって「意識してなる」ものなんだ、と。

森:83年から「オタク」と言う語が使われ始め、気づいたら「オタク」となってた層は相当多いと思います。


■制作システムとアニメの多さ

上:倉田くん曰く「見るの大変!20本以上撮ってちゃんと見てるのは3本。残りは消してるw」 バカじゃないのーwとツッコミながらも、現実はその3本に残る作品を作り続けないと…という気持ち。"倉田の3本"にオレの作品は入るのか!?ってw

谷:声優さんも本数多すぎてオンエアチェックできないとか。

森:パイが大きければ当たる作品も多くなるということですかね。

上:結局は数が多ければキラ星のような作品・監督が出るという確率論。産業が縮小すれば、作業量が小ぶりになるので、クオリティを落とさないためには作り方は変えていかないと。

谷:視聴者の立場からすればもっと凝ればいいのに、となるが、制作側がそこまで金をもらってない。自分たちの生活や社員の生活があるので、そこまでできない。結果、どの作品も漫然と平均化していく 無理してでもこだわるならプロデューサーも一体となって考えなくてはいけない制作スタジオのシステムの問題になる。

庵野監督は「ナディア」のこともあり、制作スタイルのシステムで挫折している。エヴァでは、コンテを発注する脚本の段階から、想定カット数、枚数をあらかじめ決めて、必要最低限のクオリティコントロールを図る。重要なシーンは外注せずガイナックスで作った。ボンズであれば、「作画上で必要なクオリティ管理は全部ウチがやる」という姿勢。

氷:リソースの選択と集中。全部ハデなシーンだと飽きる。静かなシーンを入れたメリハリがあるとおもしろい。

谷:1話から全開でいって、3話で崩壊するような自滅型監督もいますけどねw

上:たしかにTVの1話で12000枚使っちゃうようなww パッケージにするアニメは1話で1200万円~、HDで2000万円~、流すだけなら500~700万円。このなかで要求できることってそんなにない。1話で1万枚なんて論外。

谷:昔のサンライズでは、TVアニメの規定が3500枚。ある人は日常的に4500枚使っていて、ついには8000枚に。そこまで増えた結果…顔を見なくなりましたw


■聞くことのできない内情がたくさん出てきたところで質問コーナーへ(森川氏)


Qプロの方が個人(自主)制作で売っていくことはないか?

上:「センコロール」は元アニメーターが制作。ネット動画で100万PV出すようになれば、アニメだけでなく、広告からオファーもある。土壌はあるので、後は皆さんの才能や何を望むかによる。

谷:基本的なことだがアニメーターはほとんどがフリー。フリーであれば会社に縛られず作品を作れるが、生活は不安定になる。一方、社員化されれば、生活が安定する反面、会社の命令に拒否権はない。どちらを選ぶかは本人の問題。アニメ業界は個人活動が始めから認められている。「商業作品」でない作品を作りたいなら、個人で制作していけばいい。そうでないなら、許容する制作会社を選ぶべき。例えばSTUDIO4℃はそれがブランド価値・味になっている。アニメーターから監督になりたいという人が多いが、監督になったときに何を作りたいか見据えてない人が多い。視聴者が喜ばないものを作っちゃったり(美少女モノの特典でロボットばっかり出てくるみたいな)。

上:自分ワールドに持っていっちゃったり。

氷:アニメの歴史を振り返れば個人制作は珍しくない。しかし「ほしのこえ」は個人制作にも関わらずパッケージ流通したのがエポックメイキング。一方で「イヴの時間」のように作画部分をフリーアニメーターに発注し、CG・レイアウトは自分でするなど、ハイブリッドな制作をする人もいる。アニメ制作は何でもやっていいが、その中の当たりクジはプロデュースの問題や、お客さんがいるかという話。


Q美少女モノ(萌えアニメ)の台頭について

谷:美少女はアニメでは昔から。演劇でも映画でもあり、当たり前で珍しくない。原理的なことで、男は女を求めるから。その逆もしかり。ただそうでない人もいるが、そのために「ぼくのぴこ」もあったりww ただし現在は顕著になってきている。

「スクライド」のとき、営業上のライバルに"12人の妹"があった。脚本の黒田と「アニメもうやめようか」と話したw アニメ作品が「シスプリ化」で並列化し、客もそれを求めるのでは…と。
 
上:大月さんより前に(版権元に)シスプリ取りにいっちゃいましたよ俺w そのときは9人だったけど3人増えると聞いた瞬間ガックリとw ついていけないなーってw でも「とらドラ!」とかよくできてるし、今の時代のジュブナイル、恋愛ものだなあ、と。悲観はしてません。

谷:時代ごとのジュブナイルものの女性の扱いは否定はしてない。危惧するところはそれが中心にアニメ雑誌などが構築されていくと、アニメ業界がそれで成立しているような誤解が生まれてしまう。(雑誌で)「プラネテス」を取り上げてくれないが、それは当たり前。雑誌は客商売だから。売るために作ると似通ってしまう。そうなるとその虚像を見たアニメーター志望者が集まる。声優も同じ。例えばロボアニメが減ったのは、線が多いからロボを描きたがらないアニメーターが増えたことも要因。

上:「ハルヒ」描きたいなーって入って「シグルイ」やらされたらそりゃねえw でもロボ動かすのはすごく大変。動いて当たり前って思われているけど実際はしんどい。楽でキャッチーなほうに流れるのは自然なことで、そこでさらにお客さんをよろこばせる技術(CG・作画・演出)を進化させていかないと。

氷:ジャンルが成立するとそれ自体が壁になる。子ども向けだったロボアニメの行き詰まりが、ガンダムで突破されたこともある。美少女ものが悪いというわけでなく、それを突破できる考えが求められる。

上:新鮮味があるから企画は成立するもの。新しいのは当たり前で、革新的じゃないと企画にならない。たとえば、パンツを脱いだらその先ってないじゃないですか?w だからいかに上手に脱ぐまでを演出するか、と。

谷:ただのエロだとそれに特化したジャンルには勝てませんね。

上:きわどい描写が悪いわけじゃないけど、マスに向けて発信するものとして気にはしてる。何でもあっていいんだろうけど、マジメなのが減っちゃったのはお客さんが望んでないからなんだろうなー。

谷:見てて疲れるし、そこまでお客さんはアニメに時間を避けない。マジメだとPCでの"ながら見"とかできないから結果的に…。 

氷:深夜にやってる影響も大きい。会社で疲れてアニメ見ても疲れたくないでしょうにw あの時間帯にゆるいのが増えてきたのはそのせいかも。
 

■これから先のアニメとファンの関係

森:ただアニメのすばらしい点はまだまだ客の手にコントロールがある点ですね。

上:客主導で作ってきてる業界といえますね。商業アニメはお客さんがいないと成立しない。

森:つまり、今後のアニメがどうなっていくかは皆さん次第。こういう作品が見たい!と思ったらBDだけと言わず、BDとDVDの両方を買って盛り上げるとw

上:倉田くんは同じ巻(のDVD)を20本買う。19本は布教用。あとは何時でも見たいからとリビング用、トイレ用とw 彼は特殊ですが、やっぱり長い目で見ると客の意見は反映されていくものだと思う。

森:国や審査員や大学教授の偉い人が望むように作品が作られたらお終いですよね。

上:大学教授がエロ作りなさいと言ってもどん引きですけどねww

谷:ノルシュテイン「話の話」は当時のロシアでは作りづらかった。一方それは今の商業主義の中でも作りにくい。どういった場でもその時のアニメが作っていけるはず。

私の考え方は、マンガの延長そのままのアニメ化→玩具の宣伝→客の方を向き、客の意見を取り込むという時代が来た。今度はスタッフ側が客に提示していく時代に入らないといけないのだと思う。ただ、客の提案を聞くことを否定しないが、顔色をうかがいすぎるとものづくりの主体性がなくなってしまう。そこで「スタジオ自身がどう作るか努力をしている」作品がさらに増えていけばいいな、と。

森:たしかにキャッチボールがあるとすばらしいですね。みなさん、今日はどうもありがとうございました。

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質問コーナー
終了後、ゲストと参加者の交流も
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明治大学アニメ・声優研究会のイベント実行委員との集合写真

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