「イルカがせめてきたぞっ」や、妖怪のフィギュアを作る造形作家・怪奇里紗が、ガレージキット教室を続けている理由とは?【ホビー業界インサイド第85回】

2022年10月29日 11:000

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「現実は、デジタルよりもバグが多い」……予想不能なことが起きる粘土造形は面白い


── 今日は、怪奇さんがシリコンゴムで作った型を見せていただけるそうですが……型は、ボルトで固定してあるんですね?

怪奇 さっきレジンを流して、そのまま持ってきたので、まだ硬化熱で温かいんです(笑)。どうしてボルトで止めるのかというと、型の真ん中の部分がふくらんでしまうからです。木の板で固定しても型から浮いてしまうので、型に直接、ボルトを打つことにしました。原型をどういう方向で型に埋めるかは、教室で教えるようになってから、自分でも上達しました。この妖怪“ぬっぺっぽう”の原型はNPS粘土を使っています。一度型をとってレジンに置き換えてから、細かいところを整えていきました。


── しかも、接着剤を使わなくても、ハメコミ式で組み立てられるんですね。

怪奇 はめこむ部分は、3Dプリンターで作りました。手作業のほうが早いから粘土を使っていますが、別にデジタルを使うのが嫌いなわけではありません。グラフィックデザインの仕事をしていた頃はIllustratorを使っていましたし、必要となれば今後もデジタルを使います。

── こういう妖怪単体のフィギュアだけでなく、石原豪人さんの描いた河童の絵を、ジオラマ風に立体にしたりもしていますよね。ちょっとエロティックな雰囲気があります。

怪奇 石原先生は、別名義で同性愛の雑誌にもイラストを描いていたので、少年の筋肉のつき方など、エロティックな要素が確かにあります。そういう魅力的な部分を押さえつつ、人がどこを最初に見るのか、視線の動きを予想して背景まで作りこんでいきます。視線の誘導がうまく行ったら、私にとっては理想的です。背景を作ることの意味をもたせるというか、立体ならではの見せ場を考えていくのは好きです。



── ほかには、やはり石原豪人さんの描いた「女郎ぐも」など、独特の世界観のものを立体化していますね。

怪奇 大学のころ、虫を見るために海外へ行ったぐらいの昆虫好きで、特に蛾が好きなんです。一見すると「気持ち悪い」と感じるのですが、同時にきれいだとも思うからです。ただひたすら美しいものよりは、「美しいけど怖いもの」が今の私の心にフィットします。

── ゆくゆくは、オリジナルのキャラクターを造形したいのですか?

怪奇 そうですね、今までの私は人が喜んでもらえるものを作り、人に必要としてもらえる教室を開催してきました。人に影響されて、人から養分をもらってきたので、積極的に自分からアウトプットしていたわけではありません。妖怪好きの方から「あなたの造形作品が好きです」と言っていただけるのですが、私自身は妖怪に詳しいわけではないんです。でも、自分の中で言葉にならない想いを、怪奇をテーマにいずれは形にしてみたいです。人の心を動かしたいというか……。オリジナルで造形することが、今後の課題かもしれません。

── 人に教えることは、今後も続けていきたいですか?

怪奇 「物を作る」って、人間が生きているかぎり続く欲求だと思うんです。カルチャースクールでデッサンや日本画の講師をしていたころ、「描くというよりは物の構造をとらえるんです」という教え方をしていました。そういう話をすると、70代の方でも目が生き生きとしてくるんです。「張り合いが出た」と言ってもらえました。新しいものを学びたい欲求は、一生続くんだと思います。そういう意味で、立体造形は粘土を手で直に触れるわけで、いい刺激になるんじゃないでしょうか。叩きつけたら潰れるし、重力も関与していますよね。

── 粘土造形からデジタル造形に移行すると、「今までは重力の助けを借りていたんだ」と気づかされることがあるみたいですね。

怪奇 ようするに、現実世界のほうが圧倒的に情報量があるということでしょうね。デジタルに比べると、現実ってバグが多い。紙に描いても、「なんかここだけ水を弾くな……」と予想できないことが起きやすいです。そうした部分も含めて、面白いんじゃないでしょうか。



(取材・文/廣田恵介)

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