「イルカがせめてきたぞっ」や、妖怪のフィギュアを作る造形作家・怪奇里紗が、ガレージキット教室を続けている理由とは?【ホビー業界インサイド第85回】

2022年10月29日 11:000

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3日間で作るガレージキット教室では、「レジンが硬化する」瞬間が最高に盛り上がる


── 小松崎茂さん原作の「イルカがせめてきたぞっ」は、ガレージキットだけでなく塗装ずみ完成品も売っているんですよね?

怪奇 そうです。広島の尾道に引っ越してきてからしばらくは、生計を立てるのに苦労していました。アルバイトするような場所もないし、それなら、自分の時間でフィギュアを作って売ってみようと思いました。最初のころは値段設定もわからず、月に10万円ぐらいの稼ぎにしかなりませんでした。お金にならないし、人に誉めてもらえることも少ないし、もう辞めようかと思っていたとき、価格なども見直して、何か新しいものを作りたいと、例によって旦那に相談しました。「それだったら、イルカだろう?」と提案されて、小松崎先生ならご遺族の連絡先もわかるので、版権も無事に取得できました。実際にイルカに触りに行ったりして、造形するのには時間がかかりましたが、反響はとても大きかったです。

── ガレージキットの販売だけでなく、「日本一早く“3日間”で原型からガレージキットを作る初心者向け教室」を開講しようと思ったのは、どうしてですか?

怪奇 作品をつくるだけで作家が生きていくのは難しいので、安定して収入を得る方法を考えたんです。大学生の頃、カルチャースクールで絵を教える講師のアルバイトをしていたので、教室ならできると思い当たりました。フィギュアの作り方を教える教室は多いのですが、ガレージキットの原型を作ってシリコンゴムで型どりして、レジンキャストで複製するまでの一連の流れを教える教室はありません。やるなら、最初から最後まで教えたいと思ったんです。

── 教室でガレージキットの作り方を学んで、皆さん、どんな反応ですか?

怪奇 皆さん、めちゃめちゃ楽しそうに帰っていきます(笑)。プロを目指している方もいますし、漫画家さんやデザイナーさん、他業種のプロフェッショナルの方が多いのも特徴かもしれません。いずれは自作のガレージキットを売りたいという方も多くいらっしゃいます。皆さん、やる気のある方ばかりで、教えているこちらも集中して取り組んでいます。

── 「こういうフィギュアを作ろう」という課題は設定するのですか?

怪奇 モチーフは決めません。シリコンゴムの量が関係してくるので、サイズだけ決めます。ほとんどの方が、事前に「こういう物を作りたい」と考えてきます。当日までに思いつかなかった方とは、一緒に何を作るか考えます。何か特定ジャンルのキャラクターなどにこだわらず、自分の好きなものを作るのが私のスタンスなので、逆に入ってきやすいのだと思います。ドーナツでもアンパンでも、本当に何を作ってもいいんです。シリコンとレジンで量産すれば、パン屋さんになれますし(笑)。


── たとえば、原型さえ作れば自分の好きな立体物が手に入るわけですよね? 何もシリコンゴムで型どりしてレジンで複製しなくてもいいや、という方もいるのでは……?

怪奇 それが、私の教室に来るのは欲張りな方ばかりで、自分の作った原型を複製する工程も楽しんでらっしゃいます。1日目が原型づくりで、2日目にシリコンゴムの型を作るのは少し難しいのですが、3日目でレジンの原液を流して量産するとき、「おお~!」と盛り上がります。液体を混ぜて、それが硬化していくのが、ひとつのショーなんですね。まるで、山登りしてご来光を拝むような盛り上がりになります。

── 「最低限これぐらいは上手に作ってほしい」といった基準はないのですか?

怪奇 私の教室では、完成させることが第一です。クオリティは求めないので、まず完成させるまでの工程を楽しんでもらうことが大前提です。「上手にできなかったからやめちゃう」のが、一番よくありません。どんな小さな作品でも自分の世界ですから、上手下手は関係ありません。

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