ホビー

低価格帯フィギュアを開発する苦労と楽しみとは？　フリュー株式会社の新フィギュアブランド「TENITOL（テニトル）」の開発チームに聞く【ホビー業界インサイド第84回】

2022年10月08日 11:000

フィギュア

インタビュー

ホビー業界インサイド

Art by lack (C) Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

高価格帯フィギュアでもプライズフィギュアでも、原型のクオリティは変わらない？

── 商品の仕様について、もう少し詳しく聞かせてください。初音ミク（TENITOL 初音ミク Light/Dark）の衣装はかなり変わっていますが、「エロマンガ先生」（TENITOL 和泉紗霧）はテレビアニメでおなじみのルームウェア姿ですよね。

寳迫　それぞれのキャラクターによって、できることとできないことがあると思っています。初音ミクのように、スタンダードなフィギュアが世の中にたくさん出ているキャラクターの場合、できるだけスタンダードではない衣装が求められます。逆に、それほど市場に出ていないキャラクターならば、もっともシンプルでアイコニックな衣装が商品化に適しています。

── すーぱーそに子（TENITOL すーぱーそに子）は、珍しいライダースーツですが？

寳迫　そに子も、長年にわたってさまざまな種類のフィギュアが発売されてきたキャラクターです。常に市場に出ているキャラクターならではの難しさはありますが、そに子のフィギュアを好きなファンが大勢いることが証明されてもいるわけです。ですから、今回はあえて露出は控えめにして、「何か面白いコスチュームはないかな」と模索した結果、ライダースーツにしました。

今谷　露出は少ないんだけど、そに子らしいセクシーさが感じられるコスチュームですね。

寳迫　どんなコスチュームにするか考えているときが、いちばん楽しいです。

── 新しく発表された「TENITOL 初音ミクチャイナver.」は、南野あきさんというイラストレーターの描いた絵が元だそうですが、元になるイラストがあったほうがいいのですか？

寳迫　ミクのようにこれまでたくさん商品が出てきたキャラクターは、王道ではないバリエーションが好まれたりするので、イラストレーターさんの力も借りてアイデアの幅を広げています。また、原型師さんもしっかりとイラストのあったほうが造形しやすいようです。ミクのファンでない方でも、そのイラストレーターさんのファンなら、フィギュアを購入してくれる場合もあります。このチャイナVer.は、以前にプライズで発売した製品の原型に付加価値を付けて、さらに豪華な仕様で商品化しています。

── そうなんですか？　プライズフィギュアというとパーティングライン（金型に材料を流したときにできる線）が残っているような、荒々しいイメージがありますが……。

寳迫　「TENITOL（テニトル）」ではプライズ用の金型を調整して、パーティングラインを削り落として、塗装の手間も増やしています。プライズの原型もクオリティが高く、完成度は高価格帯のフィギュアと比べても変わりません。せっかく素晴らしい原型ができたのに、プライズだけで終わらせてはもったいないという気持ちが以前からありました。すーぱーそに子もプライズとして発売した原型を参考にしながら、「TENITOL（テニトル）」としてリニューアルするにあたって、新しく飾り台を付けています。この「初音ミクチャイナver.」でも、新規に造形した飾り台を付け、カラーリングにもこだわるなど「TENITOL（テニトル）」だからできる魅力を加えました。

今谷　お客様から「なんだ、プライズと同じか」と言われてしまうことを怖れていたのですが、「TENITOL（テニトル）」だけの付加価値をお伝えすることで好意的に受け取ってくださる方が多くて、ホッとしています。

寳迫　「TENITOL（テニトル）」用に原型を作り起こした「TENITOL 初音ミク Light/Dark」では背中に大きな羽が着いていますが、低価格帯での提供を実現させるために、衣装は一色にしていますし、パーツも少なく抑えています。ポーズ、パーツ数などの制限がありながら、どうしても減らせない部分もあります。プライズフィギュアの金型を活用するというアイデアも、価格を抑えながら質のいいフィギュアを開発するための試行錯誤のひとつです。法律上のコスト制限がある中で、プライズの原型の出来は「やりすぎ」と思えるぐらいクオリティが高いので、価格の差はイコール工程の差と言えるかもしれません。