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ザ・マネージャーがサンドリヨンの姿になったワケは
── 話数ごとに、個性的なクラスタと住人たちが登場しました。橋本監督の中で、印象に残っているのはどれですか? 橋本 面白かったのは第9話「支配から逃げられない」に出てきた府中ですね。どのクラスタにもシンボル的な建物をひとつ作ろうと思っていて、府中はモデレーターのドキョー所長の巨大像になりました。しかもかっこいい像ではなく、あえてかっこわるくしているんです。クラスタの描写に関してはリアリティを出したくないという思いがあったんですけど、像がある府中プリズンの建物の絵が美術さんから上がってきたときは、「いいですねえ! これで目とか光らせたいです」と(笑)。美術さんも9話くらいになると作品の世界観に慣れてきて、楽しくなってきたみたいでした。
── ドキョー所長も強烈なキャラクターでした。 橋本 これも自分の想像の数段上をいくキャラクターデザインが上がってきて「いいすね!」と。このキャラだったら、声はくじらさんしかいないと思いました。
── ドスのきいている声が、いかにも刑務所の女所長という感じでした。キャラデザインも面白くて、ドレッドヘアの先端はカメラになっているんですよね。 橋本 そうですね。あのカメラを使っていろいろやりたかったんですけど、尺の都合で難しくて。3DCGって途中から設定を追加することができないんです。これは最初に言われていたことで、「いったん、現場の制作作業に入ったら、それを戻して新たに何かを加えることは難しいです。最初に決めたもので、基本やっていきます」と。
── つまり途中で新たなアイデアが浮かんでも、それを採用することはできないと。 橋本 3DCGによる制限が、いい方向に働いたこともいろいろありました。たとえば、最終話で出てくるザ・マネージャーの実体化した姿が、第8話「運命から逃げられない」に登場したサンドリヨンと同じというのが、そうです。最終話はザ・マネージャーを逃がす話なんですけど、どうやってあの巨大なAIを逃がすか考えたとき、ザ・マネージャーの人格とか意識だけを逃がせばいいんじゃないかと思って。そうすると、デフォルトの状態となってコンピューター自体はそこに残り、今後もザ・マネージャーとして機能していくんです。でも、ザ・マネージャーの意識を移した後のキャラクターを作っていなかったので、サンドリヨンを使ったんですね。そうすることで、サンドリヨンも救われると思ったんです。
── 白金クラスタのモデレーターだったサンドリヨンは、クラスタの消滅とともに姿を消しました。 橋本 それを描いた第8話だけ、どうしてもさびしい終わり方をしていたので心残りだったんです。最終話もサンドリヨン自身が復活するわけではありませんが、同じ姿同じ声で動いていることで、視聴者も喜んでくれるんじゃないかと。これは3DCGで作っていなかったら、全然違うキャラクターになっていたと思うんです。3DCGの制約がある中で出てきたアイデアで、逆によかったなと。
── たしかに見ていて、うれしかったです。最後は逃がし屋の仲間になっていましたね。 橋本 すごいことができるんだから、仲間にしちゃえばいいじゃんと。でも、本人はあまり動きたくないみたいで、現場には出てませんでした。
── 参謀みたいなポジションでしたね。エム(ザ・マネージャー)が加わった逃がし屋の活躍も、もっと見てみたいところです。再登場するキャラクターでは、トイチもいました。第2話ではヤクザの親分、第11話では魔法少女と、姿が完全に変わってましたが。 橋本 あの古風なヤクザの親分が魔法少女になるって言いだしたら、バカバカしいなと(笑)。「作ってるヤツら、アホだ」と視聴者も肩の力が抜けるんじゃないかと思って生まれた設定だったんですけど、第2話の段階では魔法少女の姿を出すかどうか決まってなかったんです。第11話での再登場は後から決めたので、やっぱり新たにキャラを作ることができなくて。実は魔法少女姿のトイチは、第1話のアバンでエクアたちが逃がした女の子の流用なんですよね。
── あ、それは気づきませんでした。 橋本 放送された後にエゴサをしてみたんですけど、気づいている人は見当たらなくてよかったです(笑)。
── 最終話では、エクアたちがザ・マネージャーのもとにたどり着いたということで、この世界の歴史についても明かされることになりましたね。現実の今から、どうやってつながって、あんな日本になったのかが語られました。 橋本 そうなんですけど、この世界の設定については、自分にもまだわかっていない部分があるんですよ。どのタイミングだったか、谷口さんがいきなり「大江戸城は宇宙とつながっている」と言われたことがあって(笑)。どういうことなのか尋ねると、「衛星と通信しているんだ」と。「それは劇場アニメのほうで使う設定なのでしょうか? それともTVアニメで使ってほしいということなんですか?」と(笑)。
── いきなり新設定が(笑)。 橋本 谷口さんはそうやって、急に驚くことを言い出すんです。大江戸線の設定もそうだったんですよね。「クラスタ間でどうやって物資をやり取りしているんですか?」と聞いたら、「輸送手段は大江戸線でいいんじゃない」って(笑)。僕も賀東さんもびっくりして、大江戸線なのかと。
── なぜか動いてましたからね、大江戸線。 橋本 「電車じゃなかったら、ワープ装置とかでもいい」と、ぶっ飛んだことを言われて(笑)。でも、それが谷口さんの作り方なんだと思うんですよね。細部の設定について、1つひとつマジメに破綻なく考えていくんじゃなくて、1回ぶっ飛んだことを考えて、それが成立する世界にしていくほうがアニメの作り方としてはいいというのが、谷口さんが経験で学んだことなのかなと。自分はまだそこには至っていないので、何か言われるたびに、また知らない設定が出てくるんじゃないかとドキドキしました(笑)。