映画「ゆるキャン△」大ヒット公開記念インタビュー前編! 京極義昭監督が語る、なぜ映画では大人のキャンプを描いたのか?

2022年07月17日 10:000

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映画「ゆるキャン△」(原作:あfろ/マンガアプリ「COMIC FUZ」にて連載中)が、現在、大ヒット上映中だ。

高校時代、キャンプを通じて関係を育んでいった、なでしこ、リン、千明、あおい、斉藤。時を経てそれぞれの道を歩んだ5人が、とあるきっかけでキャンプ場を作ることになる……というあらすじの本作。

劇場のスクリーンでみせる彼女たちの物語は、これまでの「ゆるキャン△」の魅力はもちろん、新たな要素も加わって観るものの心にほっこりとした感動を届けてくれる。

 

そんな映画「ゆるキャン△」はどのように作り上げられていったのか、なにを描きたかったのか、テレビシリーズから引き続き本作でも監督を務める京極義昭さんにお話をうかがった。

 

 

最初のきっかけは、なでしこの妄想

 

――映画公開おめでとうございます! とても素敵な映画となりましたが、制作は大変でしたか?

 

京極義昭監督(以下、京極) すごく大変でした(笑)。でも、スタッフがテレビシリーズの経験から作品をより理解してくれるようになったので、任せられることも多く、心強かったですね。楽しく作ることができました。

 

――今回の映画では、大人になったなでしこやリンたちによるオリジナルストーリーが描かれます。なぜ、大人になったところを描こうと思ったのでしょうか?

 

京極 そもそもの始まりは、4年ぐらい前です。TVアニメ「ゆるキャン△ SEASON2」とショートアニメ「へやキャン△」と映画を作りませんか? と一緒にご提案いただき、企画を考えていくことになりました。でも、当時は原作がまだ「SEASON2」の範囲も終わっていなくて、(「SEASON2」で描かれた)伊豆キャンですら影も形もなかったんですよ。そうなると、必然的になにか別の内容を考えないといけないですよね。

 

――確かに。

 

京極 別の内容となると、例えば「高校生のなでしこたちが、夏休みや冬休みなどに今まで描かれていないキャンプをする」というのは考えやすいですよね。でも、あfろ先生の原作はひとつひとつのキャンプに必ず気付きや成長みたいなものが、わずかだけれどちゃんと入っているんです。ずっと同じことを続けているのではなく、キャンプを経るごとにちょっとずつ成長していて、長い目で見ると繋がっているんですよ。

 

そこに僕たちが勝手にオリジナルのキャンプシーンを入れてしまうと、なにかしら影響せざるを得ないし、原作に迷惑がかかってしまう。テレビシリーズのときからオリジナルシーンを入れることの難しさは身にしみていて。本当にちょっとでも安易にシーンを足してしまうとバランスが崩れてしまうんです。それだけ完成度の高い原作なので、うかつにそんなことはできないし、映画となればかなり大きなものになるから、なおさら難しい。

 

じゃあなにかほかの案はないかと考えたときに、ポンと「大人の5人を見てみたいよね」という発想が出てきたんです。TVアニメ第1作目の第12話でなでしこの妄想として出てきた、大人になった5人の姿がすごく印象的で。いちファンとしても大人の5人を見てみたい、最初のきっかけはそれでしたね。

 

――ストーリーはあfろ先生監修とのことですが、大人になった姿を描きたいと先生に提案したときの反応はいかがでしたか?

 

京極 大人になった彼女たちの映画を作りたい、と言ってはみたものの……よくよく考えると、とんでもない話じゃないですか(笑)。原作がまだ続いているのに、大人を描くなんて考えられない提案だと思うんです。でも、ダメ元で先生に聞いてみたら一発OKというか、「面白そうですね」と言っていただいて。「本当にいいんですか!?」と僕らが驚くぐらいでした。なので、それならば思い切ってチャレンジしてみようとなったんです。

 

――テレビシリーズのときにお話をうかがった際も、あfろ先生はすごく協力的だとおっしゃっていましたし、懐が深いですね。

 

京極 そうですね。変化を恐れないというか、本当に懐が深いんですよ。

 

――これまでのアニメシリーズで培ってきた信頼もあるんでしょうね。

 

京極 そう思っていただけているならありがたいです。でも、やっぱりドキドキでした。先生とはなかなか直接お会いする機会がなくて、本読みをやるたびに編集者の方を通して反応やご意見をいただいていたんですけど、僕はずっと「先生は本当に怒っていないのかな……?」と不安だったんですよ(笑)。その後、完成してすぐの関係者試写会でお会いしたとき、喜んでいらしたのですごくホッとしました。

 

――なでしこがアウトドア用品店に勤務しているなど、各キャラクターの設定に関してはあfろ先生からのリクエストもあったのでしょうか?

 

京極 僕らのほうでキャラクターの性格や興味のあることから発想した将来の姿をまずは提案して、先生に反応をいただきました。そんな仕事になるんですか? といったことはなく、すぐに意見が合致したというか。先生からもこういう仕事に就くんじゃないでしょうか、といったアイディアをたくさんいただいて、それを取り入れつつ細かいところを調整した感じですね。

 

 

京極監督がこの映画で描きたかったものとは?

 

――「ゆるキャン△」はこれまでも単純にキャンプをするだけなく、そこから視聴者が感じるものも大きかった気がします。今回、大人になった姿を描く中で、なにを伝えたいと思ったのでしょうか?

 

京極 僕も実際にやってみて、キャンプって子供でも楽しめるし、大人になったら大人なりの楽しみ方や関わり方があるなと思ったんです。ずっと長く続けられる趣味なんですよね。しかも、「ゆるキャン△」は高校生のキャラクターを主人公にしていますけど、いい大人も共感しちゃう部分があるじゃないですか。

 

高校生であることだけが「ゆるキャン△」の条件ではないというか、もっと成長してもその時代(年代)なりのキャンプとの関わり方や得られる体験がある。だから、大人になったあの子たちがやるキャンプもなにか魅力的な物語が作れるんじゃないかと、なんとなくですが予感はあったんです。

 

――わかります。TVアニメ第1作目でソロキャンプもいいしグループでのキャンプもいいと言っていたように、この作品は「否定するのではなく肯定する作品」だと感じていて。今回は縦軸として年齢・年代が変わってもいいんだよと言われているような気がしました。

 

京極 そうですね。「ゆるキャン△」の持っている奥行きは、作りながらずっと感じていました。原作をアニメ化して、作り終えたと思っても、その先にもっと魅力的なものがあるのを感じるんですね。原作は続いていますし、読めば読むほど、こういう切り口で面白くするのか! と思える魅力が出てくるんですよ。

 

アニメ第1作目ではなでしことリンが出会って「キャンプは魅力的だよね」となり、「SEASON2」では旅の魅力や家族といった新しいテーマが常に生まれてくる。まだまだ奥行きはあるし、大人になればなっただけの、子供(高校生)時代では描かれなかった魅力が出せるんじゃないかと思いました。

 

――そういう部分を含めて、本作のテーマを言葉にするとしたら何でしょうか?

 

京極 ひと言でまとめるのは難しいですけど、やっぱり“大人になること”でしょうか。大人(のなでしこたち)を主人公にすると決めたときに、じゃあ大人ってなんだろう? と考えたんです。実際に自分が大人になったと感じたのはいつだろう? とか、20代の頃って自分のことを大人だと思っていたかな? とか、そういったところから物語に入っていきましたからね。

 

――観る人の年代、大人が観るか子供が観るかによって感じ方が全然違いそうです。

 

京極 そう思います。

 

――大人って、「大人だから」「社会人だから」と思って躊躇してしまうときがありますからね。(大垣)千明の立場とかにも共感できる人がいると思いますし。

 

京極 そうですね。今回は(なでしこたちと)同年代の方、それこそ20代の方にも共感してもらえるポイントや、もう少し大人の方にも共感してもらえるポイントがあると思っています。大人の方にもぜひ見てもらいたいです。

 

 

――ちなみに、京極監督はこれまでずっと「ゆるキャン△」のアニメに携わってきたわけで、ご自身の思いといいますか、京極イズムみたいなものが本作に入ることもあったのでしょうか?

 

京極 いや、そういうつもりは全然ないです。僕らの仕事は「ゆるキャン△」の魅力をいかにアニメ化して知ってもらうか。おかげさまでテレビシリーズをたくさんの方に見てもらうことができて、そこはある程度達成した部分もあります。でも、ポテンシャルといいますか、この作品はまだまだ広がりがあるし、もっとたくさんの方に楽しんでもらえる可能性がある。そのチャンスを今回の映画でいただけたと思っています。

 

ですので、僕が「これだけが『ゆるキャン△』の魅力です」とやってしまって、せっかく持っている潜在的な魅力、可能性を潰すわけにはいかないんです。だから、あえて今までとは違うじゃん、と言われるリスクを取ってでも、「こういう『ゆるキャン△』もいいよね」と言ってもらえるチャレンジをしたかったんです。今回はオリジナルですから当然僕がやりたいことが出てくるのは否定しませんけど、そういうことですね。

 後編に続く!

(取材・文/千葉研一)

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上映開始日: 2022年7月1日   制作会社: C-Station
キャスト: 花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、黒沢ともよ、井上麻里奈、伊藤静、松田利冴、大塚明夫
(C) あfろ・芳文社/野外活動委員会

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