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バトルシーンにつける音楽のコンセプトとは?
── サントラのもうひとつの軸はバトル、アクションシーンのための曲だと思います。こちらはどんなことを意識して作られたのでしょうか? 岩崎 バトル曲ではルールとして決めていたことがひとつあって、それは「トラップ」を入れるということです。トラップというのは、比較的最近広く知られるようになったハイファイなサウンド感のあるヒップホップのドラミングの手法なんですけど、それとオーケストラを合わせるということを、やりたいなと。これは最初から考えていたことで、一番最初に公開されたティザーPVでもやっているんです。バトル曲はそれを踏襲して、今回は、一部を除いて生のドラムは使っていないですね。
── そういう新しい音楽を取り入れようとしたのは、どういう理由からでしょうか? 岩崎 ひとつ理由としてあげるとすれば、今回の「スプリガン」に出てくるガジェットが、原作のよさを残しながら、現代のモノに刷新されているということですね。作画的にも2Dと3Dを合わせたものになっていて、それにつける音楽として、あくまで原作の雰囲気、世界観を壊さずに今のサウンドでやったらどうだろうと。それで、バトル曲にはトラップを入れるというのが、僕の今回のトーン&マナー(統一性のためのルール)になりました。
── 原作漫画は'89年から'96年に連載という、約30年前の作品なんですよね。オリジナルのよさを残しつつ、現代版にしたのが今回のアニメシリーズで、音楽もそれをやったと。 岩崎 僕は、'98年に公開された劇場アニメの「スプリガン」は素晴らしい作品だと思っていて、配島邦明さんによるサウンドトラックもすばらしかったんです。今回の音楽は、それをリスペクトしつつ、現代の音像に寄せるという取り組みをしました。それこそ古代文明の継承じゃないですけど、30年前、25年前から続くものを受け継ぎつつ、新しくすべきところは新しくするという意識がありました。
── ひるがえって言えば、現代の音楽だけを追求したサントラにはなっていないということですね。 岩崎 初期のミーティングに原作者のお2人(たかしげ宙・皆川亮二)がいらっしゃったんです。そのときに「なんだかんだで殴って勝つ、少年漫画なんです」ということをおっしゃっていたのが印象に残って。なるほどと思って、その世界観を踏襲したいなと思いました。
── すごく納得できるお言葉で、「スプリガン」のバトルには、拳で敵と語り合っている感があるんですよね。 岩崎 銃はもちろん、特殊能力やハイテク武器が出てきますけれど、最終的には殴り合いになる。それが少年漫画として一番のカタルシスになると。小林監督も「血潮がたぎるテイストで作りたい」とおっしゃっていて、音楽もそれに乗った感じですね。しゃれた音楽を作るつもりは最初からありませんでした。
── バトル曲で、ほかとはちょっと毛並みの違った曲があります。ブラスロックな感じの「Duke it out」という曲で、タイトルを直訳すると「決着をつける」になります。 岩崎 あれこそ殴って勝つ曲で、あまりにもストレートにブラスロックをやったので、実は作ったとき、ちょっと照れくさかったんです(笑)。でも、ここが分水嶺だなと。この曲を提出するかしないかの判断が、「スプリガン」の音楽を決めるような気がしていました。
── 結局、提出したということですね。 岩崎 自分の照れくささなんて、作品に合う音楽を作ることとは比べられませんから。映像につけられたのを見たら、合っていて、出してよかったなと思いました。
── 「スプリガン」のメインテーマとも言える「Theme of SPRIGGAN」。この曲も、今のお話の流れの中にある曲ですね。 岩崎 そうですね、これも「殴って勝つ」曲のひとつです。同じフレーズのリフレインも、ちょっと照れくさかったんですけど、テーマ曲では原作の雰囲気を出したいなと思って。この曲もトラップのリズムの上にオーケストラを乗せているんですけど、難しいモチーフを使ったりせずに、男の殴り合いの曲を作ろうと思いました。ほかのバトル曲には現代風の難しいリズム体系のものもあるんですけど、テーマ曲に関しては、強く原作の雰囲気を意識しました。
── 例外もありますが、バトル曲は総じて重厚さがありました。 岩崎 それは「スプリガン」という作品におけるバトルの規模感によるものですね。御神苗はアーカムという組織の一員で、戦う理由は個人的なものではなく、大きな物語が背後にあるんです。その規模感にフォーカスしたとき、バトル曲は必然的に重厚なものになりました。小林監督も同じようなことを言っていて、「スプリガン」には少年漫画的な熱血の部分と、国家や大企業を相手にしたタクティカルな部分がある。戦闘では、タクティカルな世界観を大事に、ある種、戦争モノに近い感じで描いていきたいと。
── たしかに御神苗は、自分が組織の一員であることを強く意識して戦っていますね。
岩崎 その戦いのための音楽なので、サイズ感は大きくしたいなと。コロナ禍で人数制限がある中、なるべく多くの演奏者を呼んで、それでも足りなければ多重録音をして、重量感を出していきました。
── 最初にお話に出た、監督の発注を受けての、第2段階の曲。これにはどんなものがあるのですか? 岩崎 10曲いかなかったくらいの量だったと思います。ある程度、作画が上がってきて、監督の中でこのシーンのこの秒数でこんなことが起こるということが見えてきたとき、今ある曲を使うのではなく、カットの動きに合わせて新たに曲を作ったほうが、気持ちいいだろうと。それで、各カットの秒数やキャラクターの動きを細かく指定したうえで、新たな発注がありました。いわゆるフィルムスコアリング、映画音楽の作り方です。敵味方複数同士の戦いなど、印象的かつ重要なシーンで、この発注がありました。
── 岩崎さんは、上がった作画を見ながら作曲されたということですか? 岩崎 いえ、できあがっているところと、未完成なところとまちまちでした。絵ができ上がる前から動きのタイミングを計るのは相当に大変だったと思いますし、発注は覚悟がいることだったと思います。音楽を作り始めてしまったら、カットの長さを変えたり順番を入れ替えたりすることができないんですから。