【本日発売】自由を求めて独裁国家から脱出せよ! まるで映画のような傑作ロードトリップアドベンチャーPS4版「Road 96」レビュー

2022年06月16日 11:300

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アキバ総研をご覧のみなさま、いかがおすごしでしょうか。ゲーム買いすぎちゃう系ライターの百壁ネロでございます。突然ですが旅はお好きでしょうか? 旅の魅力と言えばやはり、見知らぬ地を訪れて風景や食べ物、人との交流を楽しむ点にあると思いますが、ここ数年、なかなか思うように旅行ができない期間が続き、旅好きの方はもんもんとした日々を過ごされているかと思います。というわけで今回は、そんな“旅”の物語が楽しめる作品、「Road 96」をご紹介したいと思います。

舞台は架空の独裁主義国家、ペトリア。国外へ脱出するために「Road 96」を目指す長い旅が始まる……。

「Road 96」は、すぐれたインディーゲームに贈られる「INDIE Live Expo Awards」の第2回大賞を受賞したタイトルです。PC/Switch向けにはすでにリリースされていた本作ですが、今年6月16日に、PS4/PS5/Xbox版が発売となりました。今回は、PS4版にてレビューをしていきます。

ジャンルは、1人称視点で展開されるロードトリップアドベンチャーゲーム。プレイヤーは3Dグラフィックで描かれた世界を旅しながら、いろいろなものを調べ、キャラクターと会話をし、そしてさまざまな選択を繰り返しながら、物語の結末を目指していくこととなります。いわゆるウオーキングシミュレータータイプのアドベンチャー作品となっており、没入感の高いプレイが楽しめるのが特徴です。

 

 

注目すべきは、ゲームを彩るグラフィックです。本作のグラフィックは、リアルタッチな3Dではなく、どちらかというとシンプルなコミック調となっていますが、そのクオリティはハイレベル。とりわけ、プレイヤーの目の前に広がる広大な平原やうっそうとした雑木林、星と月が明るく輝く夜空など、風景が美しく印象的に描かれています。そこに、環境音やBGMが乗ることで、「見知らぬ地を旅している」というワクワク感と不安の入り混じった独特の感覚をプレイヤーに与えてくれます。特に作品の時代設定に合わせた90年代風のBGMは、どこかノスタルジックでセンチメンタルなテイストのものが多く、必聴のクオリティです。

 

 

と、これだけであれば、アドベンチャーゲームとしては珍しくないタイプの作品に思えるかもしれません。しかし、本作の大きな特徴として「プロシージャル生成」が用いられている点があげられます。プロシージャル生成とは、自動生成的な機能のこと。物語を楽しむアドベンチャーゲームと、遊ぶたびに異なるランダム要素が楽しめる自動生成機能は、相性がよくないように思えるかもしれませんが、本作ではこれらが見事にマッチすることによって、唯一無二のプレイ感が生み出されています。自動生成要素がどういうふうに生かされているかについては後述するとして、まずは本作の大まかなストーリーからご紹介していきましょう。

 

本作の舞台となるのは、架空の独裁主義国家「ペトリア」。現大統領によって圧政が敷かれたペトリアから解放されて自由になるために、国外への脱出を目指す若者たちが本作の主人公です。彼らが目指すのは、ゲームのタイトルにもなっている「Road 96」こと96号線。10年前に「黒い旅団」と呼ばれる集団による悲惨なテロ事件が起きた現場であり、そしてペトリア唯一の国境につながるこのRoad 96へとたどり着き、国から無事に脱出することが主人公たちの目的であり、同時にプレイヤーの目的となっています。

 

 

本作の時代設定は、1996年の夏。ゲーム内時間の3か月後に次期大統領選挙が予定されており、プレイヤーが通る旅路には、現大統領・ティラックと対立候補であるフローレスのチラシやポスターなどが散見されます。この、独裁主義国家ペトリアの政治の行く末がどうなるのかも、本作のストーリーのキーとなる部分です。

 

 

主人公はひとりじゃない!? 自動生成要素によって繰り返し楽しめる!


さて、先ほど、本作の主人公について筆者は「若者“たち”」と記しました。実はこれには理由があります。というのも、本作でプレイヤーが操作するのは、ひとりではないのです。

最初の主人公である若者の旅を終えたあと、プレイヤーは次に操作する新たな主人公を選択することとなります。その若者の旅が終わったら、また次の主人公を選択。このサイクルを、3か月後の選挙の日を迎えるときまで繰り返していく、というのが本作のシステムとなっているため、プレイヤーは複数人の「若者“たち”」を操作することになる、というわけなのです。

旅が物語の中心となっている、いわばロードムービー的な内容の本作ですが、そこにこの「主人公が毎回変わる」というシステムが加わることによって、1本の大作映画というよりも、オムニバス形式の群像劇のような構成が楽しめる作品になっています。

 

 

主人公たちの詳細な情報が明かされない点も、本作の大きな特徴です。アドベンチャーゲームとしてはかなり珍しいケースであるように思いますが、本作の主人公たちには名前がありません。さらに、1人称視点のため、顔や髪型、背格好などの身体的特徴についてもプレイヤーにはわかりません。このように、文字通り「名もなき若者」が主人公となっているため、1人称視点もあいまって物語への没入感が非常に高く、自分が映画の主人公となって旅をしている感覚でプレイできるのが本作の魅力だと言えるでしょう。

 

 

さて、ここで、先述の「自動生成要素」について話を戻しましょう。本作には複数人の主人公が登場すると書きましたが、この主人公たちの出自や、初期地点から国境までの距離、旅をするルート、スタート時の所持金や体力などが、すべて自動生成によってランダムに決定されるシステムとなっています。

本作においてお金と体力は、非常に重要なステータスです。お金は、飲食などで体力回復や、バスやタクシーなどの交通機関を利用するために必要であり、いっぽう、体力は旅を続けるためには必要不可欠。これらの初期値がランダムで決まるため、持ち金ゼロからのハードな旅になったり、はたまたお金をしっかり持った状態での旅になったりと、主人公によって旅の難易度が大きく変わるのも本作の特徴です。

もちろん、体力の回復やお金の入手は旅の途中でも行えますが、それらのチャンスが訪れるかどうかもランダム。体力の消耗を抑えるためにバスやタクシーを利用するのか、それともお金を節約するためにヒッチハイクや徒歩で移動するのか、……。体力とお金に目を配りながらフィールドを探索し、重大な決断を下していくこのヒリつくようなプレイ感覚は、サバイバルゲームに近いものがあると言えるかもしれません。

 

 

主人公の初期ステータスや開始条件などが変わっても、毎回同じストーリーを体験するのであれば、2回目以降の旅路は退屈で作業的なプレイになってしまうでしょう。しかし、なんと本作には、ストーリーの構成部分についても自動生成要素が組み込まれているのです。

「Road 96」は、あらかじめ用意されている膨大な数のイベントが、場所や時間を変えてランダムな順序で発生する仕組みになっています。順序だけではなく、発生するかしないか自体もランダムなので、1度のプレイですべてのイベントを見ることはできません。ずばり、これこそが、本作が成し遂げた「アドベンチャーゲーム」と「自動生成要素」の融合。これにより、遊ぶたびにまったく異なる旅を楽しめるため、飽きることなく何度もプレイができる作品となっています。

 

 

名前や容姿もわからず、出自や旅路もバラバラな主人公たちですが、「Road 96へたどり着き、国外へ脱出すること」という目標だけは唯一、共通しています。
一般的なゲームであれば、目標を達成できなかった場合はゲームオーバーですが、本作では目標を達成できなくてもゲーム自体が終了となるわけではなく、その主人公の旅が終了となって、時が流れ、新たな次の主人公でのプレイが始まります。「脱出に成功した若者もいれば、失敗した若者もいる」「Road 96へたどり着けなかった若者もいれば、脱出目前で逮捕されてしまった若者もいる」というように、すべての主人公の物語が積み重なっていき、ペトリアという国家で起きている大きな社会現象が浮き彫りになっていく、というのが本作の構造のユニークなポイントなのです。そういった意味では、本作の真の主人公は、プレイヤーが操作する若者たちではなく、若者たちの行動と選択によって少しずつ変化していく“ペトリアという国そのもの”であると言えるのかもしれません。

 

 

旅を彩る個性豊かなキャラクターたちを紹介! 家出少女、警官、ニュースキャスター、そして覆面犯罪者コンビ!?


本作の真の主人公は舞台であるペトリアそのものかもしれない、と書きましたが、本作にはもうひとつ、主人公と呼べる存在があります。それは、旅の途中で出会う個性豊かなキャラクターたちです。
本作には、6人+2人組の、合わせて7組のサブキャラクターたちが登場します。年齢、性別、職業、そして国の現状に対する思わくもそれぞれ違うキャラクターたちと旅の途中で出会い、交流し、彼らのエピソードに触れていくことが、本作の醍醐味のひとつとなっています。

 

 

先述のとおり、本作のイベントには自動生成要素が生かされており、イベントが発生する順番や発生の有無はランダムとなっています。つまり、旅の途中で、どのキャラクターにどの順番で出会うか、または出会わないか、というのもランダムということです。旅の出会いは一期一会と言いますが、キャラクターとの出会いにランダム要素が加わることによって、本作はまさに「旅の一期一会」を体感できるようなシステムになっています。

さらに、こちらも先述のとおりですが、本作は主人公が次々に変わっていくシステムが採用されています。同じキャラクターとの交流でも、最初の主人公と2番目の主人公では展開されるエピソードが異なるため、プレイヤーは1回のプレイを通して、キャラクターたちのさまざまな面を見ていくこととなります。

こうして、繰り返される旅の中でキャラクターに関する情報が積み重なっていくことにより、キャラクターがどんどん立体的に描かれていくというのが本作のポイント。プレイをすればするほどキャラクターを深く知ることができるため、繰り返しプレイをするモチベーションが自然と生まれる仕組みになっています。

 

 

それではここからは、登場する7組のキャラクターの中から、筆者が特に印象に残ったキャラクターたちをピックアップしてご紹介していきましょう。

まずは、ゾーイ。彼女はペトリアから脱出するために夏の初めに家を出たという家出少女。国外への脱出という目的や、若者という年齢感が主人公と一致しているため、プレイヤーとしては一番感情移入しやすいキャラクターかもしれません。ちなみに筆者がプレイした時には、ゾーイと出会った際に、彼女に誘われてトランペットを吹くという音ゲー風のミニゲームが発生しました。空に星が輝く夜のトレーラーパークでたき火を囲み、下手なトランペットの演奏に2人で笑い転げるというこの場面は、まるで青春映画のワンシーンのようなエモさがあり、とても印象的でした。

 

 

次に、ソーニャ。彼女は、ゲームをプレイする中でたびたび目にすることになる、ニュースショーのキャスターです。正確かつ公正というのが現実世界における報道倫理の基本ですが、「Road 96」の世界でソーニャが送るニュースショーでは、特定の世論や意識へと誘導する意図を持った、いわゆるプロパガンダ放送が行われています。そんな彼女は、豪華なリムジンで移動する超セレブ。本作でも屈指の濃い存在であるソーニャと過ごす時間は、濃厚で忘れられないものになることは間違いありません。

 

 

続いて紹介するのは、スタンとミッチの2人組。見るからにあやしげな目出し帽をかぶった彼らは、その見た目どおり(?)犯罪を生業とする、ならず者コンビです。ペトリアからの脱出を目指す主人公やゾーイとは違い、スタンとミッチは盗みで生きていけるこの国を、自分たちにとってよい場所だと思っている様子。そんな彼らは、ソーニャの暗殺をもくろむ何者かからソーニャを守るために奮闘しているという裏の一面を持っています。犯罪者ということで底知れない怖さが漂うスタンとミッチですが、彼らの会話はどこか陽気でコミカル。超個性的な彼らと過ごす独特のひとときは、主人公の旅路の大きなアクセントになることでしょう。ちなみに筆者は、彼らと出会った際、彼らの運転するバイクのサイドカーに乗って、車線を左右に移動しつつほかの車を避けるというスリリングなミニゲームを体験しました。これまでの旅路のムードとはまったく異なるスピーディーでハイテンションなミニゲームは、本気で手に汗を握りましたよ……!

 

 

そしてもうひとり、筆者が紹介しておきたいのが、ファニーという女性。彼女の職業は、ずばり警官です。ペトリアでは国外への脱出は違法行為に当たるため、主人公にとって警官は最も注意すべき、いわば宿敵とも呼べる存在。そんなファニーと遭遇し、繰り広げられるイベントは、本作の世界観をより深く濃密なものにしています。

 

 

ゾーイやスタン&ミッチの紹介でチラッと書きましたが、本作ではキャラクターとのイベントの際に、ミニゲームが発生することがあります。音ゲー風のもの、レースゲーム風のものなど、そのバリエーションとボリュームはかなり豊富。

また、キャラクターと交流する中で、旅に役立つスキルを習得できるという成長要素的なものも存在します。いちど習得したスキルは、主人公が変わっても引き継がれるため、攻略の助けになるだけではなく、一種のやりこみ要素としても機能しています。

これらの、ミニゲームやスキルといったいわゆるゲームらしい要素が、本作の遊びごたえをさらに充実させているように筆者は感じました。

 

 

「Road 96」で、映画のような極上のゲーム体験を!

というわけで、「Road 96」をご紹介しました。

 

独裁政治国家からの逃亡を目指すという重厚な設定と、それぞれに思わくを持った個性豊かなキャラクターたちが織り成す物語が重なり合い、まさに“映画のようなゲーム体験”が味わえる本作。自動生成機能によって先が読めない展開が繰り広げられるため、常にワクワクしっぱなしのスリリングなゲーム体験が楽しめました。

気になる方はぜひ実際にプレイして、Road 96を目指す旅を体験してみてください。

 

 

  • タイトル情報
  • 「Road 96」(Koch Media)
  • ジャンル:アドベンチャー
  • PS4版 2022年6月16日発売
  • 価格:
  • パッケージ版:PlayStaton4 3,828円(税込)
  • ダウンロード版:
  • ・PlayStation4、PlayStation5、Xbox One、Xbox Series X:2,480円(税込)
  • ・Nintendo Switch、PC(Steam、Epic Games Store):2,196円(税込)
  • コピーライト:(C)2021 Koch Media
筆者:百壁ネロ
ゲーム買いすぎちゃう系フリーライター。現在積みゲー300本以上。小説家でもあります。著作は「ゆびさき怪談 一四〇字の怖い話」(PHP研究所)、「ごあけん アンレイテッド・エディション」(講談社)など。
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