【2012年春アニメ】今年で10周年「AKB0048」「坂道のアポロン」「ニャル子さん」「氷菓」を、徹底レビュー!【アニメ10年ひとむかし!】

2022年06月01日 12:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品が既に放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。今回はそんな10年前の冬クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

 

AKB0048


AKB48からスタートした大人数アイドルは、アニメやコミックの世界にも大きな影響を及ぼしていますが、ひとつの頂点とも言えるのが「AKB0048(エーケービー・ゼロゼロフォーティーエイト)」でしょう。

本作の舞台は、人類が地球外へ脱出した星暦0048年。この芸能が禁止された世界で人々に夢を送るのが非合法アイドル「AKB0048」です。各地からオーディションで集められた少女たちは研究生となり、一軍である襲名メンバーを目指します。襲名メンバーとは、旧時代に活躍した伝説のアイドルグループ「AKB48」の名を受け継ぐ者たち。芸能禁止の時代だけに、生半可な覚悟では務まりません。激しいレッスンや訓練に耐え抜き、心に「襲名の光」を持つ者のみが襲名メンバー、そして全ての曲のセンターを務める「超神聖センターノヴァ」になれるのです。

 

テロリストとみなされる非合法アイドル「AKB0048」が芸能を弾圧する特殊部隊と戦ってライブを届けに行くというコンセプトは、破天荒なようでいて、平成の時代におけるアイドルとリンクします。世はアイドルグループ戦国時代であり、戦って自分たちの魅力を届けないと生き残れないのです。

AKB48グループはメンバー個人の卒業や再編で変動し続けるグループですが、本作ではその名前が襲名制によって遠い未来にまで受け継がれます。「長い時が流れ去った後に、AKBはどうなるの? 自分たちの思いはいつか消えてしまうの?」というファンの疑問に答える、夢あるファンタジーと言えるでしょう。

 

本作の監督を手がけるのは「超時空要塞マクロス」シリーズで知られる河森正治氏。「歌とバトル」というテーマはそのままに、本作では凪沙と恵理という2人の研究生が成長していく姿と、人形兵器「AKB0048ライブスーツ」による激しいバトルが描かれます。戦艦「カチューシャ」で敵の防衛網を突破、衛星軌道から可変強襲ステージ艦「フライングゲット」で突入してゲリラライブを行う。歌とバトル、接点がなさそうな2つのテーマをSFで繋げるパワフルな発想には、河森イズムの真髄が見られるのです。

 

本作のメインキャストは、AKB48グループ200人から審査とオーディションを受けて選出された9人が務めており、この辺りも大人数アイドルの面白さといえるでしょう。コミック作品は、男性向けの「マガジンSPECIAL」「別冊少年マガジン」に加え、当時は女子高生中心の読者層を持つ「別冊フレンド」や、小中学生女子を対象とした「なかよし」でも展開。男女問わず幅広い層から支持されるAKB関連作品ならではの現象なのです。



坂道のアポロン


高品質の作品で知られるフジテレビの「ノイタミナ」枠、その第34回作品が、小玉ユキ氏の同名コミックをアニメ化した「坂道のアポロン」でした。1960年代の佐世保で、繊細な少年・薫とバンカラな千太郎という正反対な2人がジャズを通して絆を深め合う、青春群像劇です。

 

原作は「このマンガがすごい! 2009」オンナ編で1位に選ばれる人気作。それだけに、アニメ版のスタッフが誰になるのかが注目されましたが、「カウボーイ・ビバップ」の渡辺信一郎氏が監督、同作の楽曲を手がけた菅野よう子氏が音楽制作として起用されることに。「カウボーイ・ビバップ」といえば情感あふれる物語とジャズのオープニング曲でアニメ界に強いインパクトを与えた名作。青春アニメであると同時に音楽アニメとしての側面も持つ「坂道のアポロン」にはこれ以上ない人材が揃ったというわけです。

 

「坂道のアポロン」ではユニークな取り組みが行われました。それは演奏シーンにおけるミュージシャンの積極的な起用と、これを映像に生かす取り組みです。ピアノを弾く薫の演奏は、17歳でメジャーデビューし、18歳で「報道ステーション」のオープニング曲を手がけたピアニストの松永貴志氏が担当。そして千太郎のドラムは、ドラマーの石若駿氏が演奏に加えてモーションも提供。千太郎が兄とも慕う淳一は、歌唱をシンガー・ソングライターの古川昌義氏が、演奏はトランペット奏者の類家心平氏がそれぞれ担当。単に歌唱や演奏の音源を用いるだけでなく、実際にセッションを行ったものを10台のカメラで撮影し、この映像から演奏シーンを作っています。

 

演奏やライブのシーンは日常シーンよりも作画に手間がかかるため、近年のアニメでは積極的に3DCGが導入されています。

しかし、本作では手描きによる演奏シーンが毎回入るのです。前述の様に実際にセッションを行った映像が基になっているため、演奏シーンはリアルかつ迫力満点。物語に合わせる形で演奏をわずかにミスしたり、お互いに合わせていったり、感情をぶつけ合うかのような激しい演奏をするといった表現も行われており、真正面から音楽に向き合ったアニメと言えます。2012年には松永氏と石若氏によるライブも行われており、現在のアイドル系アニメにおける“中の人”ライブにも通じるところがあるのです。

 

這いよれ! ニャル子さん


「うー!にゃー!」というハイテンションなフレーズを覚えている方も多いのではないでしょうか。逢空万太氏の同名ライトノベルがアニメ化された、公称「ハイテンション混沌コメディ」です。

平凡な高校生・真尋(まひろ)は、ある日怪物に襲われてしまいますが、邪神ニャルラトホテプを名乗る美少女・ニャル子に助けられます。ニャル子は真尋を守るためにやってきた宇宙人であり、惑星保護機構のエージェント。そしてニャル子は真尋の家に棲み着き、幼なじみであるクー子、同級生のハス太といった宇宙人たちとともに騒動を巻き起こすのです。

 

本作に登場するキャラクターたちは、クトゥルー神話をベースにしています。クトゥルー神話とは、人間にはあらがいようのない絶対的な存在、姿を見るだけで発狂してしまう「旧支配者」やその眷属たちを描くホラー。20世紀初頭に活動した作家であるH・P・ラヴクラフト氏が創造した神話であり、現在でもさまざまな作家によって創作が続けられています。

とてもコメディにふさわしいセレクションとは思えないのですが、これを美少女・美少年に翻案するのが本作の面白さ。たとえばニャル子は邪神ニャルラトホテプ自身であり、無数の顕現形態を持つ様は変身能力として生かされています。そして、クー子はニャルラトホテプに敵対する炎の神・クトゥグアがベース。「クトゥグアが、ニャルラトホテプの住みかであるンガイの森を焼き尽くす」というクトゥルー神話の短編「闇に棲みつくもの」の設定が、「這いよれ! ニャル子さん」には反映されています。つまり、「這いよれ! ニャル子さん」は、クトゥルー神話をテーマとした擬人化ものとしての側面も持つわけです。

 

確固たるバックグラウンドを持つ事物が美少女・美少年となり、受け手は作品を楽しむとともに、テーマとなった事物への理解を深められる……というのが擬人化ものの面白さ。本作の放送時にはクトゥルー神話への関心も高まり、書店で特集が組まれたり、元ネタを解説する動画が作られたりもしています。こうして知識を手に入れることで、元のクトゥルー神話に触れたり、アニメ・ゲーム・小説におけるクトゥルー神話ネタを理解できるようになるなど、守備範囲が広がっていくのがオタク活動における楽しさのひとつなのです。

 

また、ニャル子たちがオタクとして描かれているのも注目すべき点。こうしたオタクによるオタクの自己肯定は2000年代以降のオタク創作における特徴的な事象であり、現在のオタク界が持つある種の明るさを象徴しているとも言えるでしょう。

 

氷菓


米澤穂信氏によるミステリー小説のアニメ化。

ミステリーといっても、殺人や大事件が起こるわけではなく、日常における小さな謎を解き明かしていくという内容。主人公たちは廃部寸前となっている古典部に集った高校生であり、いわば等身大のミステリーです。「省エネ主義」を主張する主人公の奉太郎、「わたし、気になります!」を口癖とする好奇心旺盛な美少女・える、あらゆる知識を集める奉太郎の親友・里志、奉太郎とは腐れ縁の摩耶花……というように古典部の部員たちも感情移入しやすい等身大の高校生であり、どこかにいそうでいない理想のクラスメイトたち。学園もの、青春ものとしての側面も強いというわけです。

ライトノベル的な側面が強いのは意図的で、当時の米澤氏がミステリー&ライトノベルが最前線であると感じたことによるものとのこと。こうした「等身大感」をたくみに表現するのは、作画に定評のある京都アニメーション。ていねいに描かれた学校や地元の風景が、社会人視聴者にはノスタルジーを、学生視聴者には感情移入を喚起するのです。

 

米澤氏はかつてネットで小説サイトを運営しており、「氷菓」もここで発表された作品のひとつ。サイトで好評を得たことから角川学園小説大賞へ応募し、ヤングミステリー&ホラー部門の奨励賞を受賞して作家デビューを飾りました。現在は小説投稿サイトで人気の作品がアニメ化やコミック化されていますが、「氷菓」の例とあわせて、創作において第三者の目線がいかに大事であるかがわかるのです。

(文/箭本進一)

画像一覧

関連作品

AKB0048(エーケービーゼロゼロフォーティーエイト)

AKB0048(エーケービーゼロゼロフォーティーエイト)

放送日: 2012年4月29日~2012年7月22日   制作会社: サテライト
キャスト: 渡辺麻友、仲谷明香、佐藤亜美菜、石田晴香、矢神久美、佐藤すみれ、秦佐和子、三田麻央、岩田華怜、沢城みゆき、神田朱未、堀江由衣、田村ゆかり、能登麻美子、白石涼子、植田佳奈、中原麻衣、川澄綾子、かかずゆみ
(C) サテライト/AKB0048製作委員会

坂道のアポロン

坂道のアポロン

放送日: 2012年4月12日~2012年6月28日   制作会社: 手塚プロダクション/MAPPA
キャスト: 木村良平、細谷佳正、南里侑香、遠藤綾、諏訪部順一、北島善紀、岡本信彦、村瀬歩、佐藤亜美菜、鈴村健一、櫻井孝宏
(C) 小玉ユキ・小学館/「坂道のアポロン」製作委員会

這いよれ! ニャル子さん

這いよれ! ニャル子さん

放送日: 2012年4月9日~2012年6月25日   制作会社: ジーベック
キャスト: 阿澄佳奈、喜多村英梨、松来未祐、釘宮理恵、新井里美、國府田マリ子、久川綾、羽多野渉、大坪由佳、草尾毅、島田敏
(C) 逢空万太・ソフトバンク クリエイティブ/名状しがたい製作委員会のようなもの

氷菓

氷菓

放送日: 2012年4月22日~2012年9月16日   制作会社: 京都アニメーション
キャスト: 中村悠一、佐藤聡美、阪口大助、茅野愛衣、ゆきのさつき、置鮎龍太郎、ゆかな、小山茉美、早見沙織、悠木碧、川原慶久、浅野真澄、豊崎愛生、小倉唯、阿部敦、伊瀬茉莉也、入野自由、小清水亜美、広橋涼、秦勇気、山崎たくみ、小西克幸、こぶしのぶゆき、日笠陽子、伊藤かな恵、升望、近藤孝行、森川智之、進藤尚美、茅原実里、寺島拓篤、竹達彩奈、寿美菜子、福山潤、杉田智和、谷山紀章、杉山紀彰、平川大輔、吉野裕行、石塚運昇、永井一郎、西村知道、二又一成、田中正彦、千葉繁、諏訪部順一
(C) 米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。