プロデューサー・植田益朗 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第54回)

2022年05月03日 10:000

「シティーハンター」でサンライズ幹部、アニプレックスにも参画


─キャリア上、転機になったお仕事は?


植田 それはやっぱり、「シティーハンター」です。作品が始まって1年ぐらいで取締役兼プロデューサー、そして数年後、常務取締役に昇進させてもらいましたから。当時はまだ33歳になったばかりでした。作品づくりでいろいろ挑戦させていただき、会社からは売り上げ数字でも評価され、業界内からサンライズは「ロボットもの」だけでないと評判も得ましたから、「シティーハンター」は、自分の中でとても大切な作品なんです。


─30代前半で取締役とは、スピード出世ですね! 


植田 「シティーハンター人事」と言われました(笑)。出世だけは早いんですよ。周りからも、「その年でよく取締役になれたね。サンライズはすごい英断をしたね」と言われました。


─サンライズを辞めた理由をうかがってもよろしいでしょうか?


植田 「平成ガンダム」をやりながら、どこかで「ガンダム」に対して自分なりの結論を出そうと考えていて、「20年サンライズで楽しくやってきたけど、そろそろ次のステージに挑戦するか」、「一度フリーランスになって、サンライズの看板なしで自分に何ができるか?」と思うようになりました。それで悩んだ末、2000年にサンライズを退社して、フリーで3年ぐらいやってみたんですけど、「やっぱり日本では想像以上に会社の看板は大きいな……」ということを体感し、そんな時にある人を介してアニプレックスの竹内成和社長と夏目公一朗取締役にお声がけをいただいて、アニプレックスのリスタートに制作統括として参画することになりました。


─それから2005年には、制作会社A-1 Picturesの立ち上げにも関わり、2010年には同社代表、2014年にはアニプレックスの代表も務められました。


植田 アニプレックスの代表にまさかなるとは思っていなかったのですが、「現場のことを理解している人間がメーカーの社長になれば、いいこともあるんじゃないですか?」と言われて、2016年までやらせていただきました。

 

日本のアニメ業界は、「取り返しのつかないシビアな方向」に行くかもしれない


─アニメプロデューサーに必要な資質能力とは何でしょうか?


植田 いろんなものを取り込めるキャパシティというか、「柔軟性」ですかね。それと、自分には少し足りないと思っているんですけど、「決断力」もですね。


─現在のアニメ業界について、何か思うことがございますか? 植田さんはご自身のHPで「マスホガドクトリン」というものを発表されていますが、ここからは非常に強い危機感を感じます。


植田 今の日本のアニメ業界は、「相当ヤバイ」と思っています。これは時代の問題というよりも、日本そのものが持っている、ある種の空気に引っ張られている結果なのかもしれないんですけど、アニメづくりに関わる人も、アニメを観てくださるお客さんも、みんながドンドンドンドン、内向きになっている気がするんです。アニメはエンターテインメントなので、ポジティブに生きられる、楽しくてワクワクする作品がもっと出てきていいと思うし、作品に関わるスタッフ・キャストの待遇面もよくならないと、新しい才能が出てこなくなっちゃうんじゃないかと思っています。この負のスパイラルを早くどうにかしないと、日本のアニメ業界は「取り返しのつかないシビアな方向」にまで行っちゃうと思います。

 

「スカイフォール」だからこそ実現する「クリエイター特区」と「構想20年企画」


─今後挑戦したいことは? 2018年9月には渡辺繁さんとともに、新会社「スカイフォール」を始められました。


植田 多くの方のご協力を得て、設立させていただきました。社名の「スカイフォール」には、「どんな時も強い意志を持ち続ける」という意味をこめています。アニメの企画・プロデュースをする会社ではありますが、それ以外のこともやって行きたいと思っています。スタジオの代表ではできないこととか、会社の枠を超えてできることとか、今の自分がやるべきことなどをやるために、ひとつの場所として作ったのが「スカイフォール」です。最近は、「アニメとアニメ以外の業界・要素を、どうやって融合しケミストリー・化学反応を起こしていくか」ということを考えることが多くなっていますね。周りには猛反対もされましたが、2019年5月には世界的インダストリアルデザイナーのシド・ミ―ドさんの展覧会「SYD MEAD PROGRESSIONS TYO 2019」をプロデュースさせていただき、結果的にはたくさんのお客さんに来ていただきました。


─昨年からクラウドファンディングのサロン機能を使って、「アニメプロデューサー塾」も始められましたね。


植田 「マスホガドクトリン」じゃないですけど、今は作品づくりも大事ですが、アニメ業界のイメージアップであったり、作品をつくる環境改善への提言であったり、そういったことやっていかなきゃいけないなと思っています。それとは別に2022年は、「20年来温めてきた企画」(笑)もやり始めようと思っていますので、今後のメディア発表を楽しみにしていただければと思います。


また、スカイフォールのメイン事業とは別に、この5月27日から日本橋で始まる三井不動産の創立80周年記念事業、「未来特区プロジェクト」の中の「クリエイター特区」のコーディネーターもさせていただきました。このプロジェクトは、リアルとバーチャルのギャラリーからなるクリエイター特区上に、クリエイター10名が、オリジナルの描き下ろしデジタルアート作品を展示するイベントです。アニメ業界からは「MEMORIES」(1995)の森本晃司さん、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(2021)の美樹本晴彦さん、「交響詩篇エウレカセブン」(2005~06)の吉田健一さん、「PUPARIA」(2020)の玉川真吾さん、イラスト業界からは「宇宙戦艦ヤマト2199」の加藤直之さん、「ゴジラジェネレーション」の開田裕治さん、「超時空要塞マクロス」の天神英貴さん、ゲーム業界からは「ファイナルファンタジーXIII」の上國料勇さん、「ドラゴンクエストX」の富安健一郎さんという、それぞれの業界を代表する9名が一堂に会する、まさにドリームプロジェクトです。さらに、このギャラリー展示作品はNFT(編注:Non-Fungible Token、デジタルコンテンツの複製を防ぐ仕組み)でも販売されるという、今最先端を走っているプロジェクトでもあるんです。全力で協力させていただきましたので、こちらもぜひご注目ください!


─最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いいたします!


植田 アニメ業界は、ファンのみなさんのご支援があってこその業界です。ですから、ぜひみなさんのお力もお借りして、アニメ業界がよくなる方向にしていければと思っています。僕もできる限りのことをやっていきますので、どうか今後も、日本のアニメをよろしくお願いいたします!

 

 


●植田益朗 プロフィール
プロデューサー。株式会社スカイフォール代表取締役。東京都出身。日本大学芸術学部映画学科を卒業後、株式会社日本サンライズ(現:株式会社バンダイナムコフィルムワークス)に入社。劇場アニメ「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編」(1982)でプロデューサーデビューを果たし、その後も「銀河漂流バイファム」(1983~84)や「蒼き流星SPTレイズナー」(1985~86)といった、意欲作を次々と発表。「シティーハンター」シリーズ(1987~89)はロングランヒットを遂げ、33歳の若さで常務取締役に昇進。サンライズ退職後は、フリーを経て株式会社アニプレックス、株式会社A-1 Picturesの代表を歴任。代表作は「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(1991~92)、「機動戦士Vガンダム」(1993~94)、「機動武闘伝Gガンダム」(1994~95)、「新機動戦記ガンダムW」(1995~96)、「機動新世紀ガンダムX」(1996)、「星界の紋章」(1999)、「∀ガンダム」(1999~2000)、「犬夜叉」(2000~04)、「カウボーイビバップ 天国の扉」(2001)、「FLAG」(2006~07)、「黒執事」(2008~09)、「魔法少女まどか☆マギカ」(2011)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011)、「青の祓魔師」(2011)、「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%」(2011)、「WORKING'!!」(2011)、「ソードアート・オンライン」(2012)、「アルドノア・ゼロ」(2014~15)、「冴えない彼女の育てかた」(2015)など多数。過去の名声に決してあぐらをかくことなく、強い意志を持って新しい挑戦を続ける、“フォーマット破り”のアニメプロデューサーである。


●株式会社スカイフォール プロフィール
植田さんと渡辺繁さんが2018年3月に設立した、コンテンツの企画・プロデュース・製作会社。企業理念は「前例主義を排し」、「蛮勇と計算の調和」、「予算即決算」。アニメのプロデュースだけではなく、アニメ業界の環境づくりや後進育成、文化継承を目的とした事業なども行っている。2019年には「∀ガンダム」のメカデザイナーであったシド・ミードさんの展覧会「SYD MEAD PROGRESSIONS TYO」を開催し、2021年には「植田益朗のアニメプロデューサー塾」も開講。2022年には、三井不動産の創立80周年記念事業「未来特区プロジェクト」や「構想20年企画」も予定されている。


※植田益朗 ツイッター
https://twitter.com/mastin55

※株式会社スカイフォール 公式HP
https://skyfall.me/

※「植田益朗のマスマスホガラカ」 公式HP
https://masuhoga.jp/

※会員制サロン「植田益朗のアニメプロデューサー塾 ~ヒットアニメの作り方教えます!~」
https://community.camp-fire.jp/projects/view/63492

※「クリエイター特区」参加アーティスト(三井不動産・創立80周年記念事業「未来特区プロジェクト」)
https://www.mindcreators.jp/creatorzone2022/


(取材・文:crepuscular)

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