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劇伴はまず、主人公たちの日常曲から作っていきました
── 劇伴の作曲はメインテーマから始めていったのでしょうか? 藤澤 いえ、実は違うんです。メインテーマはアレンジしたバージョンを含めて5パターン書かなければいけなかったので、ここから手を付けたら、劇伴全体がこの曲に引っ張られてしまうかもしれないし、「逃げる」というテーマをどう曲にするかも難しかったので、まずは劇伴の外堀を埋めていこうと思いました。どの曲から手をつけたか記憶は曖昧なんですけど、日常場面で使う女の子らしい曲から書き始めていきました。
── 学校のシーンも多いですし、作品を明るくするうえでも、かわいい曲は必要ですよね。 藤澤 そうですね。ただ、今回は木管楽器は使わないようにしようと思ったんです。木管が入ると、曲がやわらかくなりすぎるというか、生々しくなりすぎるような気がして。
── 生々しく、ですか? 藤澤 僕の感覚的なものでしかないんですけど、「エスタブライフ グレイトエスケープ」は3DCGの作品で、映像との親和性を考えると木管を入れないほうが合うと思ったんです。絵の温度感と音楽の温度感のバランスをちょうどいいところに持っていければいいかなと。それから、近未来SFであるということも意識して、ストリングスのカルテットとピアノで作っていきました。逆にジャズっぽい曲ではしなやかさを出すためにフルートを入れています。こちらはブラスだけで行くと、女の子らしさが欠けてしまうと思ったんです。
── 日常描写で使われるかわいい曲、やわらかな曲では女性スキャットも効果的に使われていました。レトロなおしゃれ感があって、「エスタブライフ グレイトエスケープ」の劇伴のひとつの特徴になっていますね。 藤澤 これは僕のクセみたいなもので、日常曲を作ろうとすると、どうしてもフランス映画風になっちゃうんです。これは自己分析しなければと思っているところなんですけど、音楽を作り始める前から、日常的な風景の音楽というのはフランス映画で見たあの感じ、というイメージができ上がっていたみたいで。スキャットを使うと息づかいが伝わってくるので、それはそれでいいのかなと思いました。橋本監督と以前ご一緒した「スロウスタート」(2018年地上波放送)でも、スキャットを多用しているんです。
── 「スロウスタート」はいわゆる「きらら」作品で、女の子の日常系アニメでした。 藤澤 そちらでは木管も使って、よりやわらかい劇伴になっていました。でも、「エスタブライフ グレイトエスケープ」も、主人公たちが逃がし屋でなければ、のんびりとした学園生活を送っていたと思うんです。だから、彼女たちの学生としての日常と逃がし屋としての仕事で、音楽をがらりと切り替えてあげたほうがいいかなと思いました。
── 日常生活の場でありながら、逃がし屋としての本拠地となっているのが、喫茶店「ボストーク」です。劇伴にはボストークにつけた曲もありますね。 藤澤 山口さんのメニューでは、ボサノバっぽい曲というオーダーでしたが、これもフレンチになってしまいました(笑)。映像音楽としての使われ方を考えに入れて、僕なりに店の音楽を作ってみたら、こうなったという曲ですね。