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「The Ultimate Price」は、原曲から一番イメージが変わった曲です(酒井)
── では、いくつか曲をあげて、より具体的にお話をうかがいたいと思います。先ほども挙がった「Theme of Violet Evergarden」。Disc-1のトップを飾る、タイトル通り「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のメインテーマです。 酒井 静かなところから幕が開け、だんだん盛り上がっていく曲で、アルバムの1曲目になるだろうと思っていたので、始まりの雰囲気を大切にアレンジしました。後半のタタタンタタタンと細かいリズムを奏でるところは、ピアノだと右手と左手でやらなければいけないことがたくさんあって、演奏が難しいんですよね。でも、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の世界に入りこんでいくワクワク感が表現されている楽曲なので、簡単なアレンジにはしたくないなと思いました。バイオリンがメロディを奏で、パートを分担できていたのでピアノは弾きやすかったんですけど、今回は難しくなってしまったので、佐藤さんにたくさん練習していただきました(笑)。
エバン 私が気になっていたのは、イントロがどういう雰囲気になるのかな、ということでした。オーケストラのコンサートではグロッケン(鉄琴の一種)に演奏してもらっているんですけど、神秘的な音が後ろに薄く入っていて、そのエッセンスをピアノでどう表現してもらえるんだろうと思っていたんです。酒井さんのアレンジでは、前に出てくる音とは違うリズムでグロッケンを表現するような音が入っていて、夢を見ているような、雲に乗って浮いているような雰囲気があってステキだなと思いました。
酒井 ありがとうございます(笑)。
エバン イントロからメインのフレーズにつながるところも、高い音から少しずつ下がってきて、非常に滑らかで。そこから先は私からは何もいうことはない、すばらしいアレンジになっていました。
酒井 エバンさんは、こだわりのポイントを曲ごとにすべて教えてくださったので、私はそれを生かして、あとは佐藤さんの演奏にゆだねるという感じでした。
── 酒井さんの中で印象に残っている曲といえば、どれになるでしょうか? 酒井 「The Birth of a Legend」(Disc-1の20曲目)は、原曲と同じように曲の最後にタイプライターの音を入れたんです。タイプライターの音が使われている曲はほかにもあったんですけど、それをピアノでやってみようと思って、ピアノの蓋をノックするという奏法を曲の終わりに入れてみました。それから、アレンジの面白さを感じたのは、「The Ultimate Price」(Disc-1の6曲目)です。同じメロディが何回も繰り返されることによって、感情が高まっていく曲だったので、私も徐々に動きをつけていって、最後はピアノ全体を鳴らすようなダイナミックなところまで持っていこうと思いました。激しめのパッセージを入れてみたら、エバンさんから「面白いですね」というお返事があって。さらに技巧的なフレーズを入れてもいいんじゃないかということだったので、細かいピアノの動きによって、元のオーケストラにはない音を入れてみました。全体的にメロディの力を発展させていったアレンジになっていて、原曲から一番イメージが変わった曲だと思います。その分、この曲も佐藤さんに大変な思いをさせてしまいました(笑)。
エバン 私では絶対に思いつかないことをやっていただいて、すごくうれしかったです。この曲も何度かやり取りがあって、酒井さんから最初に送られてきたアレンジからして、すばらしい出来だったんですけど、この曲は雰囲気を大きく変えてもいいかなと思ったんですね。もともと情熱的な曲で、オーケストラで演奏するとどんどん厚みが出てくる展開になっていたので、ピアノ1台で同じことをやってもオーケストラほどの厚みとかダイナミックレンジは出るはずがないんです。それで別のアプローチをしたほうがいいと思って、酒井さんにそうお伝えしました。再度、確認のために送られてきた新しいアレンジは、私には右手と左手がどう動いているのかわからないハイレベルな演奏になっていて(笑)、これはかっこいい!と。
── お2人して、どんどん曲を技巧的にしていったという感じですね。 エバン 酒井さんはそれをさらに発展させて、修正したかった箇所を2つのバージョンを次に送ってきてくださったんです。それで、どちらがいいか、私が選ばせてもらって。そこまで作り込んでくださったのがうれしかったです。
酒井 「こういうアプローチもできますし、別のこういうアプローチもありだなと思っています」と複数のアレンジを作って、エバンさんに選んでいただいたのは、この曲だけでなくほかにもいくつかあります。
── 原曲とは違った雰囲気になっていった曲は、ほかにもありますか? 酒井 「The Voice in My Heart」(Disc-2の10曲目)は、原曲がオーボエやバイオリンのメロディと、軽やかな三拍子の伴奏からできている曲で、メロディと伴奏の音域が同じところにあるので、そのままピアノにアレンジすると軽やかさが消えてしまうんです。なので、思いきって高い音から始めたりして、原曲とは違うアプローチにしました。
エバン 原曲はいろいろな楽器が入っているので、ピッチが同じでも音色が違うことで特別感が出るんですけど、それをピアノだけでやると同じ音になってしまうので、そこをうまく、音があっちこっちに動くような感じにアレンジしてくださいました。ここもピアニストではない自分には思いつかない発想で、ピアノ曲として聴くには面白いアレンジだなと思いました。