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原曲の雰囲気を大事にしつつ、ピアノのよさを出すことに気を配りました(酒井)
── 昨年11月に、京都アニメーションのファン感謝イベント「KYOANI MUSIC FESTIVAL」(以降、「京アニフェス」と表記)が2日にわたって開催されました。その中に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の劇伴メドレーのコーナーがあって、編曲とピアノ演奏を酒井さんが担当されたんですよね。この段階で、「Though Seasons Change」の制作は、どこまで進んでいたのでしょうか? 酒井 「Though Seasons Change」の編曲に取りかかる前に、まず、京アニフェスの劇伴メドレーを作りました。劇場版の譜面作業のときはメールのやり取りだけだったので、エバンさんにお目にかかる機会がなくて。実は初めて直接ご挨拶できたのは、京アニフェスのリハーサルのときだったんです。
エバン リハーサルの休憩時間に、「Though Seasons Change」のための編曲作業をしてらっしゃいましたよね(笑)。
酒井 はい(笑)。京アニフェスのころに、ちょうどそちらにも手を付け始めて。迷っていたり疑問に思っていたところを、直接エバンさんに聞けたのでよかったです。アレンジしたデモ音源を聴いていただいて、ここはこうしたいという意見をいただいたり、生のピアノに差し替えたら、どんな印象に変わるか話し合ったりしました。
エバン 酒井さんにまずはデモを作っていただいて、この小節はもっとこうしたいとか、メロディにカウンターラインを追加したいとか、自分の希望を伝えました。でも、自分がこうしたいと思っても、ピアノで弾くことが不可能になってしまうこともあって、そこは酒井さんに教えていただきながら、決めていきました。
── 「Though Seasons Change」は2枚組で全44曲というボリュームなんですよね。これは最初から決まっていたことだったんですか? ディレクター 最初はCD 1枚に収めるという話をしていたんです。でも、TVシリーズと外伝と劇場版があって曲数が多いですし、どれもいい曲なので絞れなかったんです。それで2枚組にして、なるべく多くの曲を収録することになりました。
エバン 酒井さんには大量にアレンジしていただくことになりました(笑)。
酒井 そうですね(笑)。
── でも劇伴の全曲ではなく、いくつかはこぼれていったわけですよね。 エバン ピアノに合う曲ということですね。まずディレクターがざっくりと選曲してくれたものを元に、私が最終的な判断をしました。劇伴としてはいい場面に使われていたけれども、ピアノソロにすると魅力が感じられないかと思った曲を外して、ピアノに合った曲を入れたりしたんですが、数にすると3、4曲程度です。そうやって選曲している間にも、酒井さんにはほかのアレンジを進めていただいていました。絶対に外せない曲がいくつかあって、そこから手を着けていただいたという感じです。
酒井 私が一番最初に手を着けたのは、「Theme of Violet Evergarden」や「Across the Violet Sky」といった、京アニフェスの劇伴メドレーに入っていた曲たちです。劇伴の中でも代表的な曲ですし、私も一度アレンジしていたことで、ピアノソロにするならこうしたいというイメージが頭の中にでき上がっていました。
── アレンジは具体的に、どのように進めていったのでしょうか? 酒井 まずオーケストラの楽譜を見ながら原曲を聴いて、それをピアノで弾いてみて、再び原曲を聴いて、やっぱりこのパートも入れようかなと考えて……という感じです。まずは自分が弾いてみて、演奏が可能かどうかを確かめることが大事でした。そうして楽譜に起こして、シンセでデモを作ってエバンさんに聴いていただくという流れです。
── アレンジするうえで、心がけたことはなんですか? 酒井 オーケストラの原曲の雰囲気を大切にすることにこだわりつつも、エバンさんが「ピアノらしさを出して、シンプルにできるところはシンプルにしたい」とおっしゃっていたので、そこに気を配りました。シンプルというのはピアノのひとつのよさだと、私も思ったので。
エバン 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」ファンのみなさんは原曲のエッセンスを求めるはずなので、オーケストラの中のカウンターラインやコード進行はできるだけ守ってほしいと思ったんですけど、それに縛られ過ぎると、単なるリダクション(reduction)になってしまって、もったいないなと思って。原曲の雰囲気を残しつつも、ピアノ曲らしさを出していただけるようお願いしました。