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第9話が盛り上がり過ぎて、気持ちを戻すのが大変でした(笑)
── 第10話から出てくる「テツジン」は、実にラスボス感がありました。 碇谷 テツジンは「もののけ姫」のシシ神をイメージして描こうかということを、最初にみんなで話し合っていた気がします。テツジンの鉄の骨格はただのパーツで、それを覆う錆が本体だというのが僕の解釈です。この世界の錆は現実の錆とは違って、もっと生物的なナノマシンのようなものだと思うんですね。そういう意味では、「風の谷のナウシカ」のマンガのほうに出てくる粘菌に近い存在です。
── 錆は日常的にあるものなので、「錆喰いビスコ」の錆もつい同じものだと考えがちですけど、人を錆びさせることもできますし、集まれば意思を持ったように物を動かすこともできて、現実とはまったく違う何かだということですね。 碇谷 だと思います。第9話に出てきたプールの中の錆が、鉄の骨格にくっついてテツジンが復活したという設定で、そのときにプールの中にいたビスコと黒革も、一部として取り込まれていったんです。
── 第9話の錆のプールは溶鉱炉みたいなものをイメージしてしまって、人体なんてあっという間に焼かれて溶けてしまうじゃないかと思ったんですが、そういう解釈ではないということですね。 碇谷 そうですね。錆のプールは、溶けた鉄とはまったくの別物です。
── 主人公のビスコが飲まれて消えてしまったので、第9話の放送後は視聴者の反応でSNSがざわざわしました。 碇谷 僕も原作を読んだときはびっくりしたんですよね。あ、死んだ。そして、生き返った! と(笑)。しかも無敵になって戻ってくるという。
── 第11話のビスコ復活のシーンは、ものすごくかっこよかったです。 碇谷 ザ・主人公でしたね。瘤久保先生のお話によると、「勝手に生きて戻ってきちゃった」んだそうです(笑)。
── 作家の方が言う「キャラが勝手に動き出す」というやつですね。第9話以降は怒濤の展開でしたが、制作するうえで気を配ったことは何でしたか? 碇谷 第9話で気持ちが盛り上がり過ぎて、ここでいったん物語が終わった感覚になっちゃったんです。だから、10話以降の作業に気持ちを戻すのが大変でした(笑)。戦車などの兵器もたくさん出てきてテツジンを巡る戦闘が派手になっていくので、エフェクトをかけたりして、大いに盛り上げたいなと。特に第11話は、あおきえいさんに絵コンテを描いていただいたうえに、ゲストアニメーターの方にも多く入っていただいて、豪華な話数になりました。
── あおきさんは、「ID:INVADED」の監督さんですね。 碇谷 はい。最初は第12話(最終話)の絵コンテをやっていただこうと思ってお願いしたんですが、「最終回は監督がやるものでしょ」と怒られまして(笑)。
── そんなことがあったんですね(笑)。でも、第11話も最終話同様、重要な話数でした。 碇谷 そうですね。ミロがビスコ化して、テツジンに敢然と立ち向かっていって。
── しかも、第5話に出てきた子どもたちを守っての戦いなんですよね。あの展開は熱かったですし、花江さんの勇ましいほうのボイスを堪能できました。 碇谷 かっこよかったですよね。それを聴いたナッツたちが驚いていましたが、本当に「どうしちゃったの?」と思うくらいの豹変ぶりでした。その分、ビスコが戻ってきたとき、ミロの声はどうなるんだろうという心配もあったんですが、自然に元に戻っていて、花江さんすごいなと思いました。
── テツジンとの戦いでミロが精根尽き果てたタイミングでビスコが戻ってきたので、いい感じにミロの力が抜けて、元に戻った感がありました。声優さんの声では、テツジンの「あ~か~ぼ~し~」という咆哮も迫力がありました。 碇谷 テツジンに取り込まれた黒革役の津田さんですね。執念がこもっている声で、アフレコではどのカットも一発OKでした。津田さんもすごかったです。
── アクションシーンは毎回の見せ場でしたが、描くうえで気を配った点はどこですか? 碇谷 作画スタッフの人数が限られていたうえに若手が多かったので、レイアウトでかっこよく見せるようにして、実は作画カロリーは抑えているんです。僕が6本、又賀くんが2本、コンテをやっているんですが、作画カロリーをコントロールしながら、見栄えがする絵を2人でできる限り作っていこうという意図がありました。でも、もう少し動かしてもよかったかなという思いが残ってもいて。第11話のあおきさんのコンテを見たら、よく動いていて、やっぱりかっこいいんですよね。
── 終盤の話数だからこそ許されるという一面もありますよね。でも、アクションだけでなくドラマも終盤は盛り上がっていきました。ビスコとミロの終盤の関係性については、監督はどうとらえていますか? 碇谷 大きな意味での「愛」が作品のテーマで、友情も家族愛も含めて、キャラクターが大切な人のために行動する姿を描いてきました。ビスコとミロはそれを象徴するキャラクターで、お互いがお互いのために生きているということですね。ちょっと抱きつき過ぎかなとは思いましたが(笑)。キャラクターデザインの浅利さんが男性同士のジャンルに詳しいので、彼女の意見を聞きながら、視聴者のみなさんに友情と受けとめていただけるよう描いていきました。それにパウーがいますからね。
── あのカップル成立は、見ていて納得しました。 碇谷 瘤久保先生によれば、最初は2人をくっつける予定はなかったんだそうです。話が進む中でパウーがビスコに惹かれていったらしく、これもキャラが勝手に動いたということですね。ピンチの連続の中でお互いの存在に気づいていくというのはハリウッド映画的で、そこを意識したともおっしゃっていました。
── 敵との決着だけでなく、人間ドラマ的にも最終話に向けて盛り上がっていきました。そして、最後はビスコとミロが次なる冒険に出発して終わります。 碇谷 そんな2人の姿を描いて流れる、上田剛士さん(AA=)による特別エンディング「ぶち抜け!!」もかっこよかったですね。
── ゴリゴリのナンバーで、勢いよく終わっていった感がありました。上田さんは椿山日南子さんとともに劇伴も担当されましたが、劇伴については、どのように感じていますか? 碇谷 いい音楽を作っていただけたと思っています。劇伴については、音響監督の小泉紀介さんや音楽制作チームに任せていて、僕はでき上がりを楽しみにしていただけなんです。毎回めちゃくちゃかっこいい曲が各シーンに乗ってくるので、ダビングが本当に楽しくて。上田さんの曲はソリッドで「錆喰いビスコ」の世界観にばっちりハマっていましたし、椿山さんの音楽は叙情的でドラマを補完してくれました。
── 劇伴を2人の作家が手がけていることで、すばらしい効果が生まれたと思います。 碇谷 いいですよね。ビスコとミロが歌うエンディングテーマの「咆哮」は椿山さんの作詞・作曲・編曲で、この曲もすばらしかったです。