「未来少年コナン」の帆船バラクーダ号を2メートル越えの超大型模型で作りつづける理由:宮崎メカ模型クラブ、かのー会長インタビュー【ホビー業界インサイド第76回】

2021年12月18日 11:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

キャラクターたちが住んだり移動したりする空間を、宮崎駿はおろそかにしない


── バラクーダ号の全体を作ってみて、あらためて気がついたことはありますか?

かのー 船尾にあるエンジン部分の構造です。アニメ本編では、コナンとジムシーが釜に薪を投げ込んでいて、その穴から火が出ています。その描写はアニメの演出上の都合であって、薪は下から入れるものではないかと悩みました。宮崎駿さんの初期設定を見たら、バラクーダ号は木炭エンジンなんです。薪を上から投入し、釜の底のほうで燃料を不完全燃焼させて、一酸化炭素を発生させるエンジンです。そう考えると、釜は上下に長くなり、ジムシーたちの足の下にも伸びているという解釈が成り立ちます。アニメ本編とは少し違うレイアウトになりましたが、そうして悩みながら模型を作っていくのが、すごく面白いわけです。
宮崎さんの設定画を見ると、エンジンルームから後部は少し大雑把なところもありますが、船長室から船体中央部の船倉にかけては、完璧にツジツマが合っています。上甲板から中甲板へと続くブリッジの後ろの階段の位置がピタリと一致していて、模型を作っていて、改めて驚かされました。

── そういう整合性が、宮崎メカを作る醍醐味でしょうか?

かのー そうです。宮崎さんがアルムの山小屋などの場面設定を描いた「アルプスの少女ハイジ」では、制作現場で「宮崎さんの図面だったら本当に家が建つ」とまで言われていたと聞きます。それぐらい、どこに扉があってどこに階段があって、隣室がどれぐらいの広さで……と、ツジツマを考えてある。宮崎さんはロケハンに行っても、写真を撮らないそうです。おそらく、見た目の形だけじゃなく構造や原理までも記憶しているから、写真がなくても絵に再現でき、しかも説得力が出るのだと思います。

── 「未来少年コナン」には、ロボノイドのような奇想天外なメカも出てきますが?

かのー ええ、「ここから先は漫画だ」という割り切り方も気持ちいいです。だけど、人間が住んだり活動したりする空間は、しっかりと構造を考えてあります。舞台設定として人が隣室へ移ったり、階上へあがったりする空間をおざなりに描くことが許せない人なんだと思います。そこが好きですね。


── ところで、この1/24バラクーダ号は大塚さんに見せたのですか?

かのー 大塚さんは、アニメーションを仕事にしている方なので、僕たちの模型については見て見ぬふりでコメントを避けている感じでした。だから、わざわざ見てもらいに行くことはしませんでした。しかし昨年、大塚さんとお付き合いの長いパノラマ堂さんが僕のバラクーダ号の画像を大塚さんにお見せしたところ、「馬鹿ですねえ」と笑っていらしたそうです。
そんな経緯もあって「一度ちゃんと見せに行こう」と思い立ち、お会いする約束をしたのですが、新型コロナウイルスのせいで延期が重なって、そうこうするうち、今年3月に大塚さんは亡くなってしまいました。記念のフィギュアも用意していたのに、本当に残念です。

ノウミソ バラクーダ号の甲板上での結婚式に、大塚さんのフィギュアも列席しています。実は、「コナン」の最終回「大団円」の結婚式のシーンにも、大塚さんはちゃんと登場しています。

── これだけの大作を作り続けられるのは、どうしてでしょうか?

かのー 一銭にもならないのに、何でですかねえ……。ただの薄いプラスチックの板が、本当の船のような構造の立体物になるという模型の醍醐味はもちろんあります。でも、ひとつの作品を長く続けられるのは、自分が18歳のときに感動した「未来少年コナン」の舞台を再現することが楽しいからでしょうね。バラクーダ号は数々の重要なエピソードの場であり、劇中最後まで残った唯一の乗り物で、しかも新大陸に向かう希望の船です。ちょうど自分が社会に船出する時期と重なっていたので、思い入れがムチャクチャ強いのかもしれません。
「コナン」への思い入れが強いのは僕だけじゃなく、アニメの放送当時には子どもだった世代の人たちが、展示会で僕のバラクーダ号のジオラマを見て、泣きださんばかりに喜んでくれることもあります。そういうのを見ると、こんなでかくて扱いに困る模型だけど、作ってよかったと思います。



(取材・文/廣田恵介)

画像一覧

関連作品

未来少年コナン

未来少年コナン

放送日: 1978年4月4日~1978年10月31日   制作会社: 日本アニメーション
キャスト: 小原乃梨子、信澤三惠子、青木和代、永井一郎、吉田理保子、山内雅人、家弓家正
(C) NIPPON ANIMATION CO., LTD. 1978

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事