楠木ともり、諏訪ななか、ニノミヤユイ、岡崎美保──クリスマス間近! 季節をテーマに掲げた新譜&連載初レビュー声優の新譜を紹介!【月刊声優アーティスト速報2021年11月】

2021年12月04日 12:250

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当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。2021年11月号は、連載初となる2本立てのテーマにてお届けしたい。

まずは、作品テーマに“冬”を掲げた2枚から。楠木ともりさんと諏訪ななかさんの新作は、どちらも目下のクリスマスのみに焦点を絞らない、この冬を通してじっくりと楽しめる内容となっている。どちらも全曲レビュー形式でたっぷりと語っていきたい。

 

楠木ともり 3rd EP「narrow」(11月10日発売)

いよいよ収録曲すべてが新規書き下ろしとなった、楠木ともりさんの期待の新作。前回EP「Forced Shutdown」までのように、リアレンジされた既発曲を収めないことから、今回は初めて作品内で一貫する“冬”というテーマを設けたとのことだ。もちろんこれまで同様、楠木さんがシンガーソングライターとして、全収録曲で作詞作曲を担当している。

 

 

「narrow」

鉄琴やストリングスで、都会の冬を思わせるサウンドを奏でる1曲。都会の空が狭い=“narrow”というのがタイトルの由来だ。後述する“とある人物”を主人公に、路上ライブでの出会いと別れを通して、“この人をめがけて自分の歌を届けたい”と決心するまでの心情変化がなだらかに描かれる。強い想いがあるなら、自分で街の見え方を変えなきゃいけない。そんな心のくすぶりを、楠木さんが大人になりきれない少年少女のような表情をもって響かせてくれる。

 

楽曲最大のポイントは、“ない”。次に引用した通り、「narrow」では終始、否定系の“ない”や“いや”といった言葉で、主人公の心の葛藤を紡いでいく。

 

〈ここじゃ星は見えないよ 目を閉じても はるか遠く〉

〈いや、僕の歌は街を灯せない〉

〈何度も見せてくれた イヤホン外す仕草/もう見れない もう届かない〉

 

これが、主人公のアーティストとしての想いに変化の兆しが見えるクライマックスで、こう歌われる。

 

〈何度も見せてくれた/イヤホン外す仕草 もう見なくていいように〉

 

仮に流し聴きをしていたとしても、楽曲終盤まで否定系のネガティブな響きの言葉が続くと、ハッピーエンドを期待していたリスナーは、その結末について思わず“ん、どういうこと?”と引っかかるのではないのだろうか。

 

ここがポイント。楽曲の中に散りばめられたのと同じく、否定系の〈見なくて〉の“ない”という言葉を使っていても、この最後のワンフレーズはそれまでとはまったく異なり、“あの子がイヤホン外す仕草をもう見ない”、つまり今度はそのイヤホンそのものから音楽が流れるくらいにヒットしてみせるという、プラスの方面での気概が隠されているのだ。この楽曲全体に張り巡らせた伏線を“引っかかり”とするあたり、楠木さんのシンガーソングライターとしての才がきらりと光っている。

 

 

「よりみち」

ヒップホップの中でも、ミニマルな音数のチルトラップを志向したトラックだ。自身の心に渦巻くモヤモヤを忘れようとする、帰路までの“よりみち”を描いた1曲だ。なかでも、2ヴァース目の〈全然平気だった 散々だった失敗〉に始まる部分は、〈全然〉や〈散々〉などの同じ単語の響きで、ヒップホップ的なループ構築によるグルーブの気持ちよさを味わわせると同時に、そのループ(=同じものの繰り返し)が“よりみち”という、心も体もぐるぐると巡る状態とも重なり合わさる。編曲を担当したのはなんと、TVアニメ「先輩がうざい後輩の話」でも共演する声優の武内駿輔さん。武内さんはJack Westwood名義で、トラックメイカーとしても活躍中だ。

 

「熾火」

一見すると炎が収まっているようだが、その芯の部分は高温で真っ赤に燃え続けている状態を指す“熾火”(おきび)。楠木さんの歌声が、激情ほとばしるジャズロックの上でドスを効かせる1曲だ。この楽曲に雰囲気の似たメジャーデビュー曲「ハミダシモノ」では吐き捨てるような歌い方だったが、今回はフレーズの最後をもたれさせて、これまで以上に感情の機微を伝えるボーカルに酔いしれてしまう。〈君は知らない〉から始まるサビ後半部やDメロなど、要所ごとで歌声を清涼な質感に切り替えてアクセントを付けるなど、彼女のボーカル技術のレベルアップも感じられるだろう。

 

「タルヒ」

自身の出演作「バンめし♪」で面識のある、やぎぬまかなさんによるドリームポップ/シューゲイザーのサウンドに、楠木さんの体温のぬくもりを感じるEPラストナンバー。タイトルは、氷柱を指す“垂氷”(たるひ)と、満ち足りた日”のダブルミーニングに。〈寒さを知らなければ 誰かをあたためられないでしょう〉というシンプルなメッセージは、聴き手を普遍的に肯定してくれるようなやわらかな響きを纏う。氷が解けるたびに大きさを増す“垂氷”を、人としての成長と捉える考え方もまた見事。それにしても、前作収録曲「バニラ」のギター然り、「タルヒ」然り、楠木さんの歌声は本当にディストーション映えする。

 

筆者はかつて「Forced Shutdown」のレビューにて、「楠木ともりさんは、どれだけ多くの歌声を持っているのか」と記したが、今作でまたしてもその歌声が彩りに満ちあふれていることに驚かされた。また、トラックもこれまで以上にオリジナリティが追求されているだけに、彼女の頭の中ではどんな音が鳴っているのか。そして、アレンジャーには制作発注時にどのように言語化してその“鳴っている音”を伝えているのか。本当に気になっているし、話が聞きたくて仕方がない。

 

また、詳細は読者自身で調べた際の楽しみにぜひ取っておいてほしいが、「narrow」の主人公らは、楠木さんの過去のとある楽曲にも登場しているとのこと。彼女の粒だったコーラスも心地よいが、そういえばこのフレーズにも聞き覚えが……。こうした過去作へのリンクというアイデアこそ、制作スタッフ発案らしいが、本人が自身で作詞作曲をしていることから、そうした思いつきを実現させやすいのだろう。また「narrow」に代表される、本作での感情表現も、小説家のように文学的でありながら、どこか生々しい現実的な側面も持ち合わせている。まさに、楠木ともりという人間そのものが音楽に表れているようだ。

 

諏訪ななか 2ndミニアルバム「Winter Cocktail」(11月24日発売)

タイトルの意味は、“冬を混ぜ合わせる”。過去作でも数多く歌ってきた“恋愛ソング”で、さまざまな冬の情景や浮き足立つようなドキドキ感、そして時には失恋の悲哀さえをもパッケージしたウィンターソング集といえる仕上がりだ。

 

 

タイトルは一見すると、アルコールのカクテルと結びつけそうになるが、ここでの意味は本来的な意味での“混ぜ合わせる”。それを逆手に取って、雪のような純白さで、ファンシーな衣装をまとった諏訪さん自身をワイングラスに入れてしまうジャケット写真も小洒落ている。

 

「記憶ファンタジック」

前作シングル収録曲「突風スパークル」に引き続き、楽曲プロデュースはmarbleが担当。marbleは、諏訪さんが愛するTVアニメ「ひだまりスケッチ」シリーズにて数々の主題歌を担当している音楽ユニットだ。そんな彼らいわく、本楽曲では“小悪魔なすわわ”を表現することを意識したという。彼女らしい天邪鬼(あまのじゃく)な言い回しなどを織り交ぜながら、大切な人との思い出をこれからも更新していきたい。そんな“ing”の意味合いで、過去を保存する“記憶”という言葉をタイトルに選んだそうだ。

 

また、サウンドアレンジには、冬の澄んだ空気にイルミネーションが灯りをともした瞬間の、思わず心の体温がふわっと上がるような暖かさがある。諏訪さん本人によると、サビではブレスもほとんどなく、歌いこなすのが至難とのこと。しかしながら、こうしたハイトーンな音域を用いる楽曲でこそ、彼女の歌声が持つ光沢感、言い換えれば“おいしい部分”が最もよく引き出されるところだ。

 

そのほか収録曲

デビュー作以来、「溶けるみたい」「揺れていたい」と、“◯◯たいシリーズ”で作り上げてきた恋物語もついに完結。これまで少女漫画のように乙女心の進展を気にかけてきたが、駆け足なトラックの「ふれてみたい」で、いよいよ意中の相手へと想いをぶつけにいく。また、冬の日のデート模様を描いたジャジーな「DATE-ALAMODE」、本作唯一の“王道クリスマスソング”として、モータウンビートで奏でる「Holy holiday」などポップ方面の曲も収録。

 

対して、諏訪さんの作品には欠かせないライアットなロックチューンには「ノスタルジック・キネマ」を用意。幸せの裏には別れもあり。主人公がこの瞬間の失恋を乗り越える心境を歌う。ディレクターの井上哲也氏は、本楽曲を“真冬のエンドロール”と謳っているが、曲順やリリースタイミングから、クリスマス間際で別れるカップルを連想してしまうのは考えすぎか。

 

最新作もまた、内田彩さんや和氣あず未さんら日本コロムビアの系譜にあるカラフルなガールズポップに特化した1枚となった。全体的にメルヘンかつロマンチックなテイストで、まさにこの季節が旬の楽曲揃い。諏訪さんの憧れであるmarbleとの再会を早くもかなえた点でも、自身の音楽活動が期待と評価をされていると本人に示すようであり、その音楽活動にもまた新たな意味を見出せる、非常に意義深い機会となったのではないだろうか。

  

ここからのテーマは、“本連載に初登場の声優アーティスト”。ニノミヤユイさん、岡咲美保さんの2ndシングルについては、それぞれの表題曲に絞ってレビューをしていこう。

 

ニノミヤユイ 2ndシングル「Dark seeks light/散文的LIFE」(11月3日発売)

2020年1月に、“ニノミヤユイ”名義でアーティストデビューを果たした声優・二ノ宮ゆいさん。今回の新作は、自身初の両A面シングルとして、どちらもアニメタイアップが付いた力作となっている。約1年ぶりのリリースということもあってか、いい意味で“毒の溜まった”ニノミヤさんのボーカルに心をつかまれる。

 

 

「Dark seeks light」

TVアニメ「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」オープニングテーマとして、ニノミヤさんがアニメ主題歌で初作詞を担当。欅坂46(現:櫻坂46)やさユりさんを愛聴する、彼女の“闇属性”ぶりは今作でも色濃く、歌詞で表現されるのはタイトル通り、影の感情を受け入れながら、光を目指す切なる想い。どこかダークファンタジー的な作風で、早口なラップで駆け抜けていくボーカルラインがやたらとスリリングだ。

 

作編曲は、ぼくのりりっくのぼうよみ(現:たなか)さんなどの楽曲を手がける気鋭のクリエイター・ケンカイヨシ氏によるもの。ロックらしさも感じるハードコアトラップにスラップベースで低音のアクセントを加えており、このトラックならではのオリジナリティを受け取ることができる。

 

 

「散文的LIFE」

「Dark seeks light」と同じく、作詞:ニノミヤさん×作編曲:ケンカイヨシ氏の布陣で制作されたのが、TVアニメ「テスラノート」エンディングテーマ「散文的LIFE」。こちらもネガティブからポジティブへと自身のパワーを引っ張ろうとしながら、歌詞の規模感をより日常的なレベルへと落とし込んだものに。

 

その内容は、まさに“一億総不幸社会”だと言い捨てんばかりに、日常での虚無感や退廃的なやるせなさがほとんど。最後にはなんとか前を向こうとするも、それがどこか“諦念”に基づいているとすら感じられる。こうしたメッセージを何食わぬように振る舞おうとする声のトーンで、かつやたらとポップなエレクトロジャズで歌い上げているあたり、ニノミヤさんの持つひと筋縄ではいかない人間臭さが逆説的に表れていて、非常にニヤリとさせられてしまう。

 

岡咲美保 2ndシングル「ペタルズ」(11月3日発売)

初主演作となったTVアニメ「転生したらスライムだった件」のリムル=テンペスト役などで知られる岡咲美保さん。2021年9月に1stシングル「ハピネス」でアーティストデビューを果たしてからまだ3か月足らずだが、超短期スパンでの新作となる。

 

 

「ペタルズ」

表題曲「ペタルズ」は、TVアニメ「ジャヒー様はくじけない!」第2期エンディングテーマに起用。自身初のアニメタイアップ楽曲として、ブラス隊が華やかなポップチューンとなっている。

 

タイトルの意味するところは“花びら”。自身の「岡咲」という名字ともリンクさせながら、生活の中で見つけた彩りや、それらが時間とともに過ぎ去っていく移ろい模様を、咲いては散っていく花びらになぞらえたという。彼女の歌声も、特にサビでは時に天真爛漫に、と思うと次の瞬間にはファルセットで可憐にと、表情豊かに切り替わるのが非常に見事。ボーカルとしての器用ぶりを実感させられる。

 

また、サウンドの爽快なイメージから、声優アーティストとしての駆け出し、いわばアーティストとしての色がこれからぐんぐんと付いてくるような無垢な印象を受け取ることができた。自身の幸せが周囲に伝播して、世界がどんどん開放的にスケールを広げていく。アニメの主人公・ジャヒー様の貧乏バイト暮らしと、“困窮”からゲインしようとする奮闘ぶりを、〈今日、今から私が世界の中心です/そんな思い込みや妄想 1Kのなか広げて〉と、1Kアパートの手狭さで表したように、自分の足元が声優アーティストとしての出発点となる。そんな初期衝動を歌う楽曲にも聞こえてはこないだろうか。

(文/一条皓太)

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