諦められていた作品が唐突に配信開始。今の時代に中華系キャラを出すことの難しさも目立つ、中国10月新作アニメ事情【中国オタクのアニメ事情】

2021年12月05日 11:000

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中国における「唐可可(タンクゥクゥ)」の大人気から見えてくる現代の中華系キャラの難しさ


中国のオタクな人たちにとって
「面白い日本のアニメに自分たちが好きになれる、納得できるような中国人キャラ(あるいは中華系キャラ)が出て活躍してほしい」
というのは、多かれ少なかれ共通する願いだそうですが、「ラブライブ!スーパースター!!」のメインキャラのひとりである唐可可(タンクゥクゥ)は、そんな彼らにとって非常にうれしくなる中華系キャラだそうです。

中国のオタクな方々の話によれば、唐可可はそれ以前の日本のアニメやマンガ、ゲームなどに出てきた中華系キャラとは違う現代の中国人的なキャラクターという評価になっているそうです。
キャラ設定や劇中での活躍に加えて、中国出身の声優によるネイティブな中国語も混じる演技などにより、中国のオタク界隈では
「日本の二次元に出てくる中国人は、現実ではまったく見かけないお団子頭にチャイナドレスのキャラばかりだ!」
などと言っているような人でさえも、好意的に受け入れられるキャラになっているのだとか。

唐可可に関しては「ここまで用意周到にやれば現在の中国でも人気になることができる」といういい事例になるかと思います。しかし別の方向からは「ここまでやっても状況や受け取られ方次第でダメになりかねない」という難しさも見て取ることができます。

今でこそ中国のオタク界隈でも大人気の唐可可ですが、そこに至るまですべてが順調ではなかったようです。
唐可可の当初の設定の誕生日だった7月7日(現在は7月17日という設定に)が、中国では日本関連で何かと意識される七七事変(日本で言うところの盧溝橋事件)と同じ日だということで中国では大問題となりましたし、それ以外の設定や版権絵などに関しても、こじつけ的なものも含めてイロイロな批判が発生するなど、初動の頃はかなりゴタゴタしていた模様です。

七七事変や九一八事変(満州事変)は、中国の教科書にももちろん載っていて、毎年その時期になると中国ではメディアの記事や関連イベントが出てくるレベルの事件なので、中国向けの日本関係の作品や広報で7月7日を使うのは非常にリスクが高くなります。
この「7月7日」に限らず、中国では思わぬところで日本では知られていない現代中国の常識や習慣による地雷を踏むリスクが存在しますし、現在の中国のネット環境ではそれが容易に炎上につながってしまいます。

特に近年の中国では、炎上をあおるネタが動画の再生数を稼げることから、日本の二次元ネタを炎上させるのも定番手法のひとつとなっているので、ひと昔前と比べてリスクは格段に上昇しています。
そしてこういった問題は「中国側でどう解釈するか」ということになってしまうので、小火の時点ならともかく、一定規模の炎上になってしまうと、「作り手の側にそんな意図はなかった」と言っても通じなくなりますし、謝罪をしてもすべての人が納得するとは限らないので、収拾をつけるのは困難になります。

また日本側でも、中国関係の炎上やその対応のゴタゴタに関する情報が広まると、ファン界隈の空気は悪くなりますし、中国に気を使って日本のファンや昔からのファンをないがしろにしていると受け取られてしまうこともありえます。そしてその結果、中国で獲得できるファン以上に日本のファンやほかの地域のファンを失ってしまうケースも考えられます。

さらに、中国市場のほうでは近頃の娯楽コンテンツに対する圧力や、国際的な緊張の高まりから中長期的な見通しが立たなくなっています。
この数年の間で炎上や政治的な問題、新型コロナの影響などにより、中国市場向けの動きが頓挫した日本のオタク系コンテンツは枚挙にいとまがありません。現在ではアニメの配信の可否や配信開始時期が不透明になっていますし、現地でのイベント開催についても見通しが立たない状況だそうです。

唐可可への期待も集まっていた、「ラブライブ!スーパースター!!」の中国本土での配信も、日本での放映から数か月遅れてのものとなりました。またその間、ずっとファンに対するアナウンスはないという、中国でありがちな対応となっていたので、現地のファンはやきもきすることになり、なかには作品に対する熱意を保つのが難しくなる人も出ていたそうです。

近頃の中国のオタク界隈では
「最近はよい扱いの中国人キャラを見かけない」
「それどころか中国人キャラが出てくることが少なくなった」
などといった愚痴をよく見かけますが、オタク系コンテンツを取り巻く背景事情まで把握しているような中国のオタクな人たちからは
「現在のリスクとリターンを考えた場合、中国人キャラが少なくなっていくのは避けられないのかもしれない」
という嘆きの声もありました。

こういった事情を追いかけていると、娯楽コンテンツであっても、地域ごとの文化に加えて、そのときそのときの社会情勢や価値観の影響を強く受けざるをえない、ということを改めて実感してしまいますね。


(文/百元籠羊)

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