矢野顕子、竹内まりやらの楽曲とともに巡るシティ・ポップなサントラ!「MUTEKING THE Dancing HERO」オリジナルサウンドトラック発売記念──作曲家:島崎貴光・増田武史インタビュー

2021年12月01日 16:200

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大御所アーティストの楽曲を盛り込んだ劇伴

 

──Plastic Love」以外にも、山下達郎「LOVE SPACE」(1977)、山下達郎「土曜日の恋人」(1985)、和田アキ子「星空の孤独」(1968)などの曲が劇中で流れますが、そのセレクションはどなたが?

 

島崎 「Plastic Love」同様、サトウ監督から具体的に曲名をあげての指示がありました。やはり当初から明確にイメージがあったんだと思います。「LOVE SPACE」に関しては、こういうシーンで使いますというラフな絵コンテまでいただきましたね。「星空の孤独」だけちょっと質感が違いますが、これが先ほど言いましたコロナ渦になってからの追加オーダーの曲のひとつになります。ヴィヴィ姉のゲームセンターに漂うノスタルジーを象徴する曲なので、ポップなネオ・サンフランシスコの街中の雰囲気とはちょっと一線引いた感覚の違いを出したかったんじゃないでしょうか。ヴィヴィ姉の心境ともマッチしていますし、毎回具体的な曲名を提示していただくたびに、監督のイマジネーションに脱帽でした。

  

──重要な劇中歌となる、矢野顕子さん作詞・作曲「空のうた」の制作の経緯は?

 

島崎 ヒロインの「アイダさん」がアイドルを目指しているキャラクターなので、彼女が歌うアイドルソングを作りたいということでした。矢野顕子さんは、松田聖子さんや小泉今日子さんに曲提供もされていますし、ポップス・シーンの中心にいらっしゃる方です。ぜひ矢野さんにお願いしたい、というサトウ監督やプロデューサー陣からの要望でした。しかも新曲を書き下ろしていただくことが実現したことで、「MUTEKING」の音楽が目指す方向性が明確になりました。それをアレンジすることになった増田さんは、大変なプレッシャーだったと思いますけど(笑)

 

増田 確かにプレッシャーはありました(笑)。デモ音源をいただいて作業に入ったんですが、デモは矢野さん自身がピアノの弾き語りで歌われていたんですよ。なので、まさに矢野顕子さんのピアノ弾き語りのあの感じなんです。そこから出発して80年代アイドルソングに仕上げると考えると途中で迷子になりそうだったので、自分の中にある80年代アイドルソングのサウンドイメージを明確にしたうえで、両サイドから掘り進んでいって真ん中ですり合わせた……ような感覚でしたね。たとえば、ギターはやっぱり松原正樹さんの音かな?(笑)とか、ディテールをイメージしながらですね。(ちなみに松原正樹さんはシティ・ポップを語るうえで欠かせない超重要なスタジオ・プレイヤーです!!)

 

島崎 矢野顕子さん、竹内まりやさん、山下達郎さん、和田アキ子さん……などのお名前に囲まれて音楽制作をさせていただいたというのは、こうして放送が始まって、サントラが発売になっても、まだ信じられない感覚です。本当にすごい経験をさせていただきました。

 

 

──お2人のシティ・ポップ体験や、そのルーツなどをお聞かせください。

 

増田 私は「杉山清貴&オメガトライブ」のデビュー(1983年)が衝撃的でした。そこから角松敏生さんを知り、さらに逆にさかのぼって山下達郎さんを聴き進んでいったような感じです。初期の達郎さんは当時の私にはすごく大人びて聴こえていたのでしょうか、「POCKET MUSIC」(1986年)あたりでようやく追いつくことができたような印象です。

 

島崎 シティ・ポップという概念自体が当時はなかった、後付けのものですし、自分の体験を振り返っても、「あぁ、あれが今シティ・ポップと呼ばれているのか」という感覚です。そう考えると、山下達郎さんのアルバム「BIG WAVE」(1984年)の中の「JODY」(アルバム「MELODIES」(1983年)収録の「悲しみのJODY」英語詞バージョン)が当時から大好きだったので、自分のシティ・ポップのルーツはと問われると、私はこの1曲をあげますね。

 

──昨今の世界的シティ・ポップ再評価は、どのような点が若者や海外の人に受け入れられたものだと思われますか?

 

島崎 レコードやCDを買って聴くのではなく、サブスクで音楽を聴くことが当たり前になった今は、狙ったものを聴くのではなく、なんとなく流れてきたものを聴く形に音楽の聴き方自体が変わってきてると思うんです。そうなると生活をじゃましない、気楽に聴ける音楽が好まれるようになる。そこにシティ・ポップのあの落ち着くサウンド感、ゆったりとしたミディアムテンポ感、「MUTEKING」の4話でも触れていた「チルアウト感」が望まれて、日本のシティ・ポップにたどり着いた人が多いんじゃないかと思います。さらに言えば、世界的に見るとEDMやK-POPのような厚くて派手なサウンドや、アメリカのポップスなんかは、音数は少ないのに低域がすごく強いヒップホップがまだまだ主流ですけど、そういう音楽に少々疲れてきた人がふと立ち止まって聴くようになった音楽…… そんな感じがしています。

 

増田 世界で受け入れられるには歌詞よりもまずサウンドだと思うんですが、80年代の日本のポップスを振り返ると、アナログからデジタルへの移行期で、その両方のいいところが併存していたり、素晴らしい演奏技術を持ったスタジオミュージシャンが揃っていたりと、成熟度がすごいんですよ。特に打ち込みを介した同期演奏が当たり前になる直前のこの時期は、人力による楽器の演奏に関しては最高峰のグルーブを醸し出していた時代だと思っています。これ以降は、プログラミングが多用されたり、ハードディスクレコーディングによる編集が容易な環境に置き換わっていくので、この時代にしか生まれ得なかった演奏や録音の形がある。それがいちばん色濃く出ているのが、シティ・ポップと呼ばれる音楽だと思うんです。同時代の洋楽も同じような環境にあったはずですが、そこに日本独特の憂いやケレン味のあるメロディやコードが加わると、特に海外の方には未経験の新しいサウンドとして聴こえてくるんじゃないのかな……と思っています。

 

島崎 シンセサイザーやデジタル楽器の発達史でいうと、打ち込みの音楽に差し替わっていくちょうどギリギリの端に位置しているのがシティ・ポップの時代なんです。シンセサイザーでさまざまな音色を自由に弾けるようになりました。ただしそれはプレイヤーが指で弾いています……というタイミングですよね。

 

増田 そうですね。80年代でも末に近くになると、ドラムとシンセの音が打ち込みに差し替わって、どんどん硬質で耳につく演奏になってくる。人間くささが残っている、あの「いなたい」(泥くさいけど、そこがどこかカッコいい)質感は、80年代中頃までに特有のものだと思います。

 

島崎 シティ・ポップを紹介している動画を見ると、アニメ風のイラストとイメージを重ねているものがありますよね。音楽業界が注目する前から、アニメの音楽は先行してテクノ・ポップ風の80年代の音を取り入れていましたから、シティ・ポップを新しい音楽として受け取っている世代は、80年代の音にアニメの世界観と通底するものを感じているんじゃないでしょうか。

 

 

──サントラ収録曲で、リスナーの皆さんにぜひ注目してもらいたい曲をぜひあげてください。

 

島崎 私は増田さんの書かれたテーマ系を推してます。DISC-2 6曲目「ムテキのハート」、DISC-2 13曲目「ヴィヴィのテーマ」、DISC-2 19曲目「ステキングのテーマ」などをぜひ聴いていただきたいですね。これは増田さんにしか作れないというか、私では絶対違うアプローチになっていたであろうアレンジです。昔のアニメや特撮にあった、「この人が出るとき、必ずこの曲が流れるよね」「この曲流れたら形勢逆転で絶対勝つよね」っていう、あの感覚そのままの曲です。やはり70~80年代のど真ん中を通ってきた人だからこそ書ける音楽だと思います。あと、2バージョン収録されている「星空の孤独」は、いずれもドラマーのスガタノリユキさんに生ドラムを叩いてもらってるので、その味わいも感じてもらいたいですね。

 

増田 私はDISC-1 2曲目「428スクエア」、DISC-2 2曲目「セオの世界」に注目してほしいですね。先ほどの島崎さんのお話とも通じますが、劇中でこの曲が流れると一気に世界が導かれるというか、そういうパワーのある曲だと思います。サウンドとしてはダブステップ/EDM系なんですけど、「MUTEKING」の世界からはみ出さず、むしろ新しさを後押ししているようで、サントラアルバムとして聴いても、とても映える曲だと思います。それから私も「星空の孤独」は外せないですね。特にDISC-2 20曲目「星空の孤独 -Nostalgic Mix-」が好きです。あとはDISC-2 12曲目「静寂ノスタルジー」という島崎さんの曲もジーンときて大好きな1曲です。

自分が担当した曲ですと、DISC-1 5曲目「ベイサイド・ダイナー」、6曲目「Happy Lucky Days」、7曲目「ストップモーション」の3曲が、自分なりのシティ・ポップ三部作というか、80年代への思いを込めて作った宝物のような曲になりました(笑)。島崎さんがサントラの曲順を構成するとき、偶然この3曲を並べて収録されたのは何か伝わるものがあったのかなと思っています。もうひとつだけ、DISC-2 15曲目「I'm back」は、80年代のカシオペアが大好きだった私なりのライトフュージョン的サウンドを詰め込んでいますので、ジャズ・フュージョン方面の、80年代サウンドが好きな方にはぜひ聴いていただきたいですね。そして自分がアレンジさせていただいた大御所の皆さんの曲は、すべてにリスペクトが詰まっていますので、どれかひとつ……などはあげられません(笑)。

 

──最後にあらためて、「MUTEKING THE Dancing HERO」オリジナルサウンドトラックの聴きどころをご紹介ください。

 

島崎 サントラ発売の12月1日の時点では、アニメはクライマックスに向けての一番いい時期です。放送ではまだ流れていない曲もサントラには含まれていますが、サントラを聴いたうえでクライマックスを見るとさらに楽しんでいただけると思います。私たちは「MUTEKING」のカラフルな世界のさまざまなシーンに音を付けているので、あらゆるジャンルやサウンドをこのサントラに盛り込んでいます。その音だけでも日常のいろんなシーンにマッチすると思うので、ぜひみなさんの生活に合わせて、普段聴きもしていただきたいですね。

 

増田 ここから物語も佳境に入ってくる、いちばん面白い時期ですので、アニメ本編とサントラ、ぜひ同時に楽しんでいただきたいです。あと今回、島崎さんと私の2人で劇伴を担当しましたが、本来であれば、音楽的な守備範囲があんまり重ならない2人で作っていますので、そういった意味での音楽のバリエーションも楽しんでみてください。

 

──本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

(取材・文/不破了三 写真/清水裕貴)

 

【プロフィール】

●島崎貴光 Takamitsu Shimazaki

SMAP、A.B.C-Z、AKB48、NMB48 など数多くのアーティストへの楽曲提供・プロデュースを手掛け、 アニメ・ゲーム・ドラマ・舞台・CM などの音楽プロデュース、ディレクター、原盤制作を行う。 第 48 回日本レコード大賞「金賞」ダブル受賞、SKE48「青空片想い」がクラウンレコードシングルヒット賞を受賞。 近年では、ドラマ「悪魔の弁護人 御子柴礼司」やアニメ「ハクション大魔王 2020」の劇伴・音楽プロデュース、ゲーム「イケメン戦国」のメインテーマのプロデュースを担当。ほかに、「アイドルマスターSideM」「カードファイト ヴァンガード」「少女☆歌劇レヴュースタァライト」「トミカ絆合体 アースグランナー」「ゾイドワイルド ZERO」など、多くのアニメ作品を手がけている。

 

●増田武史 Takeshi Masuda

ギタリストとしてデビュー後、アーティストのライブサポートを経て作編曲家に専念。 松田聖子、近藤真彦、郷ひろみの楽曲、竹内まりやのソングミュージカル「本気でオンリーユー」の楽曲制作を手がけるなど、アーティストからの信頼も厚い。ほかに、SMAP、NEWS、AKB48、東京女子流、神谷浩史、小野大輔、岡本信彦、緒方恵美、早見沙織や、アニメ作品「ハヤテのごとく!」「絶対可憐チルドレン」「黒子のバスケ」「ラブライブ」など、幅広く楽曲提供・編曲を行う。また、自身の歌声にも定評があり、ギターに加え、ボーカル・コーラスでの参加作品も多数。

  

【商品情報】

■CD「MUTEKING THE Dancing HERO」オリジナルサウンドトラック

島崎貴光・増田武史

・CD発売/配信開始日:2021年12月1日(水)

・価格: 3,300円(税込)(2枚組/全43曲)

・発売元:スマイルカンパニー

・販売元:スペースシャワーネットワーク

・配信リンクはこちら
https://ssm.lnk.to/MTDH_OS
 

■収録内容

【Disc-1】

1.Dancing Train

2.428スクエア

3.Plastic Love -Scat Chorus Mix-

4.Wonderful Boogie

5.ベイサイド・ダイナー

6.Happy Lucky Days

7.ストップモーション

8.マット&トミー

9.LIBERTY STREET

10.マジカルディスコ

11.C'mon MUSiC

12.セオ登場のテーマ

13.不協和音

14.ミステリアス・パラドックス

15.THE LOST

16.空のうた -Humming Mix-

17.星空の孤独 -Player Piano Roll Mix-

18.オクティンクBLACK

19.ステキングのテーマ

20.ジョージ・スカイハイ

21.Precious Memories

  

【Disc-2】

1.Chill Vibes

2.セオの世界

3.CHAOS THE BLACK

4.ピンチはチャンス

5.危機一髪

6.ムテキのハート

7.形勢逆転

8.ムテキンチェンジ!!

9.ローラーヒーロー・ムテキング -Version.2021-CDのみ収録〉

10.Super Hyper MUTEKI Buddy

11.MUTEKING REVOLUTION

12.静寂ノスタルジー

13.ヴィヴィのテーマ

14.空のうた

15.I'm back

16.Funky Groovin'

17.コミカルハプニング

18.Plastic Love -Guitar Chorus Mix-

19.土曜日の恋人 -Guitar Chorus Mix-

20.星空の孤独 -Nostalgic Mix-

21.LOVE SPACE -Guitar Chorus Mix-

22.空のうた -Guitar Chorus Mix-

画像一覧

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MUTEKING THE Dancing HERO

MUTEKING THE Dancing HERO

放送日: 2021年10月2日~2021年12月18日   制作会社: タツノコプロ/手塚プロダクション
キャスト: 真白健太朗、江口拓也、日野聡、高橋李依、米澤円、田所あずさ、愛河里花子、興津和幸、京雅、木村隼人、田中美海、西山宏太朗、KENN、青山穣、松山鷹志、羽多野渉、鈴村健一
(C) タツノコプロ・MUTEKING製作委員会

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