6つの美術館が連携して実現した「富野由悠季の世界」展の道のりを、学芸員・山口洋三が振り返る【アニメ業界ウォッチング第84回】

2021年11月20日 11:001
第2会場 兵庫県立美術館

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

▲ 第2会場 兵庫県立美術館

地方美術館の学芸員たちの“横のつながり”で、展覧会は実現した


山口 実は、サンライズに話を持っていった時点で、開催する美術館は4館に増えていました。私と工藤さんだけが盛り上がっているように見えては、説得力がないように思ったので、興味がありそうな学芸員に声をかけていったんです。まず兵庫県立美術館、静岡県立美術館が加わり、サンライズへうかがう直前に島根県立石見美術館、最後に富山県美術館の参加が決まりました。しかも、それぞれの館の学芸員が、単に開催するだけでなく展示内容に参加したいと言ってくれました。ここまで学芸員が主体的に進める企画展は、アニメなどサブカルチャー系の分野では、なかなか例がないと思います。富野監督とは2~3回ほどお会いして、説得しようと試みました。たとえば、安彦良和展だったら安彦さんの絵を集めれば開催できますよね。今回の場合、絵コンテやモビルスーツのラフスケッチを展示するのか、富野監督にも展覧会のイメージがつかめなかったのでしょう。お互いに、様子をうかがっている感じでした。サンライズのご担当の方も「最終的に、監督がどう判断するかですね」とおっしゃっていました。

── 何が決め手になったのでしょう?

山口 展覧会は、今年決めたから来年すぐに開けるというものではありません。美術館のスケジュールもあるし、準備に時間もかかります。まして、6つもの美術館が集まることは近年ではまれですから、その重さをわかってほしいと監督にお願いしました。

── 劇場版『Gのレコンギスタ』(2019年~)の公開とタイミングを合わせたわけではないのですか?

山口 『G-レコ』と重なったのは、完全に偶然です。強いて言うなら、2019年は最初の『機動戦士ガンダム』放映開始から40周年なので、そこに重ねられたら……とは思っていました。それと、福岡市美術館は2019年に40周年を迎えて、リニューアルオープンすることが決まっていました。せっかくならば、ガンダム40周年と福岡市美術館40周年を重ねたい。リニューアルオープンの第1弾ではなく、第2弾としてアニメ関連の企画展を開催すれば、お客さんの意表をつけるとも考えました。開催の順番は2019年に福岡市美術館、兵庫県立美術館、2020年に島根県立石見美術館、静岡県立美術館、富山県美術館、2021年に青森県立美術館。巡回中に、さらに新潟市新津美術館と北海道立近代美術館が加わりました。

▲ 第3会場 島根県立石見美術館

── 計8つの会場で同じ資料や絵画を展示する手間は、さぞかし大変だっただろうと思うのですが……。

山口 今回の場合は、各美術館の出資したお金を神戸新聞社にプールして、全国を巡回するのに必要な輸送費、サンライズなど各版権保持者への版権使用料、資料の額装など展覧会全体にかかる費用をその原資の中から捻出しています。事務作業を含めて、巡回全体の運営の中心になっていただくメディアが必要で、それを今回は神戸新聞社にお願いしたわけです。作品の管理、展示設営、広報、そして会期中の運営(監視員の雇用や観覧料など収支の管理など)を行うのが各美術館の役目です。

── あくまでも、美術館が主導した展覧会だったわけですね?

山口 はい、こうして学芸員たちだけで企画する展覧会は美術展では普通なのですが、先ほど言ったようにアニメの展覧会では珍しいと思います。学芸員同士の横のつながりもあって、青森県立美術館の工藤さんは、島根県立石見美術館の川西由里さん、静岡県立美術館の村上敬さんと「トリメガ研究所」というユニットを組んでいて、美術からサブカルまで横断するような企画をすでにやられていました。ですから、工藤さんから川西さん、村上さんへの連絡はスムーズでした。また、兵庫県立美術館で「超・大河原邦男展」を企画した小林公さんには、私から電話しました。小林さんと同館の岡本弘毅さんは大河原展のときにサンライズから大量の資料を借りた経験があるので、アドバイスしてもらって助かりました。富山県美術館は最初に「成田亨 美術/特撮/怪獣」を企画した美術館で、当時の担当だった方は東京の美術館に移ってしまったのですが、同館の若松基さんは富野ファンだと聞いていたので、打診してすぐにOKしてもらいました。ただ、若松さんもまた富山県水墨美術館に異動してしまって、とても苦労されていましたが。

── 地方の美術館同士が連携して、これだけの規模で実現したということですね?

山口 「あえて東京での開催は外したのだろう」と勘繰られるのですが、とんでもありません。私から東京での開催を希望して、東京の大手新聞社や有名な美術館にも話をしていました。ところが、どちらも途中で降りてしまい、東京での開催は実現しませんでした。こういう文化発信は東京発の場合が多いのですが、要するに自分たちが中央から発信したかったのかもしれません。私たちのような地方の美術館が主導するのは、東京の方たちからすれば、あまり面白くなかったのかもしれませんね。

▲ 第4会場 静岡県立美術館

画像一覧

  • 第2会場 兵庫県立美術館

  • 第3会場 島根県立石見美術館

  • 第4会場 静岡県立美術館

関連作品

機動戦士ガンダム

機動戦士ガンダム

放送日: 1979年4月7日~1980年1月26日   制作会社: サンライズ
キャスト: 古谷徹、鈴置洋孝、池田秀一、井上瑤、鵜飼るみ子、白石冬美、古川登志夫、鈴木清信、飯塚昭三、潘恵子、永井一郎
(C) 創通・サンライズ

伝説巨神イデオン

伝説巨神イデオン

放送日: 1980年5月8日~1981年1月30日   制作会社: サンライズ
キャスト: 塩屋翼、田中秀幸、白石冬美、井上瑤、戸田恵子、林一夫、松田辰也、塩沢兼人、井上和彦、佐々木秀樹、一龍斎春水、石森達幸
(C) サンライズ

重戦機エルガイム

重戦機エルガイム

放送日: 1984年2月4日~1985年2月23日
キャスト: 平松広和、本多知恵子、大塚芳忠、川村万梨阿、速水奨、木下由美、豊田真司、堀部隆一、島津冴子
(C) 創通・サンライズ

海のトリトン

海のトリトン

放送日: 1972年4月1日~1972年9月30日
キャスト: 塩屋翼、広川あけみ、北浜晴子、八奈見乗児、杉山佳寿子、渡部猛、増岡弘、塩見竜介、滝口順平、矢田耕司、中西妙子、柴田秀勝
(C) ウエスト・ケープ・コーポレーション

OVERMAN キングゲイナー

OVERMAN キングゲイナー

放送日: 2002年9月7日~2003年3月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 野島裕史、かわのをとや、小林愛、鬼頭典子、子安武人、水城レナ
(C) SUNRISE・BV・WOWOW

機動戦士ガンダムZZ

機動戦士ガンダムZZ

放送日: 1986年3月1日~1987年1月31日   制作会社: サンライズ
キャスト: 矢尾一樹、岡本麻弥、森しん、塩屋浩三、原えりこ、菊池正美、松井菜桜子、鈴置洋孝、榊原良子、堀内賢雄、門間葉月、カシワクラツトム、本多知恵子
(C) 創通・サンライズ

劇場版 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

劇場版 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

上映開始日: 1988年3月12日   制作会社: サンライズ
キャスト: 古谷徹、池田秀一、鈴置洋孝、榊原良子、白石冬美、川村万梨阿、弥生みつき、佐々木望、山寺宏一、伊倉一恵、安達忍、潘恵子
(C) 創通・サンライズ

ガンダム Gのレコンギスタ

ガンダム Gのレコンギスタ

放送日: 2014年10月3日~2015年3月27日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、高垣彩陽、福井裕佳梨、逢坂良太、辻親八、藤真秀、田中敦子、広瀬彰勇、木下浩之、水野龍司、たかはし智秋、中井和哉、小清水亜美、子安武人
(C) 創通・サンライズ

機動戦士Zガンダム

機動戦士Zガンダム

放送日: 1985年3月2日~1986年2月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 飛田展男、池田秀一、鈴置洋孝、松岡ミユキ、岡本麻弥、井上和彦、島田敏、榊原良子、小杉十郎太
(C) 創通・サンライズ

∀ガンダム

∀ガンダム

放送日: 1999年4月9日~2000年4月14日   制作会社: サンライズ
キャスト: 朴璐美、福山潤、渡辺久美子、村田秋乃、高橋理恵子、鬼頭典子、佐藤せつじ、青羽剛、稲田徹、中西裕美子、川津泰彦、子安武人
(C) 創通・サンライズ

戦闘メカ ザブングル

戦闘メカ ザブングル

放送日: 1982年2月6日~1983年1月29日   制作会社: サンライズ
キャスト: 大滝進矢、横尾まり、島津冴子、古川登志夫、山下啓介、TARAKO、二又一成、銀河万丈、塩沢兼人
(C) 創通・サンライズ

聖戦士ダンバイン

聖戦士ダンバイン

放送日: 1983年2月5日~1984年1月21日   制作会社: サンライズ
キャスト: 中原茂、土井美加、あたか誠、高田由美、川村万梨阿、色川京子、大木正司、速水奨
(C) 創通・サンライズ

ブレンパワード

ブレンパワード

放送日: 1998年4月8日~1998年11月11日   制作会社: サンライズ
キャスト: 白鳥哲、村田秋乃、朴璐美、渡辺久美子、青羽剛、辻親八、沙倉祥子、三木眞一郎、川村万梨阿
(C) サンライズ

さすらいの太陽

さすらいの太陽

放送日: 1971年4月8日~1971年9月30日   制作会社: 虫プロダクション
キャスト: 藤山ジュンコ、嘉手納清美、平井道子、井上真樹夫、富田耕生、来宮良子
(C) MUSHI PRODUCTION,CO.Ltd

勇者ライディーン

勇者ライディーン

放送日: 1975年4月4日~1976年3月26日
キャスト: 神谷明、高坂真琴、芝田清子、井上真樹夫、山下啓介、太地琴恵、西川幾雄、木原正二郎、日比野美佐子、市川治、相模太郎、仁内建之、肝付兼太、滝口順平、加藤精三、飯塚昭三
(C) 東北新社

無敵超人ザンボット3

無敵超人ザンボット3

放送日: 1977年10月8日~1978年3月25日   制作会社: サンライズ
キャスト: 大山のぶ代、森功至、古川登志夫、松尾佳子、野島昭生、川島千代子、永井一郎、島田彰
(C) 創通・サンライズ

無敵鋼人ダイターン3

無敵鋼人ダイターン3

放送日: 1978年6月3日~1979年3月31日
キャスト: 鈴置洋孝、井上瑤、水野カコ、白石冬美、北村弘一、信澤三惠子
(C) 創通・サンライズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

コメント(1)
多摩境駅前商店街多摩境駅前商店街2021/11/21 06:17

とはいえ、東京にも、せめて東京近隣でも開催してほしい。

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事