【インタビュー】冬ならではの楽曲を集めた3rd EP「narrow」。楠木ともりが作り出す世界には可能性しかない!
「narrow」のMVでは、初めて野外ロケに挑戦しました
── 続いては作曲面なんですけど、「narrow」のメロディは、どんなことを考えながら作っていきましたか?
楠木 今までの楠木ともりの楽曲って、トリッキーで衝動的で激しい曲というイメージがあったと思うんですけど、「narrow」に関しては聴きやすさを意識しました。聴き終わった後に、なんとなくずっとメロディが頭に残ってくれたらいいなと。だから今までの曲とはメロディの運び方も違っていて、別の個性が出せたかなと思います。
── 編曲を担当しているのは重永亮介さんです。
楠木 私が「冬感がありつつ、私らしさも出してほしいです」というお願いの仕方をしてしまったために、最初に上がってきたアレンジはもう少し激しくて、途中でリズムが変わったりと曲の展開も複雑だったんです。それで、「今回の曲はもっとシンプルにお願いしたいです」とお伝えして、盛り込まれていた要素をなるべく削って聴きやすくしていただきました。
── 今回の4曲は全部、編曲者が違うんですよね。「narrow」を重永さんにお願いしたのは、どうしてだったんですか?
楠木 「ロマンロン」と「僕の見る世界、君の見る世界」の2曲を編曲してくださったのが、重永さんだったからです。この2曲とつながるフレーズも入れていただきたくて、お願いしました。今まで何曲も編曲してくださっていて、私が好きな編曲の方向性も把握していらっしゃるので、今回もスムーズなやり取りができました。
── しかも重永さんはたくさんの引き出しをお持ちですよね。
楠木 そうですね。楽曲の幅が広い方なので、冬曲もばっちり作ってくださるんじゃないかなと思ってお願いしました。
── 「narrow」のMVは、アーミーコートを着て夜の街を歩くシーンと部屋の中で歌うシーンに大きく二分できる内容でした。この映像についても教えてください。
楠木 初めてご一緒させて頂く監督さんで、ストーリー性を感じさせる映像に仕上げてくださいました。街を歩くシーンは私にとっては初めての野外ロケで、いろいろな場所で撮影できたのが楽しかったです。路上ライブを描いた曲ということで、歌の主人公を直接私が演じているわけではないんですけど、イメージが重なっています。路上ライブって、よし、やるぞという臨戦態勢で臨むじゃないですか。だから服も自然と気合いが入るというか、自分を守る武装みたいなかっこいい感じになると思うんです。それでアーミーコートを着てみました。逆に室内のシーンは安心して自分に向き合える空間なので、リラックスした暖色系の衣装にしていただきました。
── 武装とおっしゃいましたけど、外のシーンの楠木さんは、なんだかすごくかっこよかったです。
楠木 ありがとうございます。でもコートの下は赤いカーディガンと花柄のスカートで、女の子らしいんです。この曲の主人公は、自分の曲を聴いてほしい相手(「僕の見る世界、君の見る世界」の主人公)が明確にいるので、その人に向けてのファッションになっています。
── 室内のシーンも気になる小道具が多くて、細部に注目して見ていただきたいMVですね。
「よりみち」は武内駿輔さんのお力をたくさんいただいた曲になりました
── 次は、カップリング曲についてです。まずは2曲目の「よりみち」。ゆったりとしたビートが心地いい曲になっていました。
楠木 仕事でイヤなことがあった日とかの、考えなくてもいいようなことをグルグル考えちゃって、まっすぐ家には帰りたくない帰り道を歌った曲です。「narrow」と違って歌詞には情景描写がほとんどなくて、より内面的なアプローチを心がけた楽曲になっています。
── この曲のような気持ちになったことが、楠木さんにもあるんですか?
楠木 あります。まっすぐ家に帰る気にならない日はあります(笑)。
── そういうときってどうするんですか? わざと駅から家まで遠回りして帰ったり?
楠木 遠回りしたりとか、開いているお店に入ったり、買い物する気もないのにコンビニに寄ったり。いろいろ適当によりみちしちゃいますね。自分で自分の機嫌を取る時間というのが、この曲のテーマです。
── これはどういう意味なんだろうと思ったのが、「歩いて 歩いて 紙吹雪 歩いて 歩いて 赤い道」のところです。何のことを書いているんだろうと。
楠木 落ち込んでいるときこそ自分で自分を誉めたい、みたいな感じです。紙吹雪は「おめでとう!」ってときに使うものですし、赤い道というのはレッドカーペットのことなんです。「自分が主役!」みたいな気分で、帰り道をレッドカーペットに見立てて歩いているんです。内面を表現している曲だからこその妄想というか、紙吹雪を浴びながらレッドカーペットを歩いている自分を想像しているおちゃめな感じを書いてみました。
── 面白いですね。説明していただいて得した気分です(笑)。
楠木 「白い眩しさにつられて」の「白い眩しさ」ってなんだろうとか、いろいろ解釈しながら聴いていただきたいです。
── 具体的な情景を想像しつつも、それをぼかして歌詞にしていったわけですね。何気なく聴いていると、謎の言葉がたくさん出てきて、面白い曲でした。編曲はなんと声優の武内駿輔さんなんですよね。
楠木 2nd EP「Forced Shutdown」を聴いた感想を武内さんが送ってくださって、しかも自主的に聴いてくださったんです。それがうれしかったうえに「曲を書かせてね」と言ってくださって。武内さんが普段書いて歌われている曲を聴かせていただいたら「よりみち」の世界観にぴったりの曲が多くて、編曲をお願いさせていただきました。
── アーティスト同士の垣根のないやり取りという感じですね。リスペクトし合っているのが、すごくいいです。
楠木 私はいつもアレンジャーさんと細かく相談させていただいているので、最初はそうしていたんですけど、ヒップホップをほとんど聴かない私から、こうしてくださいとお願いするよりも、ジャンルに詳しい武内さんに全部お任せしたほうが楽曲にまとまりが出ると思って、途中からは思うように作っていただきました。そうしたら、すごくいい曲になって。
── 武内さんらしさが出た編曲になったということですね。それからこの曲には途中で、留守番電話のメッセージが入っています。もちろん楠木さんの声で吹き込まれているんですけど、あのアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
楠木 これは武内さんのご提案です。ひとりになりたい帰り道なので、仕事先や友だちから電話が来ても出ないんじゃない?という話になって、留守電のメッセージを入れましょうと。コーラスもしてくださっていて、「よりみち」は武内さんのお力をたくさんいただいた曲になりました。
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