CGアニメーターにも個性はある! 業界で活躍しながら自主制作でも己を貫く、坂野友軌インタビュー【アニメ業界ウォッチング第83回】

2021年10月29日 11:00

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技術だけで作ったものは「習作」であって、それを「作品」とは呼ばない


── 坂野さんは、最初からCGアニメをつくりたかったのですか?

坂野 いいえ、学生の頃は手描きでも作っていました。

── ではなぜ3Dに?

坂野 就職がきっかけではあるのですが、そもそも作画のアニメーターとしての就職活動をしなかったんです。自分でアニメをつくるなかで、自身が本質的に絵描きじゃないことには気づいていました。美大出身でもあるので、まわりにいる本当の絵描きの人たちをたくさん見ていたからというのもあると思います。

── 坂野さんのYouTubeアカウントを見ると、「夜を発つ」のほかにも何本か短編アニメがありますが……。

坂野 それらのうちの最初の2本、「moving high」(2012年)と「CALLING LINE」(2014年)が学生時代の作品です。手描きと3DCGが混ざっていますが、原画は基本的に自分で描いて、動画は後輩に手伝ってもらいました。揺れる草とか波などは、原画からお願いしたカットもあります。「CALLING LINE」では、ロト・スコーピングなども使いました。


── 「moving high」で自転車がひっくり返るシーンは、CGではないんですか?

坂野 あの自転車は3Dでモデリングして、上から鉛筆でなぞっています。質感設定やレンダリングまでは、勉強の手が回らなかったので……。

── おそらく1本ごとに技術的なテーマと、文学的なテーマがあったと思うのですが、いかがでしょう?

坂野 確かに両方あります。ですけど、学生時代に考える技術的なテーマなんて、後になってみれば、とるに足らないものですよ。そんなことよりは内容的なテーマのほうが、よっぽど糧になってくる。これは美大の教えでもあるのですが、技術だけで作るものは習作であって、それを「作品」とは呼びませんから。例えば、「moving high」はストーリーやキャラクターの名前なんてどうでもいいから、移動と運動だけですべてを見せることがテーマでした。誰とも関わらず、そこにドラマが生じなくても、移動して運動するだけで人の心に変化は生じうる。「CALLING LINE」に関しては、そこまで整理できなく、自分で歌って終わってしまいましたけど。


── その代わり、「CALLING LINE」では写実的な都会の暮らしが描写されていますよね。

坂野 背景は、写真を撮ってきてPhotoshopでレタッチしたりもしています。

── 3作目の「滞留して沈黙」(2018年)のメイキング映像を見ると、一部に3Dも使ってあるようですが?

坂野 いいえ、あれは2Dの絵をクリスタで描いて、After Effectsのパペットツールで動かしているだけです。1枚絵を変形させて3コマ打ちで動かせば、それなりにアニメっぽく見えるので。ただ、それらはイレギュラーなカットであって、ほとんどは手で普通に原動画を描きました。あの作品に関して言えば、モデリングから始まるような3DCGは一切使っていません。


── 「滞留して沈黙」の方法論なら、安定したクオリティで作品を何本もつくれそうなものですが、この手法で続けていこうとは思わなかったのですか?

坂野 はい。そこで使っている技術はそれほど目新しいものではありませんし、自分の中でも十分やりきったかな、と。それに、自分が作る2Dのカットと3Dのカットを見比べて、3Dのほうが圧倒的に可能性に満ちていることは、自分でもわかっていましたから。

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