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名シーンだらけの第11話。作画やお芝居すべてが融合し、名シーンは生まれる
ーーそこからの宇田さんが絵コンテ&演出の第11話「たとえば君がいるだけで SAGA」ですが、家が流されているという衝撃のスタートでした。
境 その前の10話のラストカットが衝撃で、あのひとコマ落ちにこだわりを感じました(笑)。
宇田 あれ、よかったよね(笑)。でも11話は、そもそも題材がデリケートだったんですよ。
境 そうなんですよね。
ーーでも、お話的にはすごく濃密で面白くて、この話数が好きな方は多いのではないかなと思います。
宇田 自分の中では、地味かな?と思っていたんだけど。
清水 いやいやいや! 最後に幸太郎とさくらのからみがあって、最後の最後にハーモニー(※)で終わる。ハーモニーまでやるんだ!と驚いたんですよ(笑)。これだけ盛り上げておいて、ダメ押しがあるのか!って。
※ハーモニー:劇画・絵画調の止め絵のこと。キャラクターを背景と同じ質感で絵画のような一枚絵にする。
宇田 ここでスベったらどうしようと(笑)。
清水 僕は膝を叩いて笑いましたけどね。
ーーこの話数はどんなことを大事に絵コンテにしましたか?
宇田 11話は、とにかく題材がデリケートだったので、佐賀の人が災害に負けていないように、ということはずっと頭に浮かべながらやっていました。だから、町子さんがいいキャラクターで助かったんです。
境 たえに食われても「あらあら」って感じですからね(笑)。
宇田 それでいいやと思ったんです。佐賀県民はおおらかで、それにつられて小島食品工場のみなさんたちも全然気にしない感じなので、あの方さんたちに佐賀を代表してもらいました。
それプラス、大古場がいろいろからんでくる。フランシュシュがアイドルである意味、みたいなものがシナリオからテーマとしてはっきりと書かれていたんです。それはたぶんシリーズとしてのテーマだと思ったので、これを外したらダメだろうと。
なので、一番に考えたのは駐車場ライブなんです。駐車場ライブで、子どもたちが助け船を出すところがあるんですけど、これは絶対に押すんだ!と思ってやっていました。で、なぜか愛が半泣きになるんですけど、あれはそのカットを切る直前まで浮かんでいなかったんですよ。
ーーゾンビであることがバレそうになったけど、みんな怖くないから、ゾンビじゃなくてフランシュシュだよって言う名シーンですね。
宇田 確かに反応は多くありました。でもこここそキャラが勝手に動いたんです。最初はさくらに反応させようと思っていたんです。でも愛が勝手に出ていってしまった。自分もそれまでの話数をずっと見て、愛の変化みたいなものを感じていたから、無意識にそれが出たんだろうなと。
ーーそれがあの作画によって、さらに増幅されていたというか。
宇田 原画を描いてくれた方が、最初僕のコンテだと口を開けていたんですけど、口を開けさせないでください!と来たんですよ。で、半泣きの表情になって、その後に修正を入れた作画監督たちもものすごくこだわっていたので、いい絵になったなぁと思いました。
ーー第11話は、それだけでなく、おばさんたちも子どもたちの表情もすごくよかったんですよね。
宇田 絵コンテが遅れてしまいスケジュールもない中、本当に手を抜かずにやってくれたので、そこはありがたやと言うことしかなかったです。
ーーそれと個人的には、幸太郎が走っているところが、ちゃんと家に戻って、流されたニュースを知って避難所までたどり着くストーリーになっていてよかったです。
宇田 あそこのシーンはもっと長くあったんですよ。でも、これは尺的に無理だとなり。
境 ただ、曲を流すから切りすぎないでくださいっていう(笑)。
宇田 そうそうそう。1分くらいでやってほしいと。
清水 シナリオにはさらっとト書きが書いてあっただけだから知らなかったのですが、このシーンで曲が流れるんですか! 尺に収まるんですか?って驚きました。
宇田 まぁ結果、OPとEDがナシになりましたけど(笑)。
境 あと、ライブシーンがない話数かと思いきや、地味に歌っているんですよね。
宇田 そうなのよ! しかもアカペラで(笑)。
ーー個人的には、リリィが歌い出すところがすごくよくて。それを見つめるサキの表情やレイアウトがいいなぁと思っていました。
宇田 スキャットのところは、シナリオの段階であったものなんだけど、あそこも個人的に好きなシーンなんです。なんかリリィしかできないことだなと思ったので。
境 そうですね。そこからアイドルとしてできることは何か、というところへの流れがすごくきれいでしたね。
清水 素晴らしかったです!
宇田 村越繁くんの脚本の段階で、その流れがすごくよくできていたから、これは余計なことはしないでおこうと思いました。
ーーそこで大古場さんも考えを改めるではないですけど、幸太郎に利用されていたわけではないと知っていくわけですからね。そして終盤ですがメイクシーンがものすごく好きで、あそこの幸太郎のセリフも、みんなの幸太郎を信頼している表情も素晴らしかったです。
境・宇田 同ポ同ポ同ポ。
※同ポジション:同じカメラのポジションからのカットを複数カット繰り返すこと。
宇田 あえての。
清水 繰り返しだから、すごくいいシーンなんですよね。
宇田 きれいな顔を描きたかったし、見せたいなと思ったんです。それまで下手メイク、ゾンビ顔でずっと来ていたから、余計かわいく映ったのかもしれない(笑)。
境 そのあと、もう一段かわいく見せなければいけないシーンがあるんですけどね。
宇田 絵コンテで、幸太郎視点なので(かわいく)って書いたんですけど、それを作画さんがどうするんだろうって思いました(笑)。
ーーキャストも、それをエピソードとして語っていましたよね。幸太郎目線だからさくらがよりかわいいみたいな。
宇田 それがそのままアフレコ台本にもなっていたからじゃないですかね(笑)。
ーー階段でのやり取りは、どうやって生まれたのですか?
宇田 もともとシナリオでも「階段で」という流れだったんです。さくらが階段の上で幸太郎が下というのは自然な流れではあるし、それは自分でも浮かんでいたのかなぁ。
境 場所を設定するまでに、どうしようかという相談はしていましたよね。設定的には窓がないただの壁だったんですけど、もう少し画として成立させるためにウソでも窓にしましょうかみたいな。
ーーそのおかげで、幸太郎の壁ドンが壁側から見られるという、「新しいぞ、これは!」と思いました。
境 そうそう。壁から見える幸太郎(笑)。
宇田 ここのシーンは、幸太郎に気持ちが行きながら描いていたかなぁ。そこを宮野真守くんが非常にうまくやってくれたので助かりました。何しろサングラス姿で表情があまり見えない子だから。幸太郎が戻ってきたときの「その顔を何とかせにゃならんじゃろがい」も、絵コンテではもう少し叫んでいる風に書いていたんですけど、アフレコで落ち着いた感じにやってくれていたので、いいなぁと思いました。役者さんに助けられました。
ーーそして、最後にハーモニーで終わると(笑)。
清水 笑いました。
宇田 ハーモニーは最近描ける人が少なくなってきてしまったからね。
清水 要求してもうまくいかないことが多いですからね。それが気持ちよくハマっていたので、「やった!」と思いました。
ーーどういうところが難しいのですか?
清水 アナログでやっていた時代は当たり前のようにあったものなんです。技術って流行り廃りがあるもので、ハーモニーというテクニック自体が古臭いという印象になった時代があったんですね。1990年代後半くらいからだと思うんですけど、それとデジタルに切り替わるときが重なったんでしょうね。そうすると技術の伝達がうまくいかないみたいなことが起こり、デジタルで同じようにやろうとしてもうまくいかないよねってなってしまった。
境 結局美術さんのセンスの部分もあるので、絵画的な描き方をしてキャラクターでも濃淡とか筆のかすれ具合含めて、ひとつの絵画としてまとめるという技術が必要なんだろうけど、なかなか最近はうまくいかないという。
宇田 僕らの世代ではハーモニーの代名詞・出﨑統さんがいたからねぇ。
境 ハーモニーと言えば、出崎さんですから。
佐賀の人たちを置き去りにはできない──みんなで一緒に作り上げるライブを描きたかった
ーー続く、第12話「史上最大の SAGA」のこだわりはどんなところにありましたか? サキがラジオで話しているのを聞いている、これまで登場したキャラクターたちの表情がすごくよかったですが。
清水 あれはシナリオを読んだ瞬間に頭に浮かんだ絵でした。長セリフって、ある程度声優さんにお任せするしかないのですが、それをああいうサキの表情で終わらせることができれば、サキがいちばんかわいく見えるのかなぁという欲もあって、ああいう見せ方になりました。聞いている人の点描みたいなところは、それまでのフランシュシュの軌跡が感じ取れるものになっていればなと思ったんです。描き忘れていたキャラクターもいたんですけど、あとで修正していただけてホッとしました(笑)。
ーー軌跡というところだと、スタジアムに向かう人を見ても感じましたね。
清水 そこもシナリオ通りの段取りですけど、わかりやすくみんなが集まってくる。ここも、まぁいろいろな作品とかを思い浮かべながら絵コンテを描いていましたね(笑)。
境 シリーズ通して気を使っていたのが、最後にスタジアムライブがあるとわかっていたから、人が集まってくる説得力をどれだけ持たせられるかだったんです。これだけのことがあって、最終的に避難所で、アイドルとしての自分たちの立ち位置を見つけ、それが説得力になってみんなが集まってくる、という流れになればいいなって。
ーー第2話でフランシュシュのラジオが始まり、アイアンフリルのライバル宣言、リリィとライトの天才子役同士の友情とか、布石はできていたんですよね。最後に避難所での活動がテレビ放映されたりして、あれだけのお客が集まったという。
清水 第11話で感情のところでのピークが来ていたので、ブレはないんです。この子たちは覚悟を決めてライブをしちゃうと思っていたんですけど、シナリオではまだ揺らいでいるところがある。それがなぜかと言うと、佐賀で被災された方たちを見て心が揺らいでいる、みたいなことだったので、そういうデリケートなところを、ここでどこまで壊していいのかというところは悩んだというか。わからん!!って思っていたので、絵コンテに時間がかかってしまったというところはあるんです。
スタジアムまで行けば、そこに立つことはわかっていたので、そこから観客が集まる段取りをどうもっていくかでした。11話までの積み重ねはどう考えてもうまくいっていたので、それをどう最後のクライマックスにつなげるか。で、そこは境さんに丸投げしたわけですが。
ーー確かに、11話までの積み重ねをスタジアムに集約するわけですから、12話のコンテから入ったという最初のお話を聞くと、大変だなと思いました。
清水 それと言い訳をすると、処理(演出)までやるつもりだったので、コンテはゆるく描いていて、あとで細かい感情部分はすり合わせしようと思っていたんです。でも、演出はやらないことになってしまい、監督が最終話を全部やられることになったので、そこは申し訳ないなというのと、やりたかったなぁという気持ちの両方があります。
境 だから、もしかしたら「あそこそうじゃねーな」って思われていたのかもしれないですね。「俺のコンテを汲み取ってねーな」って(笑)。
宇田 さっきのコメントは、ここにつながってくるのか~(笑)。
清水 実はここは……みたいな。いやいやいや、ないですよ。でも、愛がドラム缶風呂に入っているところだけ気になりました(笑)。
境 途中から入れちゃった(笑)。でも、その気持ちはすごくわかる。人が演出をやるのであれば、もうちょっとていねいに、わかるようにコンテを描いたのにって。自分でやると思っていると、後で考えようってなるよね。
清水 そういう甘えを出してしまい、大反省みたいな(笑)。
ーーそこからのライブがすごくよかったです。声優さんによるフランシュシュのライブも、10月16日と17日にありますが、そういうリアルライブも参考にされてシーンを作っているんだな、という感じがしました。
境 あの空気感を何とかしてアニメに組み込めないかなって、毎回ライブを見るたびに思っていました。ライブとして純粋に楽しんで見ているんですけど、どこか冷静な部分もあって、こういう舞台演出があるんだ、こういうあおり方があるんだって思うんです。これはアニメでも取り入れられるなとかはちょこちょこ考えていましたね。
清水 サキの「一緒に!」っていう煽りとかもすごくよかったですよ。俺も一緒に歌いたい!って思ったので。
境 舞台上だけではなく、お客さんはどういう反応をしているのか、どういう動きをしているのかなっていうのも参考にした部分があるので。
清水 観客のCGで細かくモーションが変わったりしていたので、マジか!と驚きました。
宇田 12話のライブシーンは、すごくいいよね。感動したんだよなぁ。今までのアニメーションにもライブシーンって数多くあったけど、主人公とかステージの子たちにフォーカスを当てすぎているんです。だから見る側の臨場感は置いていかれている感じがあった。でも12話のライブは、臨場感がちゃんとあったので、これはすごいと思いました。
境 お話の流れ的に、災害があって、みんなを元気づけるためにアイドルとして今の自分たちにできることを考える。シリーズを通して能動的に動いてきて、最後のライブも盛り上げるという流れだったので、佐賀の人たちを無視することはできないんですよ。会場に来ている人たちをただのお客さんにしてはダメで、会場が一体となり、一緒にライブを作っているようになって初めて、このシリーズをやってきた意味があると思ったから、そこはすごく大事にしました。だから、観客の目線をとことんこだわって作ったんです。
清水 理屈の上では、ほかのタイトルでもそれをやろうとするんでしょうけど、なかなかできないんですよね。それをちゃんとクリアしていったというところが、前回のインタビューにもありましたけど、CGディレクターの黒岩さんの力だなと。CGチームがすごくがんばったんだろうなっていう。あれだけの物量がブワって動くすごさってあるから、なかなかTVシリーズでそれを見ることができないし、そこが素晴らしかったです。宇田さんが言っていた臨場感が伝わるよう、いろいろなセクションががんばって作ったのがあのライブシーンだったんだなって思いました。あそこまですごくなるとは思っていなかったです。
ーーフランシュシュのリアルライブは、この12話を受けてのライブになるので、相乗効果はありそうですね。
境 そうやって相互で作用していければいいですね。
ーーたえのコール&レスポンスは、声が出せるご時世であれば、きっと誰かがやっていたでしょうね(笑)。
清水 そうですね。僕も“とうっとうっとうるとうっとうっとうる”(「追い風トラベラーズ」)って歌いたかったです。
境 あの振り付けも一緒にやりたいっていう、一体感のためにああいう振り付けにしてもらっているんです。
宇田 でも声優さんたちは、本当にみんな芸達者だよねぇ。
境 本当に。今回の振り付けもみんな大変だったと思いますよ。
清水 だからみんなすごいなという感想しか出てこないんですけど、ファンの皆さんが楽しんでいただけることがいちばんです!
ーーでは、このインタビュー連載もこれが最後となりますが、ファンへメッセージをお願いします。
清水 皆さんに支えられた第1期があって、そのおかげで第2期ができました。そのパワーは僕たちも感じていて、期待を裏切らないように、もっといいものを見せようと思ってやっていたんだと思うんです。僕は少ししか参加できなかったのですが、何とかいいものを境さんとともに作れたらいいなと思っていました。「リベンジ」が終わり、ライブもあります。皆さまの支えがあれば、きっと何か新しい展開があるのではないかと僕は祈っています。なので皆さん、これからも「ゾンビランドサガ」をよろしくお願いします。
宇田 これで終わりかどうかはまだまだわかりませんので、言葉は多くないですが、期待していただければと思っています。
境 本当にファンの方に育てていただいた作品だと思います。声優さんたちのライブと僕らの制作との相乗効果の話をしましたが、お客さんとの相乗効果も明らかにあった作品だと思っているんです。
彼女たちがアイドルとして育っていったというところも含めて、全部が生きた作品だったと感じているし、イベントや企画、展開がどんどん広がりを見せていっているので、僕としても本当にいろいろな体験をさせてもらった作品でした。だから本当に「ありがとうございます」という感じです。
これからフランシュシュというアイドルがどう成長していくのか、というところを期待していただけたら何か面白いことがあるんじゃないかなと思います。何でもありの作品なので、何度も見返して楽しんでいただければうれしいです。
(取材・文/塚越淳一)
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