アイスホッケーに青春をかける少女たちを描くメディアミックスプロジェクト「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」。
2021年10月6日にはTVアニメ「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」が放送スタートするほか、スマホゲーム「プラオレ!~SMILE PRINCESS~」も開発中。9月18日の京まふでは主演キャスト7名による声優ユニット「SMILE PRINCESS」(チームプラオレ!改め)の本格始動が告知されるなど、注目度が高まるネクストブレイクコンテンツだ。
そんな折、本作は製作総指揮の落合雅也さんの強烈なアイスホッケー愛が出発点になって生まれたという噂を耳にした。光る長期コンテンツの立ち上げには、魅力的で面白いおじさんの存在があると考える筆者とアキバ総研編集部Aは、アニメ放送前に急遽、落合氏のロングインタビューを実施した。作品が生まれるまでの経緯と、ほとばしるアイスホッケー愛についてご一読願いたい。
──「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」のプロジェクトは、落合さんのアイスホッケーに対する情熱から生まれたとうかがいました。コンテンツの題材に「アイスホッケー」を選んだ経緯から教えて下さい。
落合 単純に僕がアイスホッケー好きだからです。幼稚園から大学までアイスホッケーをやっていて、趣味としては今でも続けています。
──幼稚園から! どのあたりの土地でやられていたんですか?
落合 アイスホッケーといえば北国のイメージがあると思うんですが、僕は千葉県船橋市の出身なんです。
千葉県って、かつては松戸にスケートリンクがたくさんあって、ジュニアチームがいくつもあったんです。幼稚園の時にホントたまたまホッケーに触れる機会があり、そして小学校に上がる時に恩師からスケートをはいてホッケーをやってみないかと誘われて、まずはアイススケートの練習をみっちりやりました。それで小学四年生かな? 品川プリンスJr.アイスホッケークラブという関東有数の強いホッケーチームに入って、そこからはもうホッケー漬けの人生ですね。
──ではかなり高いレベルで競技としてのアイスホッケーをやられていたんですね。
落合 中学・高校は地元の千葉で県選抜に入って国体とかに出ていました。大学は、全国優勝を狙えるぐらいの強豪である早稲田大学に行ったんですが、スポーツ推薦が取れるような強豪高校ではなかったので、一浪して一般入試で入って、アイスホッケー部の門を叩きました。
──大学アイスホッケーで落合青年はどうだったんでしょうか。
落合 アイスホッケーは地域差のあるスポーツなので、そんなに強くない地域だとそれほど傑出していないプレイヤーでも目立てるんです。だから僕は千葉県では県選抜の主将とかもしていたし、大学でもレギュラー取れるだろうとうぬぼれていました。
でも大学に入ると、北海道とか、それこそ栃木の日光とかからトップクラスに強い選手がバンバン入ってくるんですよ。やってみると4年間、ものの見事にずっと補欠で、結構ショックでしたね。小さい頃は自分も、将来は実業団に入ってホッケーをやるような夢を描いていたので。その4年間の悔しさと、同級生や仲間に負けたくない気持ちは社会人になってからも原動力になっています。
──大学でホッケー選手としての挫折を経験したんですね。
落合 卒業後は日本コロムビアで何年かプロモーターをやって、2002年にCyberAgentに入社しました。今、僕より早く入社した社員って数えるぐらいしか残ってないんじゃないかな? 趣味としてのホッケー(厳密にはインラインホッケー)は続けていました。当時は企業がプロ野球の球団を買収したり、CyberAgentが東京ヴェルディと資本提携したりの時代で、いつかはアイスホッケーのチームを持って……なんて若気の至りの夢想をしたりもしていました(笑)。
──それがやがて、違った形で仕事としてアイスホッケーに関わっていく形になったわけですね。
落合 4、5年ぐらい前かな、次のビジネス及び自分の新しいキャリアをどう描くかを考えていて、アニメとゲームを融合した形で、かつ「適正なサイズ」でヒットを出したいと考えていまして。ちょうどAbemaTV(現ABEMA )が開局した時期だったので、アニメーションとのシナジーで会社にも貢献できるなと思ったんです。
では何をコンテンツの題材にするかと考えた時に、自分が心血を注げるのはアイスホッケーか、年間400杯食べるラーメンしかないなと……ラーメンは冗談です(笑)。自分が自信を持って世の中に送り出せるのはアイスホッケーしかないと考えました。
大学時代補欠だった悔しさとか、若い頃のホッケーチームを持ちたいという馬鹿げた夢だとか、そういったものの行き着いた先というか。今、競技としてのアイスホッケーって大変厳しい状況のマイナースポーツなので、なんとかその状況を変える手助けがしたいし、長年携わっているコンテンツ業界で自分が手がけたと胸を張って言えるものを生み出したい。こういったものが一致して、はじめたプロジェクトです。
──ではコンテンツとしてドカンと当てて、アイスホッケーのチームスポンサーに、なんてことになれば痛快ですね。
落合 まあまあまあ、そこまでは実は全く考えてないです。先ほど「適正なサイズで」と言いましたが、ビッグヒットを狙うのではなく、アニメもゲームもまずはしっかり投資回収できて、第2期をやれる状況までしっかり持っていきたいってのが本音です。
──先ほどの落合さんの大学時代のお話を聞いていて、あ、日光ってそんな全国トップクラスの強豪ホッケー選手を排出する土地なんだ、と恥ずかしながら思っていました。
落合 そうですね、関東でアイスホッケーと言えば日光ですね。最近だとスポーツ強豪校で知られる埼玉栄高校のアイスホッケー部なんかも全国クラスの強豪です。
落合さんと田中宏幸Pの人生を感じさせるスタッフワーク
──「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」の原作は「プラオレ!メディアミックスパートナーズ(CyberAgent/EXNOA)」という名義になっています。これはCyberAgentとEXNOAの2社で完結しているのですか? それともいわゆる製作委員会の幹事社ということなのでしょうか。
落合 まず、権利表記のところに各社の名前がぞろぞろ入るのが嫌だったのと、製作委員会という名称が好きではないのでこのようになりました。基本的にその2社とグループ会社だけです。
──ではたとえば、作品関連のCD流通などはDigital Doubleが担当する?
落合 そうですね。Digital DoubleはCyberAgentの100%子会社で、僕が代表をやっていますが、ある意味CyberAgentの一部署のような感覚なので。CyberAgentグループで流通から何からやっていくというイメージです。
──なんでもできる企業としての強みを生かしていく。
落合 そうですね。アニメ事業本部というのを新たに立ち上げて、その完全オリジナルアニメタイトル第1弾が「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」ということになります。
──DMM GAMESを運営するEXNOAと一緒にプロジェクトをやることになった経緯を教えて下さい。
落合 僕は10年前からゲーム事業をやっていまして、EXNOAさんとは、以前からおつきあいがあって、仲良くさせてもらっていました。
僕がアイスホッケーのアニメとゲームを作りたいなと思っていた時にたまたまその話をDMMさんにしまして、一緒にアイスホッケーを見に行ったりしているうちに、一緒にやろうよという話になりました。うちがアニメを担当、EXNOAがゲームを担当するということに落ち着きました。
──ゲーム画面を見る限りだと、がっつりアイスホッケーで対戦しているように見えます。アイスホッケーとしてのゲーム性にはこだわった感じでしょうか。
落合 システムとしては、デッキを組んでカードを引いていって勝ち負けがあってという形になっています。スポーツのスピード感、練習して強くなっていって、試合に勝ったり負けたりという感覚を形にしたかった。スポーツを扱った先輩タイトルたちを参考にしつつ、アニメファン、声優ファン、美少女キャラクターが好きなファンにも刺さるものをしっかり作ろうと考えています。
──お話をうかがっていると、アイスホッケー業界との勘どころを押さえた連携だったり、Craft Eggが原作キャラクターと衣装デザインを担当していたりというところに、落合さんのこれまでの歩みを感じます。アニメに関しては村上貴志プロデューサー、シリーズ構成の待田堂子さん、音楽のMONACAといった顔ぶれにゼネラルプロデューサーの田中宏幸さんの色も強く感じますね。
落合 田中は僕のレコード会社時代の同期なんですよ。おっしゃるとおりアイスホッケーのコンテンツを作るうえでアイスホッケー側のラインアップは僕が揃えたし、アニメ側のラインアップは田中が揃えた感じです。2人の合作というか、すべての経験が詰まった作品にはなっていますね。
アニメのホッケー描写は隅々まで落合さんがみずから監修
──先日の「京まふ」で公開されたアニメMVを拝見しましたが、アイスホッケーの描写の緻密さや迫力がものすごいですね。
落合 早く見てもらいたいのですが、アニメ本編でのアイスホッケーのボリュームもすごいですよ。特に後半はずーっとホッケーシーンなんじゃないかと思うぐらい試合をやっていますし、力が入っています。ガチのスポーツアニメです。ホッケーシーンの演技指導は僕がやっています。
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──演技指導、というと声優さんの?
落合 いえ、絵のほうです。V編とかダビングのスタジオに、右利き左利きのホッケースティックを持ちこんで、気になるシーンでは映像を止めて、ここの振りはこうじゃないとか、ここの足運びはこうですとか指定して、直してもらってるんです。ホッケーシーンはほぼ100%監修しています。
脚本から絵に起こす段階で、監修に入ってもらっている日光アイスバックスの衣笠さんが試合映像を切り抜いて資料として送ってくれるんです。安齋(剛文)監督はクオリティの高い絵コンテを自分で描ける優秀な監督なので、衣笠さんから受け取った動画を元に監督が絵コンテを切って、その段階で僕もチェックしています。ただやはり絵になって上がってくると、スティックの持ち方から違ったりするので、全部修正してもらってます。
──こだわりに圧倒されています。普通「製作総指揮」の肩書の人がする作業ではないですよね。
落合 僕はびっくりするぐらいアニメの素人なんです。(アニメに携わるのが)初めてなので。だから全部自分で学びたいし経験したかったんですよ。
正直言って最初はめちゃくちゃ煙たがられたし、今でも煙たがっている人はいると思います(笑)。ただホッケーのひとコマひとコマの描写について、ここはこうだよ、と自信を持って言えるのは、スタッフの中で自分しかいないんです。だから自分がやるしかないし、アイスホッケーの作品を世に出すうえで違和感のあるものにはしたくないんです。
仮に、ホッケーに興味を持つ人が2割、アニメファンが8割だとするじゃないですか。その2割の人がこの作品で描かれているアイスホッケーは本物だとつぶやいてくれることで、アニメファンの人がよりこの作品はホンモノなんだと安心してくれるきっかけにもなると思うんです。
──作品に説得力が生まれる。
落合 だからそこには手を抜きたくないと最初から思っていました。制作の中でチームもどんどん成長しているし、後半になるにつれて実際のアイスホッケープレイヤーが見ても鳥肌が立つぐらいのホッケーアニメに仕上がっています。期待してもらっていいんじゃないかと思います。
──逆にアニメを見てから現実のアイスホッケーを見るという楽しみ方もできそうですね。
落合 そういう風に見てもらえたらとても嬉しいです。
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──先日の京まふでは、番組オープニングテーマを担当するチームプラオレ!が「SMILE PRINCESS」として活動することが発表されました。声優ユニットとして継続的にライブなどで活動していくということでよいのでしょうか。
落合 はい、声優キャストのメインの7人が「SMILE PRINCESS」として活動していきます。確か2019年に安斎監督と田中とニューヨークにNHLという本場のプロリーグの試合を観戦しに行ったのですが、もうそれはそれは日本とは比べ物にならないぐらいのエンターテインメントでして。ピリオド間に女性チアのショーがあったんですが、作中の「ビクトリーダンス」という要素はその辺を参考にしました。日本で言うと、甲子園で勝ったほうが校歌を歌うイメージですね。なので、「SMILE PRINCESS」の7人には、いつの日かアイスアリーナでもLIVEをやってほしいと思いますし、大きくはホッケーに限らずさまざまなスポーツを応援するユニットに育ってほしいなと思っています。僕と田中はやはり音楽畑出身で音楽が好きですし、そこが強みでもあると思っています。
──YouTubeでの活動にも力を入れている印象です。
落合 YouTubeはメディアとしてテレビを凌駕しかねない存在になってきていますし、コロナ下で一番効果的なプロモーションだと考えてはじめました。新人の声優たちの成長過程をファンと共有する一番いい方法が「YouTube」だと思ったんですよね。
あとはキャストにも作品にちゃんと想いを入れてほしいと思ったので、去年の12月に霧降(アイスアリーナ)にキャスト7人をつれて、試合観戦に行ったんです。やはり実際にアイスホッケーを見てもらわないと、僕がどれだけ熱く語ってもなかなか伝わらないと思うので。(その結果)みんな一発でアイスホッケーの虜になってくれたし、実際にインラインスケートを体験したりね。
作品とアイスホッケーに対する思い入れを形成してもらうのと、7人の絆が深まっていくのを同時にやる場に(YouTubeが)なっていると思います。
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──10月6日にはTVアニメ「プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~」がスタートします。最後にあらためて全体的な見どころを聞かせてください。
落合 全力で学びながら、でも一切妥協はせずに作っています。各話ごとに人と物語にすごくフォーカスできているのを感じます。この話はこの子のこういうところ、この話はこの子のこういう魅力というのが描かれて、リレー形式でつながっていく感じです。別れであったり出会いであったりとか、つながったストーリーを最後まで楽しんで見てもらえるんじゃないかと思います。そこはシリーズ構成の待田さんが、本当にがんばってくれました。ドラマ要素にも自信があるので、ぜひ見てほしいなと思います。
(取材・文・撮影/中里キリ)