CGディレクター・吉田裕行 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第51回)

2021年10月02日 09:000

アニメCG創成期にサンライズ入社


─キャリアについて簡単にうかがいます。サンライズご出身とのことですが、最初からアニメ業界を志望されていたのですか?


吉田 それが違うんですよ……。僕はもともと大学の経済学部で、アニメや映像とは全然関係のないことをやっていたんです。ただ、昔から音楽は好きで、絵を描くのも好きだったので、大学時代からライブ告知のポスターなどを描かせてもらっていました。卒業間際になってようやく「自分は何をやりたいのかな?」と真剣に悩み始めるようになって、「自分はゲームが好きだから、CGを作る仕事に就きたいな」と思い、親に頭を下げて、CGの専門学校に入り直したんです。パソコンに触ったのは、専門学校に入ってからのことでした。


─専門学校卒業後は、どういった就職活動を?


吉田 在学中は漠然と「ゲーム会社でモデラーとかになれればいいな」と思っていて、実際、ゲーム会社にもポートフォリオを送りました。でも、子供の頃からサンライズのアニメが大好きだったので、サンライズにもポートフォリオを送ってみました。ゲーム会社は何社も受験したのに、アニメ会社で受けたのはサンライズだけなんですよ。アニメの中でCGがどう使われるかもわかっていなかったんですけど、幸いにも内定をいただけたので、これもご縁かなと思ってサンライズに入社しました。僕の同期には監督の綿田慎也さんや、プロデューサーでSUNRISE BEYOND代表の小川正和さんがいまして、2000年代初頭のアニメCG創成期に業界に入れたのもよかったと思っています。


─サンライズに送ったポートフォリオは覚えていますか?


吉田 ロボットばかりというわけではなく、キャラクターだったり、背景だったり、サメだったり……とにかく雑多でしたね。サンライズ向けじゃないポートフォリオだったと思います。


─サンライズに約6年在籍したとのことですが、どういった作品に関わっておられたのですか?


吉田 子供向けを多くやっていまして、「激闘! クラッシュギアTURBO」(2001~03)、「出撃! マシンロボレスキュー」(2003~04)、「古代王者 恐竜キング Dキッズ・アドベンチャー」(2007~08)とかですね。あとは、「ゼーガペイン」(2006)や、ガンダムシリーズだと「機動戦士ガンダム MS  IGLOO」(2004~09)もやらせていただきました。アニメのCG作業以外には、「ガンダムエース」など、雑誌用のCGも作りました。


─「MS IGLOO」はフル3DCGアニメでしたね。


吉田 僕が所属していた部署のプロデューサーだった今西隆志さんの発案・監督で、僕は「黙示録0079」(2006)までの6本を、一緒にやらせていただきました。


─師匠的な方はおられますか?


吉田 4人ほどいまして、まず最初に、今西さんには本当にお世話になりました。「MS IGLOO」の時は、今西さんのコンテを読み込んでいましたので、コンテ・演出面でも今西さんの影響は大きいと思います。「恐竜キング」のCGディレクターだった井上喜一郎さんも、動きのケレン味やレイアウトセンスが抜群で、井上さんに近づきたくてがんばっていました。サンライズで僕の教育係をしてくださった山田豊徳さんからは、CGのワークフローだったり、チェックにおける心構えだったり、CGデザイナーとしての基本的なところをしっかり教えていただきました。あとは、白組に入ってからになりますが、監督の高橋正紀さんからも、今の自分を形作るうえで大切なことをたくさん学びました。

 

「Demon's Souls」でCGディレクターに


─CGディレクターデビューは、白組に入られてからでしょうか?


吉田 そうなんですけど、初めてCGディレクターをやらせていただいたのは、アニメじゃなくゲームで、フロム・ソフトウェアさんの「Demon's Souls」(2009)のオープニングムービーです。アニメは、タツノコプロさん制作のOVA「参乗合体 トランスフォーマーGo! 」(2013)が最初です。


─「BABY GAMBA」(2014)では、CGディレクターだけではなく、第6話と第9話のコンテ・演出もされていますね。


吉田 監督の河村友宏さんには、白組入社時からとてもお世話になっていまして、「演出に興味があるなら、やってごらんよ」と気さくにお声がけいただいたのがきっかけでした。


─サンライズから白組に移られたのはなぜでしょうか?


吉田 憧れのサンライズで働けてすごく楽しかったんですけど、30歳になる前になって、「アニメ業界の中だけで、CGを続けていっていいんだろうか……」と悩むようになりまして。それで、自分のCGの幅を広げるために退社を決意して、日本トップクラスの3DCG制作会社である白組で、映像全般にチャレンジしてみようと思ったんです。

 

 

白組で経験した「意識改革」


─キャリア上、転機になったお仕事は?


吉田 やっぱり白組に入ったことが、転機になりました。仕事の幅が広がっただけではなく、意識改革みたいなものもあったんです。なかでも、「DARK SOULS」(2011)のオープニングムービーを、監督の高橋正紀さんとご一緒させていただいたのは大きいですね。それ以前は、納期に向けて作品のクオリティを上げることだけに必死だったんですけど、高橋さんからは白組クリエイターとしての立ち振る舞いかた、お客様との打ち合わせの進めかた、現場のモチベーションを維持する方法など、いろいろなことを教えていただきました。


─「86」第2クールが10月に放送予定となっていますが、第1クールで印象に残っている話数やシーンがあれば、教えていただけないでしょうか?


吉田 1話のアバンは、よろしければぜひ、観返していただきたいですね。石井監督に割と任せていただいたところでして、アトラクション映像というか、戦場感がすごく伝わる映像に仕上がっていると思います。監督からシナリオを1ページ分見せていただき、「これをフルCGでやりたいんです」、「ワンカット風でお願いできますか?」とうかがいました。地形感や芝居動線から提案を行い、キーワードや調整依頼は都度いただきましたが、それ以外はこちら側で自由にやらせていただけたので、緊張感はありつつも、とても楽しく画作りができました。今アバンを観ると、シンがどういう軌道上で敵を倒しているのかとか、ブレードをどう使っているのかとか、よくわかると思いますよ。

 

よりよい作品を作るための「提案力」


─CGディレクターに必要な資質能力とは何でしょうか?


吉田 携わる作品のことをよく考えて、その中でCGができること、CGがより生かせるところを見極めて、監督に相談し、提案できること。つまり、「提案力」が必要なんだと思います。監督がやりたいこと、言われたことをきちんとこなすのは前提として、監督やクライアントときちんとお話をして、よりよい作品を作るための提案をしっかりやっていく、作品をいい方向に持っていくための下準備をする、というのがすごく重要だと思います。


─白組の新人採用基準は、どうなっているのでしょうか?


吉田 ある程度ツールを使えることが前提で、プラスアルファで映像感覚やモノづくりの目線が高い人を入れることが多いので、新卒の敷居は高いほうだと思います。こちらからスカウトさせていただくこともありまして、ツイッターなどですばらしい作品を発表されている方もおられるので、そういう方にはこちらからお声がけをしています。


─現在のアニメ業界について、何か思うことはございますか?


吉田 発信媒体が変わった、というのは結構大きいと思います。ストリーミングサービスが、3年前とは全然違うじゃないですか。今は、世界中の人たちに同時に作品を観ていただける環境があるので、自分たちの作品を観ていただける機会が一気に増えたと思っています。そのいっぽうで、普段アニメを観ていなかった人が、ご覧になる機会も増えましたので、作品のヒットや生き残りもシビアになってきています。


技術的なことをひとつ言えば、ゲームエンジンの「Unreal Engine」の進化には注目しています。「Unreal Engine」は、昔はゲーム会社だけが使っていた技術なんですけど、今では、僕たちのような映像屋も使うようになりました。こうした技術の進歩に伴って、作り方、生産効率、表現の幅というものがどんどん変わっていくんじゃないかなと思っています。


─今後挑戦したいことは?


吉田 これからも自分がCG屋として培ったものを生かして、さまざまな映像作品に挑戦していきたいです。やらせていただけるなら、演出に関わるお仕事も引き続きやっていきたいですね。


─「86―エイティシックス―」第2クールを楽しみにされている方に、ひとこといただけますか?


吉田 新しいメカが出てきて、物語も戦闘もスケールアップしていますので、大勢の方に観ていただければうれしいなと思います。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


吉田 僕みたいな裏方に声をかけていただいて、本当にありがとうございました。今回のインタビューで白組に少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひ過去に白組が手がけてきた映像作品もご覧になってみてください。アニメ、ゲーム、実写、MV……何でも結構です。これからもよりよい作品づくりにはげんでまいりますので、白組を今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

 


●吉田裕行 プロフィール
CGディレクター、演出家。茨城県出身。株式会社白組所属。大学経済学部卒業後、専門学校で3DCGを学び、株式会社サンライズに入社。アニメのCGアーティストとして「激闘! クラッシュギアTURBO」(2001~03)、「機動戦士ガンダム MS IGLOO」(2004~09)、「ゼーガペイン」(2006)等に参加した後、白組に転籍。実写、ゲーム、CM、MV等、アニメ以外の映像制作にも関わり、PlayStation 3用ゲーム「Demon's Souls」(2009)のオープニングムービーでCGディレクターデビュー。「BABY GAMBA」(2014)ではコンテ・演出、「夢の浮世に咲いてみな」(2015)や「にゃんぼー!」(2016~17)ではCGと実写の合成も手がけた。近作の「22/7(ナナブンノニジュウニ)」(2020)、「86―エイティシックス―」(2021)、「Fate/Grand Order -冠位時間神殿ソロモン-」(2021)は大ヒットを遂げ、今後の活躍にますます期待が高まっている。


※TVアニメ「22/7(ナナブンノニジュウニ)」公式サイト
https://227anime.com/

※TVアニメ「86―エイティシックス―」公式サイト
https://anime-86.com/

※劇場アニメ「Fate/Grand Order -冠位時間神殿ソロモン-」公式サイト
https://anime.fate-go.jp/ep7-tv/

※株式会社白組 公式HP
https://shirogumi.com/

※吉田裕行 ツイッター
https://twitter.com/hiroyuk98571188


(取材・文:crepuscular)

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